このページ内でワード検索ができます。Windowsパソコンでは「Ctrl+F」、Macパソコンでは「Command+F」

抵 抗

映画にみる民主主義を求める韓国社会の姿

1980年の光州事件。韓国の国民は、李承晩政権時代から政治闘争を繰りひろげてきたが、民主化闘争に火がつくのはここからだろう。しかし、当時世界が注視していたのはソ連によるアフガニスタン侵攻であった。ソ連に対する西側諸国の非難は、同年のモスクワ五輪ボイコットに結びつき、その報復が、東側諸国による84年のロサンゼルス五輪ボイコットとなる。当時大学生だった私は、ソ連の軍事侵攻を非難し、五輪の政治利用に憤りを感じたものだが、隣国である韓国で何が起きていたのかをまったく知らなかった。いま思えば恥ずかしいかぎりである。

東西冷戦体制下、日本は西側の一員として、反共の防波堤と呼ばれた。しかし、真の防波堤は日本ではなく、韓国と台湾だったのである。アジアで東西世界を分けていたのは、38度線と台湾海峡であり、日本海などでは断じてなかった。ソ連及び中国・北朝鮮と直接対峙するゆえ、米国にとっては、安定的な反共国家であることが第一義であり、抑圧的な軍事政権であることなど問題ではなかった。だからこそ、日本は防波堤の内側でぬくぬくと“戦後民主主義”などとうそぶいていられたのである。人権とか民主主義など、米国は今も昔も、口にする割りには重視していないことを、今や誰でも知っていることだ。

日本という侵略者から土地や生活を守るために抵抗した記憶、国家の政策によって民族が分断された朝鮮戦争の苦悩、その後の抑圧的な政権。待っているだけでは何も変わらないことを、歴史の中で嫌というほど経験させられてきた韓国の人々は、声を上げ、立ちあがることを選択した。それが光州事件であり、87年の民主化闘争を経て今日につながっている、現在進行形の民主主義といえよう。

韓国の人々の民主主義を求める行動力は、それを手にするまでの過酷な経験に根ざしている。敗戦によって、GHQから“与えられた”日本とは、過程も本質もまるで違うのだ。この差異こそが、民主主義の危機的状況にある中で、日本の大衆が無関心でいられる決定的な要因なのだろう。ここに紹介する映画から、私たちの社会や私たち自身に何が足りないのかを感じ取ってほしい。また、このような作品は、わが国ではいったいどれくらい制作されているだろうか。彼我の差も考えてみようではないか。 T.S.

「済州四・三」事件のドキュメンタリー
レッドハント
監督:チョ・ソンボン  1997年・韓国 74分

韓国の済州島は、日本人にも馴染みの観光地だという。映像は、美しい海と山をあわせ持つこの島で、五十年前起こった悲劇の跡を辿っていく。「済州四・三」と呼ばれるこの事件は、つい最近まで韓国現代史のタブーだった。

1945年、朝鮮は日本の植民地支配から解放された。朝鮮国内には、民主的な独立国家をめざす建国準備委員会が作られ、国民の圧倒的な支持を得た。しかし、朝鮮半島南部を支配していたアメリカ軍政は左翼弾圧政策を次第に強め民衆の自立的な運動を次々と潰していった。こうした背景の中、48年4月3日、警察と右翼の圧迫に耐えかねた済州島の左派勢力と住民は、島内の警察署を襲撃する。権力側の報復は、一年に及ぶ住民の無差別殺戮だった。

昨日の事のように人々は自らの体験をビデオの中で語っている。親が、兄弟が夫がどのように殺され、その死体をどうやって葬ったのか。飾り気のない言葉が、胸をうつ。「四歳五歳の小さな子どもたちは、子犬みたいな声を出して死んだ。『アイゴー』っていえなくて、キャンキャン泣いて殺されたんだよ」。私の脳裏に焼きついた言葉。事件の犠牲者は三万人とも八万人とも言われている。

映像は、アメリカ軍政が、日帝時代の警察機構を利用して徹底した民衆弾圧を行ったことを明らかにしている。日本の植民地支配は、敗戦とともに終止符を打ったのではなく、その後の朝鮮の歴史にも癒しがたい傷を与え続けたことを、私たち日本人はどれほど自覚しているだろうか。(ビデオプレス・佐々木有美)

韓国民主化運動の悲劇
光州 5.18
監督:キム・ジフン  2007年・韓国 121分

1980年の5月、民主化を求める学生と戒厳軍が衝突した。一般市民も加わり、街をあげての10日間にわたる国家権力との対決。多くの犠牲者を出すこととなった光州事件の悲劇をリアルに再現しながら、ごく普通の学生たちの生き様を描く人間ドラマである。

両親を早くに亡くしたタクシー運転手の青年。ある日、彼は親代わりとなって面倒を見てきた弟と、思いを寄せるものの告白できずにいる、弟と同じ教会に通う看護師との三人で映画を見に行く。映画館の外で始まった学生の民主化デモ隊と戒厳軍の衝突。それに巻き込まれてしまう三人の運命。

韓国語の原題は『華麗なる休暇』だが、これは光州事件の鎮圧を命ぜられた戒厳軍の作戦名である。名称と現実、民と軍のギャップについても思いを馳せたい。

民主主義を勝ちとるまでの苦悶
南営洞1985 国家暴力:22日間の記録
監督:チョン・ジヨン  2012年・韓国 106分

1985年、軍事政権下の韓国。公安警察に不当逮捕された民主化運動の中心人物が、目隠しをされて南営洞(ナミョンドン)の警察庁治安本部対共分室へと移送された。彼を反国家団体のメンバーにでっちあげようとする当局は、残忍な拷問技師を使い、22日間にもおよぶ壮絶な拷問を開始。本作は、1987年6月29日の「民主化宣言」のきっかけともなった、過去にはタブーとされていた国家権力による拷問事件を初めて映画化したものである。なお、こうした拷問の手法は、かつて朝鮮半島を支配した日本軍や日本の特高警察から継承したものであることを、われわれ日本人は忘れてはならない。

映画にせよ文学にせよ、朴正煕や全斗煥らの独裁政権、軍事政権時代のことを語ることができるようになったのは、やはり金大中が大統領になってからであろう。そう考えると、韓国の民主化というのはとても重要なターニングポイントだったと言える。そうでなければ、光州事件などの一連の民主化運動について、われわれは何も知らないままでいただろうから。

 
誰の、何のために…
偽りの隣人 ある諜報員の告白
監督:イ・ファンギョン  2020年・韓 130分

1985年、軍事政権下の韓国。厳しい弾圧から海外に逃れていた野党政治家のイ・ウィシクは、次期大統領選への出馬を表明して緊急帰国する。しかし、出馬阻止を目論む国家安全政策部によって自宅軟禁に。隣家には盗聴本部が設置され、諜報員のユ・デグォンは部下の二人と24時間体制の盗聴と監視をつづけている。目的は、ウィスクを共産主義者に仕立てるためであった。しかし、家族を愛し、国民の平和を願うウィスクの声に、諜報員たちは戸惑いはじめる。隣人としての交流も増え、徐々に自分たちの行動に疑問が湧き起こってくる。

韓国の民主化のために闘った人々
1987、ある闘いの真実
監督:チャン・ジュナン  2017年・韓国 129分

1987年の軍事政権下の韓国で実際に起きた、民主化運動の転換点となった大学生拷問致死事件の真相を、隠蔽に奔走する警察関係者とその動きに疑問を抱いた検事をはじめ、記者や看守、学生など事件に関わる様々な立場の人々の緊迫の人間ドラマを通して描き出した衝撃の実録群像劇。

1987年1月14日、抑圧的な軍事政権に反発する学生の民主化要求デモが激化する中、ソウル大学の学生が警察の取り調べ中に死亡する。対共分室所長は証拠隠滅のため、部下に遺体の火葬を命じる。一方、警察からの火葬申請を不審に思った検事は、上司の忠告を無視して司法解剖を強行し、拷問致死が判明。警察上層部は拷問を否定するが、検事に接触した東亜日報の記者によって死因が暴露されると、今度は部下の逮捕で事件の幕引きを図ろうとするのだったが…。

ページの先頭へもどる

民主主義を求め、手を取り合う
タクシー運転手 ~約束は海を越えて~
監督:チャン・フン  2017年・韓国 137分

1980年5月に韓国で起きた歴史的な民主化運動での悲劇“光州事件”を背景に、厳しい取材規制の中で現地入りしたドイツ人記者と、彼を乗せることになった平凡なタクシー運転手の、事実にもとづく使命感と友情を描いた感動ドラマ。

ドイツ・メディアの東京特派員が光州での極秘取材を敢行すべく韓国入りする。英語もろくに分からず、戒厳令下の厳しい言論規制の中にいるタクシー運転手は、記者の「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を払う」という言葉に、現地の深刻さに気づかぬまま引き受ける…というの設定だが、実はキム・サボク運転手とヒンツペーター記者は以前から交流があり、二人は民主化運動に関わっていたのだ。

『タクシー運転手』キム・サボク氏の長男「本当の父の姿を知らせたい」 http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html

国家権力と闘う弁護士
弁護人
監督:ヤン・ウソク  2014年・韓国 127分

高卒のソン・ウソクは猛勉強の末に司法試験に合格、晴れて判事となった。しかし学歴もコネもない彼は、横行する差別のために昇進の望みがない。やむなく弁護士に転身したが、そこで未開拓の分野である不動産登記業務に目をつけ、税務弁護士として成功する。ある日、行きつけの食堂の息子が公安当局に逮捕された。相談を受けた彼がやっとのことで拘置先を突き止め面会すると、身体には無数のアザ…。社会正義に目ざめ、冤罪を晴らすべく、たった一人で国家権力に戦いを挑む。盧武鉉(後の韓国大統領)の弁護士時代の実話を映画化した社会派ドラマ。主演はソン・ガンホ。

古典だが、はずせない名作
戦艦ポチョムキン
監督:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン  1925年・ソ連 66分

