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米国マサチューセッツ州エセックス郡のローレンス。古くから繊維産業で栄えた町である。労働を支えるのは、アイルランド、フランス、イタリア、ドイツ、ベルギー、ポーランド、リトアニアなど、欧州のあらゆる地域からの移民たち。労働環境は厳しく、また危険なものでもあった。
1912年、マサチューセッツ州は女性の労働時間を短縮する新法を成立させ、週56時間の労働時間を週54時間に減らし、それによって2時間分の賃金をカット。1月11日、賃金減少に気づいたローレンスの衣料品労働者たちはストライキに突入。参加者は約2万人、その大部分は女性たちだった。大規模なストライキは約3ヶ月にわたり、そこで掲げられたスローガンが“Bread and Roses”である。パンは最低限の生活を、薔薇は豊かに生きるための尊厳と感謝、すなわち人権と公正を意味している。
なぜパンと薔薇なのか。慈善活動や貧しい人々への配慮で聖女に列聖されたハンガリーのエリザベート王妃(1207~31年)にまつわる伝説が背景にあるといわれている。夫である国王の意に反し、密かにパンを貧しい人々に配っていた彼女。ある晩、それを見とがめられ、籠の蓋を開けさせられるのだが、中にあったのは、なんと薔薇の花であった。
ケン・ローチ監督による同じタイトルの作品が《映画コレクション》にある。ロサンゼルスを舞台に、労働条件の改善を求める中南米からの移民労働者の運動を、ユーモアをまじえながら描いた社会派ドラマだ。移民労働者たちが掲げた政治的スローガンは、ここでも“Bread and Roses”。最低限の生活と豊かに生きるための尊厳は、たとえ時が流れ、場所が異なれども、けっして変わることがない。
ケン・ローチの作品は2000年だが、1967年の東独を皮切りに、ニュージーランド、アフガニスタン、ボストンなど、世界中で同名の作品が作られてきた。いずれも労働者や女性の権利を軸にしたものである。2018年、米国メリーランド州で《ブレッド&ローズ党》という政党が結成された。英国には《ブレッド&ローズ賞》という文学賞があり、2012年から授賞がおこなわれている。
今や移民労働者がゼロの国などない。それにもかかわらず、欧州各国では移民排斥を訴える声が高まっている。移民嫌いのドナルド・トランプが大統領に返り咲いた米国はどうなるだろうか。そして今の日本は…。
米国の詩人ジェームズ・オッペンハイム(1882~1932年)は、女性参政権論者であり労働者の権利を訴えた活動家ヘレン・トッド(1870~1953年)の演説に感銘を受け、1912年に“Bread and Roses”の題で詩を書いた。1976年、この詩にマルガリータ・ミミ・バエズ(1945~2001年)によって曲がつけられる。あのジョーン・バエズの妹なのだが、ミミ・ファリーニャの名の方が通り良いかもしれない。この曲は瞬く間に大ヒットし、バエズ姉妹をはじめ、ピート・シーガー(1919~2014年)、ユタ・フィリップス(1935~2008年)、ジュディ・コリンズ(1939年~)、アーニー・ディフランコ(1970年~)など、多くの歌手に愛され、歌い継がれてきた。
やはり《映画コレクション》にあるマシュー・ウォーチャス監督作品の『パレードへようこそ』ではサッチャー政権下の炭鉱労働者とゲイの共闘が描かれる。手を取り合う道を模索しながらも、互いに違和感を拭いきれない両者。そんな中、一人の女性が立ち上がって静かにこの歌を歌い出す。一人、また一人と、女性が立ち上がって唱和する。気がつけば、男性を含めみなが歌っている。社会から疎外される者同士を歌が結びつけたのだ。涙腺が刺激される場面である。
ここではジョーン・バエズと並ぶ偉大なフォーク歌手であるジュディ・コリンズの歌声で聴くことにしよう。アルバムのタイトルも、ずばり“Bread and Roses”。これ以上、蘊蓄を語るようなことはするまい。それよりも彼女の美しい声と歌詞の深さに耳を傾けてほしい。その方がはるかに意味があるというものだ。
折しもトランプ政権は名門ハーバード大学に対し、多様性・公平性・包括性(DEI)重視の中止や、学生らの取り締まりの強化を求め、大学側はこれを拒否した。連邦政府は同日、同大に対する約23億ドル(約3300億円)の補助金や契約を凍結すると発表。どちらも教育が社会に与える影響を知っているからこその対立である。どうする、ハーバード大学の学生、教職員たち。どうする、アメリカ社会。一言だけいわせてもらうならば、「アメリカの人々よ、あなたたちには自由と正義を求めて闘うための歌があるではないか。いま歌わずして、いつ歌うのだ」と。
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《 ジュディ・コリンズ:ブレッド&ローズ 》

〈 歌詞 〉 Bread and Roses
As we go marching, marching, in the beauty of the day,
A million darkened kitchens, a thousand mill lofts gray,
Are touched with all the radiance that a sudden sun discloses,
For the people hear us singing: Bread and Roses ! Bread and Roses !
As we go marching, marching, we battle too for men,
For they are women’s children, and we mother them again.
Our life shall not be sweated from birth until life closes;
Hearts starve as well as bodies; give us bread, but give us roses.
As we go marching, marching, unnumbered women dead
Go crying through our singing their ancient call for bread.
Small art and love and beauty their trudging spirits knew.
Yes, it is bread we fight for, but we fight for roses too.
As we go marching, marching, we bring the greater days,
For rising of the women means the rising of the race.
No more the drudge and idler, ten that toil where one reposes,
But a sharing of life’s glories: Bread and Roses.Bread and Roses .
Our lives shall not be sweated from birth until life closes;
Hearts starve as well as bodies; bread and roses, bread and roses.
〈 日本語訳 〉
美しい陽ざしの下で歩み続ければ
幾百万もの暗い台所、幾千もの灰色の工場の屋根裏部屋も
たちまちにして日の光に包まれる
人々のために私たちの歌を聴かせよう パンと薔薇! パンと薔薇!
歩み続ける私たちは、男たちのためにも闘う
彼らもまた女から生まれ、母たる私たちにとっては同じだから
生まれてから死ぬまで搾取され続けてはならない
肉体と同様、心もひもじい パンだけでなく薔薇をください
歩み続ける途上、数多の女たちが斃れていった
パンを求めた古(いにしえ)に思いを馳せ、歌いながら叫ぼう
小さな技、愛、美を、足取り重いあの魂たちは知っていた
そう、私たちはパンのために闘い、薔薇のためにも闘う
歩み続ける私たちは、より良い日をもたらす
女が立ち上がるということは、すべての人が立ち上がるということ
もはや怠け者もいなければ、一人が楽をする中で十人が骨を折ることもない
人生の栄光を分かち合おう パンと薔薇だ! パンと薔薇だ!
生まれてから死ぬまで搾取され続けてはならない
肉体と同様、心もひもじい パンと薔薇を! パンと薔薇を!
《 収録曲 》
1. Bread and Roses
2. Everything Must Change
3. Special Delivery
4. Out of Control
5. Plegaria a Un Labrador
6. Come Down in Time
7. Spanish Is the Loving Tongue
8. I Didn’t Know About You
9. Take This Longing
10. Love Hurts
11. Marjorie
12. King David
下の動画は上記のCDに収録されているジュディ・コリンズの歌です。
この下の動画ではさまざまな場所でのデモの写真を背景にジョーン・バエズの歌声を乗せています。
最後の動画は昔の写真で構成されています。
(しみずたけと) 2025.4.17
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