労働者のゼネスト、農民の暴動、従属民族の反乱が相次ぎ、革命の気運が軍隊の内部にまで高まって来た1905年のロシア。ゼネストが行われているオデッサの近くに停泊していた戦艦ポチョムキンでは、ウジ虫入りスープが供され、水兵たちが暴動を起こす。黒海艦隊が鎮圧に来るという知らせ。降伏か抗戦か。激しい討論の末、抗戦を選んだ水兵たち。夜になり、近づいてくる艦隊が見える。ポチョムキンは「我に合流せよ」の信号旗を上げる。双方が射程圏内に入る。戦いか、死か。緊張が高まる中、ポチョムキンの水兵たちが聞いたのは、津波のように押し寄せる「同志よ!」の声。第一次ロシア革命の中で起きたポチョムキン号の反乱を描いた作品である。モンタージュ技法など、近代映画の夜明けを告げる古典的名作。

アイルランド史、苦悩の1頁
マイケル・コリンズ
監督:ニール・ジョーダン  1996年・米 133分

1916年、イギリスからの独立を目指す指導者パトリック・ピアースの号令のもと、アイルランド革命軍が武装蜂起(イースター蜂起)。しかし計画が甘く、わずか一週間でイギリス軍に鎮圧されてしまう。後にアイルランド共和国大統領となるエイモン・デ・ヴァレラと共に、マイケル・コリンズも逮捕された。やがて釈放された彼はアイルランド共和国軍を率い、再び独立運動へと身を投じる。イギリス政府は最重要危険人物として、1,000万ポンドの懸賞金をかけるのだが…。アイルランド独立のために戦った実在の男たちの物語。

愛するものを奪われる悲劇を、なぜ人は繰り返すのだろう
麦の穂をゆらす風
監督:ケン・ローチ  2006年・英/アイルランド/独/伊/西 126分

長きにわたってイギリスの支配下にあったアイルランド。疲弊した人々も、1920年になると、独立の気運が高まってきた。南部のコークで、青年デミアンが医者への道を捨て、兄のテディと共に武器を取って独立戦争に身を投じることを決意する。イギリス軍との激しい戦いの末、両国間で講和条約が締結。しかし、完全な独立からは程遠い内容に、条約への評価を巡ってアイルランド人同士の間に賛成派と反対派の対立が生まれ、内戦になってしまう。デミアンも、兄テディと敵味方に分かれて戦うことに…。

名匠ケン・ローチが、二人の兄弟を軸に、独立戦争から内戦へといたる悲劇のアイルランド現代史を描いた作品。2006年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた。

アイルランドは英国最初の植民地だった
隠された真相 (英語版)
監督:ケン・ローチ  1990年・英 107分

北アイルランド郊外を走行中の車が何者かに襲撃され、乗員が射殺されるという事件が起きた。殺害されたのは、国際人権団体で働くアメリカ人弁護士。ハリスという謎の男に託されたテープを聞き、本人に会って確認するために約束した場所に向かう途上だった。英国政府は敏腕のケリガン刑事を派遣。被害者の元同僚イングリッドの協力を得て調査を開始し、テープに残された内容が、政治汚職に関わる重要証拠であり、北アイルランド治安部隊が事件に関わっていることが明らかになる一方、捜査に目に見えぬ圧力がかかり始める…。

政治的陰謀の犠牲になった男の死をめぐり、その真相解明に挑む刑事の孤独な戦いを描いた政治スリラーだが、背景にあるマーガレット・サッチャーの政治的台頭が、選挙結果というより、米国が支援したピノチェト将軍によるチリのクーデターとの類似性、IRAのテロを非難した警察と右派政治家たち自身が国家主導のテロに従事していたことを示唆している。日本語版がリリースされていないのが惜しい作品。

ページの先頭へもどる

スペイン内戦の理想と挫折
大地と自由
監督:ケン・ローチ 1995年・英/西/独 110分

世界の人々が理想を掲げ、正義と自由のために戦ったスペイン内戦。ファシズムと反ファシズムの戦いだけでなく、反ファシズム内にあったスターリン主義と反スターリン主義の対立も描かれる。ケン・ローチが描く、嵐の中心に飛び込んだ若者たちの栄光と挫折、そして彼らへのコンパッション。民衆を見つめる彼の目はいつもやさしくて温かい。日本語版のリリースを期待したい。

完全なる自由を求めて
リベルタリアス 自由への道
監督:ビセンテ・アランダ  1995年・西 121分  NHK・BS2で放送されたもの

スペイン内戦の勃発で、尼僧のマリアは修道院から逃げることを余儀なくされる。売春宿に避難していた彼女を解放したのは、女性の無政府主義グループ。マリアもそのグループに加わり、最前線に立つことに。 女性グループは、ファシストだけでなく、旧来の軍事構造を課そうとする左翼組織とも戦わなければならなくなるのだが…。日本語版のリリースを期待したい。

現実と空想の交錯から開ける世界
ミツバチのささやき
監督:ヴィクトル・エリセ  1973年・西 99分

スペインのとある小さな村。ここに『フランケンシュタイン』の巡回映画がやってくる。6歳の少女アナは、怪物は村はずれの一軒家に隠れていると姉から聞き、それを信じ込むのだった。ある日、アナはその家を訪ねると、そこにはスペイン内戦で傷ついたひとりの負傷兵がいた。現実と空想の交錯した世界を、ヴィクトル・エリセが少女の目を通して繊細に描き出す。

最後の革命家、その生き様
フィデル・カストロ キューバ革命
監督:アドリナーナ・ボッシュ   2005年・米 115分

20世紀最大にして唯一成功した最後の革命家フィデル・カストロは1958年12月、それまで独裁政治を続けてきたバティスタ政権を倒し、社会主義国家を築いた。実に約50年もの間キューバ国家に君臨し、キューバに新しい風をもたらし続けている現キューバ共和国国家評議会議長兼閣僚会議議長のこれまでの苦悩と成功、そしてその裏側に迫ったドキュメンタリー!!

本作はカストロの誕生秘話や既にカリスマ性を発揮していたという少年、青年時代の様子、共にゲリラ時代から戦った勇士の証言、娘が語るカストロと母の恋愛秘話、あらゆる角度から人間・カストロが革命家そして議長に変貌していくまでを見つめ描いている。特にバティスタ政権下、カストロ、ゲバラ等でシェラ・マエストラのゲリラの様子を捉えたアメリカCBSTVのインタビューに応える映像は非常に興味深い。また、当時の要人達バティスタ、ケネディ、フルシチョフとの秘蔵映像、会談の様子、また、最も魅力的といわれる革命の英雄フィデル・カストロの演説も収録。(商品説明から)

終わりを告げる植民地の時代
アルジェの戦い
監督:ジッロ・ポンテコルヴォ  1966年・伊/アルジェリア 122分

1950年、北アフリカの植民地アルジェリアで沸きあがった独立運動を鎮圧するため、フランス政府は大軍を投入した。民衆は怒りに燃え上がり、テロ活動に火がついて首都アルジェは騒然、双方が目には目を、歯に歯をの報復をくり返し、多くの血が流れた。フランス側はテロの巣窟カスバ地区を包囲し、住民に残酷な拷問を加えた末に殺し、家を破壊。独立運動の指導者、若きアリ・ラ・ポアンも倒れ、テロは根絶されたに見えたのだが…。1960年2月、アルジェの街は突如、群衆に埋め尽くされた。もはや独立を求める火を消すことはできなくなっていた。1966年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したとき、フランス関係者らが揃って退席。それほどまでにリアリティを追求した、ドキュメンタリー・タッチの作品である。

ページの先頭へもどる

非暴力と不服従を貫いた偉大な魂
ガンジー
監督:リチャード・アッテンボロー  1982年・英/印 188分

インド独立運動の指導者、モハンダス・K・ガンジー。人は彼をマハトマ(偉大なる魂)と呼ぶ。その波瀾に満ちた生涯を、リチャード・アッテンボローが映画化。弁護士時代から、インド人差別からの発起、非暴力と不服従を貫いた抵抗運動を通しての独立への道を、壮大なスケールで追った歴史大作である。

日帝支配のもとで
密偵
監督:キム・ジウン  2016年・韓国 140分

1920年代、日本統治下の朝鮮半島では独立を目指す「義烈団」が激しい武力闘争を繰りひろげていた。朝鮮人でありながら、日本の警察に所属するイ・ジョンチュルは、上司に義烈団の監視を命じられ、組織のリーダーに接近する。そうした中、義烈団は京城(今のソウル)にある日本の主要施設を破壊する計画をたて、その準備を進めていた。ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、鶴見辰吾らが共演するスパイ・アクション大作。

故郷を愛し、故国を愛した男の青春
空と風と星の詩人 ~ 尹東柱の生涯 ~
監督:イ・ジュニク  2016年・韓国 110分

1910年、日本に併合された朝鮮。詩人となる夢を抱いていた尹東柱だったが、作品の出版もかなわぬまま、27歳の若さで非業の死を遂げた。死後に発表された生前の作品の数々は、彼の生き様とともに評価され、国民的詩人として親しまれるようになる。激動の時代を駆け抜けた尹東柱の青春の日々を、独立運動に身を投じた従兄弟・宋夢奎との交流を軸に、モノクロ映像で描いた伝記ドラマ。

言葉を奪えば支配しやすい…
マルモイ ことばあつめ
監督:オム・ユナ  2019年・韓国 135分

1940年代、日本の統治下にあった京城(今のソウル)では日本語教育や創氏改名(日本式の名前への改名)が進められていた。そうした中、親日派の父を持ちながらも、民族の誇りを大切にし、消されようとしていた母語・朝鮮語を守ろうと、朝鮮語学会代表のリュ・ジョンファンらは朝鮮語辞書の編纂に尽力していた。ある日、前科者で読み書きもできないお調子者のキム・パンスを雑用係として迎え入れることに。あまりにも境遇が違う二人は反発し合いながらも、厳しい監視と弾圧の下で、各地の言葉、方言を集める「マルモイ」に力を注ぎ、辞書づくりを進めるのだったが…。

公式サイトへリンクしています。

楽しいだけ…の作品ではない
サウンド・オブ・ミュージック
監督:ロバート・ワイズ  1965年・米 174分

1938年、つまり第二次大戦の前年のオーストリア。修道院長は、厳格なトラップ家の家庭教師として、修道女マリアを派遣。その温かい人柄、音楽、子どもらしくのびのび自由を与える教育で、七人の子どもらはマリア先生が大好き。その一方、父親であるトラップ大佐とは衝突が絶えない。だが、マリアは次第に大佐に心惹かれ、その事に悩む。大佐の再婚話が持ち上がると、傷心の彼女は修道院に戻るのだが…。やがて互いの気持ちに気づき、マリアと大佐は結婚。戦火を逃れるため一家で国外脱出することに…。

リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインによって大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカル。誰もが知っているメロディ、みんなが歌える曲ということでは、ミュージカルの一大傑作であるのは間違いない。その舞台を映画化したものが本作である。ただし、実在するトラップ一家とはかなり違っていることは知っておいた方が良いだろう。

前半はほのぼの、陽気な展開だが、後半には政治的メッセージをまじえ、緊迫の度合いが増していく。新婚旅行から帰ると、留守の間に館に鉤十字旗が掲げられている。ナチス党旗がドイツ国旗となり、ドイツはオーストリアを併合。生粋のオーストリア人である大佐は旗を引き下ろし、これを裂く。そして音楽エージェントのマックスが「平和的併合」というのに腹を立てる。マックスはマリアにナチスとの妥協を勧める。音楽会の会場にやって来た地方長官のハイル・ヒトラーの挨拶に対して「こんにちは」と返すマックスだったが、別れ際には彼も無意識にハイル・ヒトラー。長女リーズルの恋人ロルフはナチスの電報配達員。「我々は市民の動きをみんな知っている。従った方が身のため」と、市民を監視していることをほのめかす。抑圧、監視、反復、価値観の統一が戦争の前ぶれであり、この作品はそれらがいつの間にか進行していく不気味さを織り込んでいるのだが、はたしてどれだけの人が気付いているだろうか。

ホロコースト下の女性たち
アウシュビッツの女囚
監督:ワンダ・ヤクボフスカ  1948年・ポーランド 109分

世界遺産となったポーランド南部のアウシュヴィッツ=ビルケナウは、今や観光地でもある。収容所体験をもつワンダ・ヤクボフスカが、実話をもとに、アウシュヴィッツ=ビルケナウの現場でロケした傑作。ホロコーストを扱った最初期の映画でもある。1948年の第1回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)でグランプリ受賞。

女子収容所の女囚(ユダヤ人であることが罪だった)たちは、ガス室に送られるまで、強制労働に従事させられていた。ドイツ語の能力を買われてガス室送りを免れたマルタは仲間と抵抗運動を組織、外部情報を入手したり男囚らとも連絡を取り合う。東部戦線で敗退を続けるドイツ軍は、証拠隠滅のために収容者全員の殺害を計画する。マルタは外部に通報するために収容所を脱出するが、捕らえられて絞首台に…。

女の友情、ナチスへの怒り
ジュリア
監督:フレッド・ジンネマン  1977年・米 118分

第二次大戦前夜、劇作家として成功していたリリアンのもとに、反ナチ運動に加わっていた幼なじみのジュリアから、運動資金を届けてくれとの依頼がくる。かけがえのない親友のために、リリアンは危険を覚悟でベルリンに向かうが…。二人の女性の生涯にわたる友情と、戦争によって親友を奪われたリリアンのナチに対する強い怒りが、深く静かに描かれる。ジュリア役のヴァネッサ・レッドグレーヴの熱演が感動的だ。リリアン・ヘルマンの回想録を、フレッド・ジンネマンが誠実に映画化。

ページの先頭へもどる

通りに立つ女たち
ローゼンシュトラッセ
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ  2003年・独/蘭 130分

ハナはニューヨークに住むユダヤ系米国人。信心深かったわけでもない母が、突如ユダヤ教の慣習に従って喪に服するようになった。ドイツから亡命する前に、いったい何があったのか…。母の過去を知ろうと、ナチス政権下で亡命を手助けしてくれた女性と会うのだが…。ベルリンのローゼン通りで起きた、耐えがたい非情な出来事を教えられたハナ。アーリア人とユダヤ人の「異人種間結婚」をテーマに、自国ドイツの悲劇、偏見と差別に翻弄された女性たちのドラマを、マルガレーテ・フォン・トロッタが力強く描く。

ベルンハルト作戦の裏に秘められた実話
ヒトラーの贋札
監督:ステファン・ルツォヴィツキー  2007年・独/墺 96分

第二次世界大戦のさなか、ナチスは英国経済を混乱に陥れようと、精巧な贋ポンド札の製造を計画。「ベルンハルト作戦」である。ザクセンハウゼン強制収容所には、世界的な贋作師サリー、印刷技師ブルガー、美学校の生徒コーリャなど、ユダヤ系の技術者らが集められた。収容所内の秘密工場で、ユダヤ人であるにもかかわらず、破格の待遇を受け、完璧な贋ポンド札作りに従事することになった彼ら。自らの延命のために、同胞を苦しめるナチスに荷担することになる行為に葛藤と苦悩を深めていくのだが…。

ナチスに抵抗したドイツ学生
白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々
監督:マルク・ローテムント  2005年・独 121分

ヒトラー政権下のドイツ。反ナチスを掲げ、抵抗運動をおこなった学生グループ「白バラ」の紅一点、ゾフィー・ショルの壮絶な最期を描いた真実の物語。大学構内でのビラまきを警備員に目撃され、秘密警察(ゲシュタポ)に引き渡される。逮捕からわずか4日後、国家反逆罪で処刑されるまでの詳細が、尋問記録などとともに東独で発見された。東西ドイツ統合のたまものである。新しい資料をもとに描かれた、巨悪に敢然と立ち向かったゾフィーの勇気と、その悲愴な運命。

ゾフィーとヒトラー、祖国ドイツを愛し、守ろうとしたのはどちらだったのか。国や愛する者を守るために、闘わなければならない相手は誰なのか。同じ年に制作された日本の『男たちの大和/YAMATO』と見較べてほしい。敗戦、焦土からの復興、技術発展、経済大国化、サミット構成国と、同じような経緯を辿ったドイツと日本だが、かたやEUの中心構成国、周辺諸国との軋轢が絶えず、指導的地位を築けないわが国。

ミュンヘン大学のビラがまかれた場所に記念碑がある。「私たちには恥ずべき歴史がある」と言ったのは、案内してくれた女子大生。ユダヤ人女性の「ドイツ人みんなが殺人者だったわけではなかった」。ふたつの言葉がよみがえる。

笑われているのは、誰?
チャップリンの独裁者
監督:チャールズ・チャップリン  制作:1940年・米 126分

誰もが知る名作。今さら説明の必要はないだろう。あえて“おさらい”するとすれば、独裁者ヒンケルの意味不明な演説。自国民に対してでさえ通訳を必要とし、言葉に中身がないことは、秘書がタイプを打つ場面でも表される。反逆で追われる身となった突撃隊長官シュルツも、危難に際してまでゴルフセットを持っていこうとするなど、権力者たちのトンチンカンさを笑う。そして、それに盲従する大衆をも。

前作の『モダン・タイムス』では歌止まりだったが、チャップリンはこの作品で初めて言葉を発した。放浪紳士チャーリーとの訣別といって良い。ファシズムに抗うには無言のままでいてはならない、そして“語る”ことにはそれほどの自覚が必要だ、そう言いたげである。異常者ヒンケルを神にしようとする狡猾な勢力と、わけもわからないまま追従する大衆の愚かさ。ラストシーンの長い演説、それは“希望”のための語りである。

穏やかな口調で開始された演説は、『モダン・タイムス』で暴き出した現代社会の矛盾を批判しつつ、次第に力強さを増し、人間賛歌を謳いあげる。終わりでは静けさを取りもどし、ハンナと人々に「look up ―上を見ろ」と呼びかける。それに応えるハンナの「listen ―聴きなさい」。たった二言の対話に込められたものが何を意味するのか、ひとりひとりが考えてほしい。チャップリンという天才は、まさにこの作品を世に問うために生まれてきたのではないか。そう思わざるを得ないのである。

単なる愛国映画とは違う奥行き深い人間描写
自由への闘い
監督:ジャン・ルノワール  1943年・米 103分

フランスを代表する巨匠ジャン・ルノワール監督が戦争中にアメリカで作った異色作。当時流行した反ナチズム愛国映画とは根本的に異なり、人間の心の叫びに充たされる。ヨーロッパのある国の内気な小学校教師は、村がドイツ軍の軍靴に踏みにじられたとき自分に課せられた務めに目覚め、ものに憑かれたように祖国と自由のために闘う。名優チャールズ・ロートンのひとり芝居と言える重厚な演技が圧倒的。(商品説明から)

ドイツに占領された町の法廷で、主人公が最後に証言する場面。ここに至るストーリーはすべて、このスピーチのためにこそある。二、三だけ紹介しておこう。「占領は、どんな国でもですが、我々が堕落しているから可能なのです」「占領を可能にした自分自身を責めるべきです」「占領下では真実は許されません。とても危険なことです。占領は嘘の上に成立します」。占領とは他者を支配することである。占領という言葉を支配に置き換えてみればわかるだろう。たとえ戦争でなくとも、平時にあっても、こうしたことは可能であることが、起きうることが。他国の武力ではなく、自国の政府、会社や学校などの組織によって。

愛に生き、平和をかかげて死んだコルベの足跡
コルベ神父の生涯 ― アウシュビッツ 愛の奇跡 ―
監督:千葉茂樹  1981年・日本 96分

ポーランド人コルベ神父。東洋への宣教を夢見た36歳の彼は、1930年、二人の修道士とともに長崎にやってきた。すさまじい極貧の中で働き、来日わずか一ヶ月で日本語版『聖母の騎士』を創刊。食事はパンとお茶のみ、冬は火もない生活。周囲からは乞食坊主と罵られ、戦争への道を突き進む日本社会の中で、敵性国民として警察にも監視されるようになった。36年、ポーランドへ帰国したが、三年後にはドイツ軍のポーランド侵攻で第二次大戦が勃発。41年、聖職者として逮捕され、アウシュヴィッツに移送。同収容所で、若い囚人が餓死刑を宣告され、狂乱するのを目にし、自分が身代わりになることを申し出る。三週間後の8月14日、彼は毒殺された。聖母マリア昇天祭の前日だった。地下牢から絶えることなく流れ続ける祈りと聖歌。ある兵士が語る。「彼の顔は安らかさに満ち、輝いていた」と。

ストイックな演出が圧巻
海の沈黙
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル  1947年・仏 86分

1941年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。突然自宅に同居することになった独軍青年将校に対し、老人とその若い姪がひたすら沈黙で抵抗する。ヴェルコールによるフランス・レジスタンス文学の代表作を、後にフィルム・ノワールの巨匠となるジャン=ピエール・メルヴィルの初期の伝説的作品。

ページの先頭へもどる

 
命をかけた抵抗
影の軍隊
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル  1969年・仏 140分

1942年、ドイツ占領下のフランス。密告によって独軍に逮捕され、キャンプに入れられたジェルビエは、ゲシュタポ本部へ連行される途中、一瞬のすきをみて脱走する。抵抗運動に身を投じることになった彼は、裏切り者の抹殺任務に当たることに。そしてド・ゴールに会うため、ロンドンへ向かうが…。戦時下の悲劇的なレジスタンス活動に命をかけた闘士たちを描いた傑作戦争ドラマである。

背筋が寒くなる衝撃作
ブリキの太鼓
監督:フォルカー・シュレンドルフ   1979年・西独/仏 142分

ポーランドのダンツィヒ(現グダニスク)を舞台に、三歳で自らの成長を止めた少年の視点で描かれた1927年から1945年の激動の時代。ブリキの太鼓を叩き、奇声を発するとガラスが割れるという不思議な力も身につけた少年、従兄との不倫関係を続ける母、臆病な父、時代が生み出した奇怪な登場人物が織りなすグロテスクな描写に満ち満ちている。背景にあるのは、ナチスに呑み込まれていくポーランド。だが、現実はもっとおどろおどろしかったに違いない。

最後の手段はハイ・リスク
ワルキューレ
監督:ブライアン・シンガー  2008年・米/独 120分

第二次大戦も半ば、既にドイツ軍は劣勢に立たされていた。シュタウフェンベルク大佐は、アフリカ戦線で左目を失うなど瀕死の重傷を負いながらも。奇跡的に生還。純粋に祖国ドイツを愛するが故に、祖国を滅亡に導きかねないヒトラー独裁に強い反感を抱いていた彼は、軍の内部で秘密裏に活動する反ヒトラーの集まりに参加する。ある日、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を聴く中で、とある計画を思いついた。国内の捕虜が反乱を起こした際、予備軍によって鎮圧する「ワルキューレ作戦」。ヒトラーを暗殺し、この作戦を利用して政権を掌握するというもの。同志たちと綿密に計画を練り、暗殺の実行を委ねられたシュタウフェンベルク大佐。悪しき独裁者を除去する運命の日がやって来る…。

ヒトラー暗殺計画は40以上にものぼるといわれるが、実話をもとに、非人道的なナチス政権に疑問を抱き、実力による阻止行動を起こさざるを得なかったドイツ将校たち。独裁者暗殺は最後の手段である。それしかなかったのか、他の方法はなかったのかという問いは、なぜそこに至るまで放置したのか、もっと前の段階(ヒトラーが全権を掌握する以前)で行動を起こすべきだったのではないかという反問にさらされよう。歴史を学ぶ、歴史から学ぶことの重要性がここにある。

いじめられっ子少年の空想の友だちは誰
ジョジョ・ラビット
監督:タイカ・ワイティティ  2019年・米 109分

第二次世界大戦下のドイツ。母親のロージーと二人で暮らす10歳のジョジョは、ヒトラー・ユーゲントに憧れる愛国少年。自分も立派な隊員になるべく、合宿に参加することに。想像力たくましい少年の友人の名はアドルフ君。その励ましがあって、厳しい訓練にも耐えているのだが、優しい性格ゆえに臆病者と蔑まれ、“ウサギ野郎”という情けないあだ名を頂戴してしまう。一方、ロージーはユダヤ人を救済する活動をしており、ジョジョは自宅に匿われていたユダヤ人少女エルサの存在に気づいてしまう。ユダヤ人に対して反感を抱いていた彼はパニックに陥るが、やがてアドルフ君やヒトラー・ユーゲントの教えに反してエルサに心惹かれていくジョジョ…。思いもよらなかった秘密の交流、そこから真実に目覚めていく少年の成長する姿を通して、ユーモラスに描かれる戦争批判。純粋な心を失わないことこそが平和への正しい道なのかも。

抵抗は何のため…
世代
監督:アンジェイ・ワイダ  1954年・ポーランド 88分

ドイツ占領下のポーランド。石炭泥棒で生計を立てる若者がいた。ドイツ軍の機銃掃射で仲間が殺されるが、傷ついた自分は工員に助けられる。その青年は抵抗組織のメンバーだった。彼を通して、自分も抵抗運動に入っていく。そこで出会った女性に恋心を抱くふぁ、やがて彼女にも悲劇が…。「この作品でポーランド映画のすべてが始まった」と言ったのは、本作にも出演しているポランスキー。ワイダの「抵抗三部作」の第一作である。

ポーランドの閉塞感
地下水道
監督:アンジェイ・ワイダ  1956年・ポーランド 96分

ロンドンに置かれたポーランド亡命政府は、1944年、ソ連軍のワルシャワ入城が近いと判断、地下組織に対して一斉蜂起を指令した。敢行したものの、20万もの犠牲を出し、組織は壊滅状態に。レジスタンスたちは迷路のような地下水道へ追い込まれる。出口のない、あってもそこにはドイツ軍が…。出るに出られない状況、息が詰まるような緊迫感の中で物語は進行する。ヴィスワ河に注ぐ口から対岸を見ると、そこには動こうとしないソ連軍が…。戦後ポーランドを自分たちの支配下に置こうとするソ連にとっては、亡命政府もレジスタンスも邪魔な存在でしかなかった。明るい外への鉄扉を閉め、彼らは再び闇の世界へと引き返す。ドイツとソ連に挟まれ、身動きがとれない当時のポーランドの状況を暗示している。脚本のイエジー・ステファン・スタヴィンスキの実体験にもとづく、衝撃的な歴史の一コマ。

ページの先頭へもどる

空しい死に様に絶句する
灰とダイヤモンド
監督:アンジェイ・ワイダ  1957年・ポーランド 102分

主人公はワルシャワ蜂起の生き残りで、反ソ派のテロリスト。ソ連から派遣された共産党地区委員長を暗殺せよとの指令を受ける。地区委員長の息子は反ソ派として逮捕され、銃殺の判決を受けていた。息子に会いに行こうとするところを暗殺に成功。翌朝、街を出ようとするところを衛兵に見とがめられ、撃たれてしまう。ゴミ捨て場で悶え死ぬ主人公。地下水道に長く潜んでいたために目を痛めたから…、彼の黒眼鏡が象徴的だ。イエジー・アンジェウスキーの同名小説の映画化で、『世代』『地下水道』ともにワイダの「抵抗三部作」を構成する。

苦渋に満ちたポーランド
鷲の指輪
監督:アンジェイ・ワイダ  1992年・ポーランド/英/独/仏 106分

ワルシャワ蜂起に加わり、戦いに敗れた主人公。愛の証として恋人からもらったのは、ポーランド王国の紋章である王冠を戴いた鷲の指輪。新しい祖国を築くために戦うものの、時代の波にもまれる中、いつしか愛と信念を失っていく。共産主義者によって王冠部分が削り取られてしまった鷲の指輪の運命が、そのままポーランドの歴史と重なる。苦渋に満ちた当時の社会。グラスのウォッカに火をつけ、殺された同志の名前を呼びながら、ひとつひとつ消していく酒場のシーンは、同監督の『灰とダイヤモンド』の再現にほかならない。

歴史的事実を隠し通すことはできない
カティンの森
監督:アンジェイ・ワイダ   2007年・ポーランド 122分

1939年9月、ドイツのポーランド侵攻によって火蓋が切られた第二次大戦。ドイツとソ連の密約により、ポーランドは両国に分割占領されてしまう。ソ連側ではポーランド人将校が捕虜となり、アンナの夫とその友人も収容所へ送られた。ソ連が占領した地域に取り残されていたアンナと娘は、1940年春、国境を越えて夫の両親のもとへと戻ることができたものの、義父はドイツの収容所で亡くなっていた。義母と娘と三人で夫の帰りを待つアンナ。1943年4月、ドイツ軍はソ連領のカティンで多数のポーランド将校の遺体を発見したと発表する。

第二次大戦下、ドイツとソ連の両方から侵略されたポーランド。ソ連の捕虜となったポーランド将校のうち、一万数千名が行方不明となり、後にソ連によって虐殺されていたことが判明した“カティンの森事件”は、ソ連支配下にあった冷戦時代のポーランドでは語ることが許されないタブーであった。父親もこの事件の犠牲者の一人であったアンジェイ・ワイダが、歴史的犯罪に光を当てるとともに、国家の欺瞞に翻弄される犠牲者とその家族の苦悩を描き出す。

人はそれでもなお、信念を貫けるのか
残像
監督:アンジェイ・ワイダ  2016年・ポーランド 99分

第二次大戦後のポーランド。ソ連の影響が強まるにつれ、全体主義の暗い影が国中を覆い尽くそうとしていた。そうした中、創作活動に打ち込む画家として、後進を育成する教育者として、芸術の政治利用に反発するストゥシェミンスキは大学を追われてしまう…。

時の政権によって葬り去られた実在の前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキに焦点を当て、芸術家の矜持を貫き、表現の自由のために戦い続けた不屈の信念を描き出した、巨匠アンジェイ・ワイダの遺作。

ページの先頭へもどる

思いが届くことを願って…
君の涙 ドナウに流れ ハンガリー 1956
監督:クリスティナ・ゴダ  2006年・ハンガリー 120分

ソ連の支配下にあった1956年のハンガリー。首都ブダペストでは、独裁的な共産主義政権に対する市民の不満は募り、学生を中心に、自由を求める声は日増しに高まっていた。カルチは政治には無関心な水球の五輪代表選手だったが、学生たちに連帯を呼びかけるヴィキに心を奪われる。五輪に向けた強化合宿に参加するはずのカルチは、街でデモ隊を導くヴィキを見かけ、彼女の後を追う。デモが激しい銃撃戦になっていく中、傍観者ではいられなくなった彼は合宿を抜け、ヴィキと共に闘争の最前線へと身を投じていくのだったが…。

1956年のハンガリー動乱と、その数週間後に起きた“メルボルンの流血戦”という二つの史実を背景に、政治に翻弄されながらも、最後まで自由を求めて闘った若者たちの愛と悲劇の物語。

抑圧下の青春群像
僕たちは希望という名の列車に乗った
監督:ラース・クラウメ  2018年・独 111分

ベルリンの壁が建設される前の1956年。東ドイツに暮らすテオとクルトはエリート高校に通い、青春を謳歌する若者だった。西ベルリンの映画館に入った二人は、ニュース映像でハンガリーの民衆蜂起を知る。市民に多くの犠牲者が出たことに心を痛め、級友たちに呼びかけて教室で二分間の黙とうをおこなった。純粋な哀悼の気持ちにすぎなかったが、ソ連の影響下にある東ドイツでは社会主義国家への反逆とみなされ、政府が調査に乗り出す大問題へと発展。一週間以内に首謀者を明かすよう命じられ、従わない生徒は全員退学と宣告されてしまう…。

東西冷戦下の東ドイツを舞台に、ディートリッヒ・ガルスカが自らの高校時代の体験をつづった自伝『沈黙する教室』を映画化した群像劇。

 
音楽が別の生き方を呼び覚ます
善き人のためのソナタ
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク  2006年・独 138分

物語はベルリンの壁が崩壊する前の1984年、東ベルリン。国家保安省の秘密警察(シュタージ)に所属するヴィースラー大尉は、国家に忠誠を誓う真面目で優秀な男だった。反体制的疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視し、反体制の証拠を掴むよう命じられる。ドライマンのアパートに盗聴器を仕掛け、徹底した監視を開始。盗聴する向こうから聞こえてくるのは、愛し合う二人が交わす文学や音楽の世界だった。知らず知らず共感していくヴィースラー。そして、ドライマンがピアノで弾いた「善き人のためのソナタ」という曲を耳にした時、彼の心は激しく揺さぶられ…。

旧東ドイツで、反体制派の監視を大規模に行っていたシュタージ。監視する側の人間を主人公に据え、統一後なお旧東ドイツ市民の心に深く影を落とす“監視国家”の実態を明らかにするとともに、芸術家の監視を命じられた主人公が、監視する相手の考え方や生き方に影響され、別の生き方に目覚めてしまう姿を、静かに、しかしリアルに描いた、感動の人間ドラマである。東ドイツ出身の主演ウルリッヒ・ミューエは、自身も監視された過去を持つところがミソ。

偉大な作品
旅芸人の記録
監督:テオ・アンゲロプロス   1975年・ギリシャ 232分

軍事政権のもと、政治批判や社会批判を、あたかも前世紀の田園劇であるかのように見せかけて演じられる芝居。それはナチス占領下で制作された『天井桟敷の人々』を彷彿とさせる。旅一座の家族を通して描かれるギリシア現代史、映画による壮大な叙事詩だ。

トロイア戦争から帰還したミュケーナイの王アガメムノンが、妻とアイギストスに殺され、息子オレステスが姉エレクトラとともに復讐を果すというギリシャ悲劇を援用した一家の物語。背景にあるのは、1939年のメタクサス将軍による極右独裁体制から、ムッソリーニの侵攻、42年のドイツ軍占領、44年の国民統一戦線(共産党系の国民解放軍および亡命した国王の復讐を望む王党派の民主国民同盟による連立政府)の勝利、戦後のゲリラ下部組織の掃討から共産派弾圧、52年のパパゴス元帥の軍事政権の誕生にいたる歴史をまじえながら、政治の荒波に翻弄される民衆を描いた作品である。

霧の中の描写を得意とするアンゲロプロスだが、過去と現代を行きつ戻りつするかのようなストーリーを、やりきれなさを象徴するかのように、本作ではひたすら曇り空の下で描く。

失われた政治への望み
シテール島への船出
監督:テオ・アンゲロプロス   1983年・ギリシャ/伊 140分

ある映画監督が父親の映画を撮ることになった。だが、父親役がなかなか決まらない。そこへひとりのラベンダー売りの老人が通りかかり、「私だよ」と、思わず後を追う。劇中の映画と父の人生が交錯する。家族を捨ててソ連へ亡命した父。年老いた彼が帰ってきた。かつての同志たちからも政府からも見放され、雨の桟橋にひとりたたずむ。妻を一緒に乗せた桟橋が、どこへ向かうのか、暗い海を流れ、霧の向こうに姿を消す。政治への望みを失った時代を、アンゲロプロスが幻想的に描いた叙情詩。

米国が“裏庭”と称する国で暗躍する
戒厳令
監督:コンスタンタン・コスタ=ガヴラス   1973年・仏/伊 121分

政情が安定しない南米のとある国。革命派によってひとりのアメリカ人が誘拐される。政府が発動した戒厳令で街は恐怖と混乱につつまれる。誘拐されたのは誰なのか。その理由は何か。事件を追うジャーナリストは、その人物がアメリカ政府から極秘の任務を受けていた事を突き止める。1970年、南米ウルグアイで起きた実際の事件をもとに、他国に干渉するアメリカの影と冷徹な政治のメカニズムを緊迫したタッチで描き出した社会派ドラマ。

ページの先頭へもどる

テロリストはどちら?
サンチャゴに雨が降る
監督:エルビオ・ソトー  1975年・仏/ブルガリア 114分

1973年9月11日のクーデターを、外国人記者の回想という形で、その発生前後から、首都サンチャゴを中心にした各地の市街戦、軍事評議会による権力掌握、詩人パブロ・ネルーダの葬儀にいたる約2週間の出来事を描く。

事件の背景を記しておこう。1970年9月、チリの大統領選で人民連合のサルバドール・アジェンデが勝利した。世界初の選挙による社会主義政権誕生である。主要産業を米系企業から取り戻して国有化、教育の平等化、ミルクの無料配給で乳児の死亡率を下げ、貧しい一般民衆のための政策を次々と実施。これまで甘い汁を吸ってきた富裕層は危機感を抱き、民主主義と社会主義は共存できないと主張してきた米政府と手を握って政権転覆を企む。

翌年2月の選挙で、右翼のテロにもかかわらず、人民連合はさらに議席を増やした。右翼や米政府は「民主的な手続き」による政権打倒を放棄し、放火、爆弾の投入れ、労働者と学生への銃撃など、6月だけで91件のテロをおこなうが、政権支持者はテロに対する100万人の抗議集会を開き、教会の大司教もこれを支持。右翼は全国30カ所で鉄道を爆破、石油パイプラインを破壊、多くの工場は操業停止、送電線が切断されて首都全域が電力ストップ、チリ経済が壊滅状態の中、再び100万人がアジェンデ政権支持デモ。

大統領は政策の是非を問う国民投票を11日に公示すると宣言。米政府から300億円の軍資金と7000人のCIA工作員という圧倒的支援を受けたピノチェト将軍率いる陸・海・空・警察の4軍が、国民投票阻止のため、11日の蜂起を極秘裏に決定。これを支援する米海軍は、訓練という名目でサンチャゴ沖合に集結した。「もうひとつの911」である。いや、これこそが正真正銘の「元祖911」であろう。

軍事クーデターの一角で
ミッシング
監督:コンスタンタン・コスタ=ガヴラス   1982年・米 122分

南米チリに滞在していたアメリカ人チャールズが行方不明になった。すぐさま現地に飛んだ父親は、チャールズの妻と共に調査を開始する。そして、失踪には軍事クーデターが関わっていることが判明していくのだが…。

73年9月、南米チリで起きたクーデターの最中、失踪したアメリカ青年の事件をモデルにした1982年のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。

 
恐怖政治に挑んだ勇気ある広告マン
NO
監督:パブロ・ラライン  2012年・チリ/米/メキシコ 118分

1988年のチリ。独裁者ピノチェト大統領の続投に対し、信任(YES)か不信任(NO)かを問う国民投票が行われようとしていた。敏腕広告マンのレネのもとに、友人のウルティアがやって来た。彼は“NO”陣営の中心人物。投票までの27日間、両陣営に対し、1日15分間のテレビ放送枠が許されており、“NO”のためのCMを制作してほしいという依頼である。しかし、選挙自体が独裁への批判をそらすための出来レース。冷めた見方のレネは気乗りしない。それでも引き受けることにした彼は、プロのプライドを懸けたCMづくりに奮闘する。だが、出来上がったCMの能天気な内容に、“NO”陣営の幹部は眉をひそめるのだった…。

ピノチェト独裁政権の恐怖政治に対し、ユーモアで対抗した若きエリート広告マンによる大胆かつ命がけの選挙キャンペーン。実話をもとにしたその全貌を描き出した人間ドラマ。

軍事独裁政権下のチリ
戒厳令下チリ潜入記
監督:ミゲル・リティン  1986年・西 120分

1973年のチリ、アジェンデ政権が、アメリカの支援を受けたピノチェト将軍による軍事クーデターで倒された。大統領を含む多くの人民が殺され、あるいは亡命を余儀なくされ、ミゲル・リティンもその一人である。十数年後、亡命先のヨーロッパから母国に侵入し、当時のチリ社会を内部から撮影したドキュメンタリー。変装したり、某国のTV番組撮影班を装うなど、なにかスパイ・アクションを見ているようで、こちらまでがハラハラ、そんな緊迫感に貫かれている。撮る側も、インタビューに答える一般市民も、命懸けだったに違いない。軍事独裁政権下に生きるというのは、そういうことなのだ。

この撮影行を、ノーベル賞作家のガブリエル・ガルシア=マルケスがノンフィクションとして書いており、読むだけでドキドキする。邦訳も出ているから、ぜひ!

『戒厳令下チリ潜入記 ある映画監督の冒険』 岩波新書(黄版)1986年 ISBN 978-4-00-420359-9

歴史は我々のもの
チリの闘い
監督:パトリシオ・グスマン

第1部 ブルジョアジーの叛乱
制作:1975年・チリ/仏/キューバ 96分

第2部 クーデター
制作:1976年・チリ/仏/キューバ 88分

第3部 民衆の力
制作:1978年・チリ/仏/キューバ 79分


東西冷戦体制下の1970年代、チリでは世界で初めて選挙を通して選ばれた社会主義政権が誕生した。人民連合のサルバトーレ・アジェンデを首班とする政府は、反帝国主義と平和革命を掲げ、世界的な注目を集める。

しかし、主要産業を米企業から取り戻して国有化し、教科書や教材を無料にして教育の平等化を図り、ミルクの無料配給で乳児の死亡率を下げ、貧しい一般民衆のための政策を次々と実施するのだが、その改革路線は、既得権益を守りたい大地主や大企業などの国内保守層や、彼らと利潤を共有する米国企業との間に軋轢を生むことに。アジェンデ支持を表明した国軍最高司令官のシュナイダー将軍は、極右によって暗殺された。また、社会主義は暴力革命なしに成立しないと言い続けてきた米政府にとって、選挙という民主的な手続きによって成立した政権は、まさに目の上のたんこぶだったのである。

ニクソン政権は経済制裁を強行し、民衆の生活は困窮。しかし人民連合は、右翼のテロにもかかわらず、さらに議席を増やしていく。すると右翼や米政府は「民主的な手続き」によるアジェンデ政権打倒を放棄し、放火、爆弾の投入れ、労働者と学生への銃撃などを行うようになった。サンチアゴでは、それに対する百万人の抗議集会が開かれ、教会の大司教もこれを支持。右翼は全国30カ所で鉄道を爆破し、石油パイプラインを破壊したため、多くの工場が操業停止する。送電線が切断され、首都全域が電力ストップ。チリ経済は壊滅状態に。

1973年9月、再び百万人がアジェンデ政権支持デモを行い、アジェンデは政策の是非を問う国民投票を11日に公示すると宣言した。軍上層部は国民投票阻止のため、11日の蜂起を極秘裏に決定し、米海軍は9日、訓練という名目でサンチアゴの外港バルパライソに集結。そして9月11日…、米国から300億円の軍資金とCIA工作員という圧倒的支援を受けたピノチェト将軍率いる4軍(陸・海・空軍・警察)がクーデターを起こす。反対者たちはサンティアゴの国立競技場に連行され、拷問を受け、処刑された。米国による「もうひとつの911」である。

本作は、このクーデターをきっかけにフランスへ亡命したパトリシオ・グスマンが、当時のチリにおける政治的緊張と、民主主義国を標榜する米国の暴力による社会主義政権の終焉を記録したドキュメンタリーである。この結果がどうなったのか、同監督の『光のノスタルジア』『真珠のボタン』、あるいはミゲル・リティン監督作品の『戒厳令下チリ潜入記』、『11'09"01 セプテンバー11』のケン・ローチ作品を見てほしい。また、『サンチャゴに雨が降る』『ミッシング』も関連作品として有用だ。

チリの苦難の歴史
光のノスタルジア
監督:パトリシオ・グスマン  2010年・仏/独/チリ 90分

乾燥した澄んだ大気。ここチリのアタカマ砂漠には世界中の天体観測施設があり、遠くから天文学者が集まってくる。さらに遠く、宇宙空間の星から何十億年もかけてやって来る「過去の光」を探ろうというのだ。この砂漠には、ピノチェト独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が無数に埋まっている。行方の知れない家族の遺骨を探し続ける女性たち。あたかも「過去の光」を探ろうとするかのように。パトリシオ・グスマンによる、祖国チリの苦難の歴史を、美しい映像とともに綴るドキュメンタリー。

ページの先頭へもどる

チリの苦難の歴史
真珠のボタン
監督:パトリシオ・グスマン  2015年・仏/ チリ/西 82分

南北に長いチリの最南端、パタゴニアの海底でボタンが発見された。それは水のノマドとして生き、土地と自由を奪われた先住民に対する迫害の歴史を語り、さらにはピノチェト独裁政権下で政治犯として海に葬られた人々の記憶へとつながっていく。2015年のベルリン映画祭で脚本賞を受賞したドキュメンタリーである。

若きカール・マルクスの奮闘
マルクス・エンゲルス
監督:ラウル・ペック  2017年・仏/独/ベルギー 118分

産業革命による格差が拡大し、労働者たちが不当な搾取に苦しめられるようになった19世紀半ばの欧州。彼等の置かれた過酷な状況に疑問を抱いたカール・マルクスは、まだ20代半ばでありながら、政府批判の先頭に立っていた。そのことで、彼は母国ドイツを追われてしまう。資本家の息子でありながら、労働者階級に目を向ける若者フリードリヒ・エンゲルスと出会い、互いの論文に刺激を受け、意気投合した二人。友情を育み、社会を変えていくための理論形成と運動に情熱を注ぎながら、『共産党宣言』を発表するまでの格闘の日々を描く。生誕200年を迎え、再び注目を集めるようになったカール・マルクスの若き日に焦点を当てた伝記映画。

 
前へ進め
ミス・マルクス
監督:スザンナ・ニッキャレッリ  2020年・伊/ベルギー 107分

19世紀後半、カール・マルクスの末娘エリノアは、父の思想を実践しようと、英国で社会主義活動家として、労働者や女性の権利向上のために尽力していた。1883年、最愛の父がこの世を去る。社会主義者で劇作家のエドワード・エイヴリングと出会い、恋に落ちた彼女。エイヴリングが妻帯者と知りながらも同棲を続け、献身的に尽くすのだったが、生来の浪費家でプレイボーイの彼はおかまいなしに不実を重ね、そのことで心が疲弊していく。エリノア・マルクスの、波乱にみちた生涯の映画化である。

労働者たちよ、立ち上がれ!
1945年の精神
監督:ケン・ローチ  2013年・英 94分

1945年は戦争終結の年だが、戦勝国イギリスでは英雄チャーチルが率いる保守党が大敗、労働党政権が誕生した驚くべき年でもある。労働者が、自分たちで世の中を良くせねばと立ち上がったのだ。労働党は、貧困、そして貧困による害悪を無くすべく、社会保障政策を次々と実現させた。中でも国民保険サービス(NHS)は最も人びとに貢献した政策のひとつで、国民の医療費を無料にしたのだ。そしてインフラ産業を国有化し、雇用を安定させ、庭付き公営住宅を供給し、労働者の住環境を改善していった。しかしサッチャー政権以降、国はその民主的社会主義路線を否定し、小さな政府で緊縮政策を進めていく。労働者は再び貧困にあえぐようになった。ここで登場する人物が言う「NHSだけは守らなければならない。それは法を犯してでも」。この、皆を幸せにするという思い=魂を売り渡したら全てが終わるということなのである。登場する労働者やケン・ローチは、再び目覚めようではないかと訴える。しかしそれはイギリスだけの問題ではない。人権がないがしろにされ、貧困が拡大する日本では、再びでなく、今こそ真に目覚めるべきではないだろうか。本作のメッセージは、我々労働者が立ち上がることを力強く励ましてくれる。(商品説明から)

労働者たちよ、今こそ団結だ!
ピケをこえなかった男たち ―リバプール港湾労働者の闘い
監督:ケン・ローチ  1996年・英 50分

1995年、残業代を払わないと言った英国リバプールの荷役会社社長に対し、抗議した5人の港湾労働者がいきなり解雇された。解雇に抗議すると、今度は80人の組合員全員が解雇された。彼らは、やむなくピケを張った。荷役会社の親会社の港湾労働者たちは、そのピケを越えることを拒否した。そのため、親会社の港湾労働者全員も解雇された。会社は、代わりに日雇い労働者を雇った。組合員、家族、支援者たちの肉声を通して描いた、リバプール港湾労働者たちの不屈の闘い。

詳細はこちら → http://vpress.la.coocan.jp/Pke.shousai.html

疎外されたもの同士が手を取り合わなくてどうする
パレードへようこそ
監督:マシュー・ウォーチャス   2014年・英 121分

サッチャー政権のもと 不況に揺れる1984年の英国。20もの炭坑が閉山、働く場を失った炭鉱夫のストライキはもうじき四カ月目に突入しようかというとき、ニュースを聞いたロンドン在住の同性愛者マークは、彼らを支援するため、仲間たちとゲイ・パレードをおこなって募金活動を開始。同時に「炭坑夫支援レズビアン&ゲイの会=LGSM」なる支援組織も立ち上げるのだが…。集めた寄付金を送ろうと、全国炭坑労働組合に連絡を取ると、なんとゲイというだけで門前払い。マークは炭坑に直接電話し、ウェールズの炭坑町ディライスが支援を受け入れてくれることになった。性質も目的もまったく異なる二つのグループの交流が始まる。サッチャー政権下の驚くべき実話の映画化。偏見や衝突を乗り越え、固い絆で結ばれていく心温まる感動の物語が、ユーモアを織り交ぜて描かれる。

ページの先頭へもどる

ゲイだって生きている!
パレード
監督:リオネル・バイエー  2002年・スイス 81分

パリやベルリンといった大都市では、多様な価値観が浸透していることもあり、同性愛者のパレードも珍しくなくなった。しかし、カトリック信仰が根強いスイスの山あいの村にあっては、まだまだそこまで至っていないところが多い。2001年7月、非協力的な自治体、価値観の違いを理解できない原理主義者たちによる誹謗中傷にもかかわらず、勇気ある人々の呼びかけにより、初の同性愛者パレードが敢行されたヴァレ州のシオン。パレード当日と、そこに至るまでのプロセスを伝えるドキュメンタリー。

トンネルの向こうに光が見えるか
今夜、列車は走る
監督:ニコラス・トゥオッツォ  2004年・アルゼンチン 110分

ここはアルゼンチンの小さな田舎町。かつては鉄道とともに栄えたものだが、民営化のあおりを受け、ある日突然、廃線ということに。組合の代表が交渉に当たるも、無力感に苛まれた彼は自殺。その弟と仲間たちは自主退職に抵抗するのだが、家族や生活のため次々と受け入れ…。そんな中にあって、ブラウリオはひとり、修理工場を守り抜こうと徹底抗戦を続けるのだが…。

1990年代初頭、民営化の波が押し寄せたアルゼンチンでは、国鉄も分割民営化され、6万人もの鉄道員たちが職を失った。そうした実情を背景に、激動の時代に翻弄される5人の鉄道員とその家族の物語を綴った社会派ドラマ。

モータウンは過ぎ去りし幻か
ロジャー&ミー
監督:マイケル・ムーア  1989年・米 90分

ミシガン州フリント。ここは世界一の自動車メーカーGMの工場町だった。マイケル・ムーアの一族は、彼を除いてみなGM社員だったというから驚きである。西海岸にある出版社を辞めた彼が戻ってみると、不況のため工場は次々に閉鎖、豊かだったはずの町の二割が失業という状態に陥っていた。安くて故障しない日本車の上陸を を口実に、米国ブランドの工場は第三世界に移転、そのおかげで会社はそこそこ利益を上げているにもかかわらず、大量の首切りがまかり通っていた。そんなGMの経営に腹を立てたマイケル・ムーアは、会長のロジャー・スミスに取材しようとするが…。

アメリカは目覚めるか?
マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
監督:マイケル・ムーア  2015年・米 119分

アメリカにないものを奪い取ろうと、マイケル・ムーアはヨーロッパまで「侵略」に出かけた。イタリアの有給休暇の日数に、フランスの田舎町では小学校の給食と性教育に、教育で世界一になったフィンランドの学校には宿題や選択式問題がないことに、スロヴェニアの教育費が無料であることに、ドイツの健全な労働環境やナチスの犯罪を教え続ける学校教育に、ポルトガルの麻薬撲滅政策に、ノルウェーでは刑務所のあり方に、平等を勝ち取ったチュニジア女性のパワーに、女性の政治社会参加や金融犯罪の追求で社会が変革するアイスランドに驚き、それらを「戦利品」として持ち帰ろうとするのだが…。

何のための人生なのか?金持ちになる意味は?日本にいる我々は、欧州と米国を「欧米」と一括りにしがちだが、両者はまったく異なる価値観と哲学の上にあることがわかる。アメリカが、世界から恐れられることはあっても、いまだに愛されないのは、マイケル・ムーアが獲得した戦利品を受けとめることができなかったからであろう。そもそも、それらはどれもアメリカ発だったのに…。日本人として、この作品をどう読み解くべきなのかを考えたいものだ。

自分たちの未来のために
華氏119
監督:マイケル・ムーア  2018年・米 128分

2016年11月9日、アメリカ大統領選でドナルド・トランプが勝利した。誰も予想しなかった驚きの結果を、マイケル・ムーア何カ月も前にその可能性に言及し、警鐘を鳴らしていたのだ。支持率でも総得票数でもヒラリー・クリントンを下回ったトランプが、なぜ当選できたのか。そのからくりを、アメリカの特殊な選挙制度を通して明らかにするとともに、市民の手に民主主義を取り返そうと立ち上がった人たちを追う。

ページの先頭へもどる

彼女が僕の帰る家だった…
ナイロビの蜂
監督:フェルナンド・メイレレス  2005年・英 128分

ケニアに着任した英国外務省一等書記官のジャスティン。妻のテッサは現地で何かの調査活動をするのだが、事なかれ主義の彼はそれには立ち入らず、趣味の庭いじりに精を出す。ある日、テッサの殺害死体が発見されたというしらせが…。彼女のノートPC、フロッピーディスク、書類が消えていた。治安の決して良くない土地柄、警察はよくある殺人事件の一つとして処理しようとするが、不審なものを感じたジャスティンは、意を決し、自ら調査に乗り出す。巨大製薬会社がアフリカを舞台に、危険な新薬の人体実験をおこなっていた。「やめないと女房の二の舞だ」という脅し…。ロンドンからベルリン、ナイロビへと飛んだ彼が突きとめたのは、世界的規模で進行する巨大企業の陰謀。

 
恐怖政治の下の音楽
ショスタコーヴィチの証言 (英語版)
監督:トニー・パーマー  1987年・英 157分

ソロモン・ヴォルコフによる『ショスタコーヴィチの証言』を下敷きに、作曲家ショスタコーヴィチと彼の生きた時代、すなわち独裁者スターリン治世下のソ連社会を映画化した作品である。自由な創作活動を妨げたプラウダ批判、ジダーノフ批判による文化停滞を、ソ連のクラシック音楽界のエースが告発する。ショスタコーヴィチ演ずるのは英国の名優ベン・キングズレー。

映画の原題は“Testimony”(証言)なのだが、本邦未公開のため、書籍の邦題に合わせて『ショスタコーヴィチの証言』とした。

関連記事へ

権力と闘った映画人
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
監督:ジェイ・ローチ  2015年・米 124分

米ソ冷戦体制下、米国に赤狩りの嵐が吹き荒れる。共産主義的思想(何が共産主義かは置かれたまま)は徹底的に排除され、糾弾の矛先は映画界にも向けられた。売れっ子脚本家ダルトン・トランボは、非米活動聴聞会で返答拒否したため、議会侮辱罪で一年の禁固刑を科せられ、家族とも離ればなれとなってしまう。ようやく出所したものの、ブラックリストに載った彼にハリウッドの仕事が来るはずがない。ヨーロッパからの誘いも拒否し、素性を隠して週給50ドルの土木作業員に身を落としながらも、偽名で脚本を書きまくるトランボ…。いわれなき汚名による迫害に屈することなく、己の信念を貫いた男。不屈の脚本家ダルトン・トランボの、苦難と復活の軌跡を描く感動の人間ドラマである。

国民を敵視する国家
シチズンフォー スノーデンの暴露
監督:ローラ・ポイトラス  2014年・米/独 114分

本作の監督ローラ・ポイトラスは、シチズンフォーと名乗る人物からメールを受け取る。NSA(国家安全保障局)が米国民の膨大な通信データを秘密裏に収集している事実について内部告発をする用意があるというものだった。2013年6月3日、香港へ飛んだ彼女が会ったのが、エドワード・スノーデンという元CIA職員の青年。カメラの前で、NSAの驚くべき活動の実態を詳細に語り始める。

自国の一般市民を対象に大規模な情報収集を行っていた米国政府。その歯止めなき監視の実態を暴露し、世界中を震撼させたのが「スノーデン事件」である。事件に立ち会い、舞台裏の一部始終をリアルタイムでカメラに収めた衝撃のドキュメンタリー。

国家への裏切り、それとも市民の味方
スノーデン
監督:オリヴァー・ストーン  2016年・米 135分

9.11同時多発テロに衝撃を受けた青年エドワード・スノーデン。国家に役立とうと軍に入隊するものの、過酷な訓練で足を負傷し、やむなく除隊。CIAの採用試験に合格し、コンピュータの知識を高く買われた彼は一目置かれる存在に。ジュネーヴにある国連代表部に派遣された彼は、NSAの極秘検索システムの存在と、それを使った情報収集の実態を目の当たりにすることに…。

米国政府による大規模な監視システムの実態を暴露し、世界中を震撼させた元NSA(国家安全保障局)職員、エドワード・スノーデン。愛国主義のオタクだった彼が、なぜ全てを失うことを承知の上で内部告発したのか。その揺れ動く心の軌跡を、オリヴァー・ストーンが描き出した実録ドラマ。

修道女と神父たちが核施設に侵入したわけは?
シスターと神父と爆弾 (英語版)
監督:ヘレン・ヤング  2018年・米 106分

皆様
『シスターと神父と爆弾』(原題:THE NUNS, THE PRIESTS, AND THE BOMBS)という映画をご存知でしょうか。

2012年に当時82歳のシスター、メーガン・ライスさんが平和団体Transform Now Plowsharesの2人とともにテネシー州にあるY-12国家安全保障複合施設に侵入した事件がありました。彼らは実刑判決を受け、2年間獄中にいました。それでも彼らの信念は揺るぎません。

さらにこの映画は、彼らの前にシアトル近郊のトライデント基地にカトリックの神父と84歳のシスターを含む5名が侵入していたことも詳細に描いています。彼らは数十年間トライデント基地のデモを繰り返し、その上でこういう非暴力直接行動に踏み切ったのです。たった一つの潜水艦がミサイルを発射することで、一つの国を壊滅させることができる、こういうことを知って何もしないわけにはいかない、という思いで。

映画の中で、行動した一人の女性が、広島・長崎の写真集を見て私の人生は変わったと語られていました。このような悲劇を繰り返してはならないと刑務所に入ることを恐れずたちあがった方がアメリカにいらっしゃったことに圧倒されました。

逮捕された84歳のシスターもとても素敵なおばあちゃんです。品がありしかも凛として輝いています。またビックスさんという神父の方も、長い間地域でホームレスへの支援などを行ない、多くの人から尊敬され親しまれている方です。そういう方が純粋に、米国の核兵器の問題を社会に提起するために死を覚悟で行動したのです。核基地に侵入すれば射殺される可能性もあるのですから。日本で私たちはこれほどの真剣さと決意で取り組んでいるだろうかと考えさせられました。

法学館憲法研究所にもこの映画の紹介とコメントが掲載されていますので併せてご覧ください。
http://www.jicl.jp/cinema/backnumber/20210308.html

この映画が20日にオンライン上映されます。
ここで短い予告編も見ることができます。
https://unitedpeople.jp/archives/3440
この上映後に前広島平和文化センター理事長のスティーブン・リーパーさんが話 されます。

2021年3月20日(土)19:00-21:30
プログラム:映画上映(106分) トークセッション(45分)
参加費:1,500円/人
主催:ユナイテッドピープル

1500円かかりますが、ぜひご覧になることをお勧めします。この映画は監督のヘ レナさんが自己負担で創られたものです。昨年夏の被ばく映画祭で初上映されま したが、その後、全国での上映は行われていません。まずご覧いただき、可能で あれば地域や大学で上映会などを開催して広めていただければと思います。

また10分間の映像を下記でご覧になれます。
https://youtu.be/Gpv_vO5ujxU

小寺隆幸

 
真の普通選挙を求めて
乱世備忘 僕らの雨傘運動
監督:チャン・ジーウン  2016年・ 128分

1997年、英国から中国に返還された香港。一国二制度なる“特別行政区”として高度な自治が認められていたが、中国当局の締め付けが次第に厳しさを増していく。2017年からは普通選挙によって行政長官を選ぶはずだったが、2014年、中国政府は突如、共産党が支持しない候補者の立候補が事実上できない仕組みを導入。これに反発した若者たちが真の普通選挙を求めて街を占拠する大規模な抗議活動、“雨傘運動”を展開した。監督は、運動の真っ只中に飛び込み、熱気に満ちた若者たちの生の声を丹念に拾い集めた、当時27歳だった陳梓桓。

“連帯”を生み出した男
ワレサ 連帯の男
監督:アンジェイ・ワイダ  2013年・ポーランド 124分

イタリアの著名な女性ジャーナリスト、オリアナ・ファラチがグダニスクにあるレフ・ワレサの自宅をインタビューに訪れた。1970年12月に起こった食料暴動について語り始めるるワレサ。過激化する労働者と武力による鎮圧に乗り出した当局との仲裁に奔走し、カリスマ性と実直さで頭角を現わしていった彼は、いつしか反体制のシンボルとなっていく。

アンジェイ・ワイダが、東欧諸国の民主化運動に大きな影響を与えたポーランドの独立自主管理労組“連帯”の初代委員長にして伝説的政治指導者、レフ・ワレサの激動の半生を映画化した伝記ドラマ。

ページの先頭へもどる

私は間違っていましたでしょうか?
村八分
監督:今泉善珠  1953年・現代ぷろだくしょん 95分

全国的な話題となった1952年の「静岡県上野村村八分事件」、この実話を映画化。同年5月、参議院補欠選挙での組織的な不正替玉選挙を知った高校生、吉川満江が新聞に投書したことにより、村ぐるみの選挙違反が明るみになった。数日後、警察の調べが始まると、正気を失った村人は非難の矛先を満江さん一家に向けた。行き来することは勿論、言葉を交わすことさえ断ち、視線は冷たい。マスコミが取材に村へ殺到し、騒ぎが更に大きくなると、満江さんの村人たちの反感はいっそう激しくなっていく。田植えの時期の手伝いが来なくなり、満江さんの奨学金の停止が画策されたり、妹がイジメに遭うようになる。

満江さんの「不正をみても黙っているのが村を愛する道でしょうか」という言葉。恩師の「正しいことはあくまで押し通すべきだと教えながら、現実の社会悪に対しては全く無力です」という嘆きの声。支持する人がいる一方、彼女が日本共産党に入党したという、根も葉もない噂が流れたり、左翼思想や危険思想の持ち主であるかのように報じるメディア、彼女や彼女を訪問する者の思想傾向などを身辺調査する警察の存在。実際に起きたことである。こうしたことは、過ぎ去った昔の話なのであろうか。もはやなくなったのだろうか。今一度、私たちも社会を見つめ直した方が良いのではなかろうか。

キミは何を思うか
小林多喜二
監督:今井正  1974年・多喜二プロダクション 119分

1903年、秋田の貧しい農家に生まれた小林多喜二。一家は小樽に移住し、子どもの頃から伯父のパン工場で働いた。北海道拓殖銀行に勤務する合間をぬって小説を執筆。21才のとき、やまき屋の酌婦である田口タキと知り合う。貧しさゆえに身を売らざるを得なかった彼女を、借金をしてまで引き取ったが、突然逃げるようにして去ってしまったタキ。1925年、治安維持法が制定され、軍国主義が台頭する時代だった。抵抗運動が各自で起こり、胸を打たれた多喜二もまた、労働者、農民闘争に参加する。1928年、初の普通選挙で、無産政党代表の山本宜治が当選した。全国無産者芸術連盟の小樽支部幹事となっていた多喜二は上京し、理論的指導者の蔵原惟人と会い、小樽に戻って『一九二八年三月十五日』を書きあげた。プロレタリア作家・小林多喜二の産声である。『蟹工船』に続き、拓銀の悪辣な収奪を暴いた『不在地主』を発表したことで解雇された。1930年に上京した彼は、治安維持法違反で豊玉刑務所に収容される。満州事変が始まると、弾圧はますます激しさを増し、警察は「見つけたら殺す」を合言葉に多喜二を捜索、1933年2月20日、逮捕されたその日のうちに虐殺された。享年29才。警察は心臓麻痺と発表し、病院は解剖を拒んだ。あらゆるものが国家と軍に同調していたのである。後になって「あの時はそうせざるを得なかった」などというのはナンセンスでしかない。

昭和の暗い時代を生きたプロレタリア作家、小林多喜二の愛と青春を描いた人間と社会のドラマ。現代に生きる我々は、「あの時代はひどかったね」ですませてしまって良いのか。現代がどれほど違うのかを再確認する必要はないのか。視聴者が試される作品だろう。

労働と人間の尊厳
蟹工船
監督:山村聡  1953年・現代ぶろだくしょん 112分

時代は昭和の初め。場所は北海道の函館港。不況で仕事にあぶれた労働者や農夫たちが続々と港に集まってくる。彼らが乗り込むのは博光丸。北洋で蟹漁を行い、船内に加工設備を持つ「蟹工船」だ。嵐の中で病人が続出するが、現場監督の浅川は労働者の体よりも作業を優先させる。浅川ら幹部連中の非道ぶりは日に日にエスカレートし、救援を求める船を無視、遭難者は見殺し、反抗する乗組員を殺害するに至る。ついに乗組員たちは仕事をボイコットし、監督に要求書を叩きつけるのだが…。小林多喜二によるプロレタリア文学の名作を映画化した人間ドラマ。

支配する者と支配される者 果てなき欲望と絶望の激突!! 反撃
蟹工船
監督:SABU  2009年・「蟹工船」製作委員会 109分

カムチャッカ沖で蟹を獲り、そのまま船内で缶詰に加工する蟹工船・博光丸。逃げようのない絶望にさらされながら、劣悪な環境の中で働く出稼ぎ労働者たちを資本家が、搾取する。そうした中で、漁夫の新庄はたったひとり立ち上がる。偶然ロシア船に救助された彼は、蟹工船に戻ると、労働者たちひとりひとりに、行動しなければ何も変わらないと訴えかけるのだった。

若者のあいだで小林多喜二のプロレタリア文学『蟹工船』が注目されているという。派遣労働の拡大、非正規雇用などは、労働者を搾取するための規制緩和になったし、景気低迷や会社の業績悪化によるリストラとか派遣切りといった、伸縮自在の雇用を可能にした。インターンシップという名で学生をただ働きさせ、技能実習という外国人奴隷労働も出現している。能力主義、成果主義なども、実際は労働力を安く買いたたくものでしかない。こうした労働環境の悪化が拡大している現状を背景に生まれたパンク映画である。山村聡監督による1953年版と見比べるのも良い。

世界第一級の“でっち上げ事件”
松川事件
監督:山本薩夫  1961年・松川事件制作実行委員会 162分

東北本線松川駅付近での列車脱線転覆事故から一ヶ月ほど経ったある日、本間刑事と事件の容疑者、19歳のチンピラ赤間勝巳が警察署に…。否認するものの、拷問と脅迫により、嘘の供述書が作られる。この自白をもとに、労働組合員20名が次々に逮捕される。無罪を主張する被告たち、それを支える家族と弁護団の闘い、暴かれていく検察の陰謀…。13年にわたる裁判の末に出た判決は…。

バッジ着用が、なぜいけないのか?
国労バッジははずせない! 辻井義春の闘い
監督:湯本雅典  2009年・湯本雅典 33分

頑なに国鉄時代のバッジをつけ続ける辻井義春さん。それは、国鉄の仕事に全身全霊で向き合った、仕事に対する誇り以外のなにものでもなかった。ところが、国鉄がJRになったという理由だけで、国労バッジを外すように命が下される。普通なら、上からの命令にただ従うまでだが、彼は頑として自分のプライドにこだわった。そんな些細な反抗心を上層部は咎め、減給処分や休職処分を言い渡す。彼はそれでもめげなかった。自分はこうありたい、という主張の大切さ、理不尽なことに真っ向から戦いを挑むことの大切さを辻井さんは教えてくれる。

https://yumo.thebase.in/items/11413977

おかしいことには従えません!
君が代不起立
監督:佐々木有美、松原明  2006年・ビデオプレス 87分

石原知事のもと、東京都では教育目標から憲法・教育基本法の文字が消え、教職員には「君が代」斉唱時に立たなかっただけで重い処分が課せられている。処分された教職員は、2003年の10・23通達(「君が代」強制の通達)以後、のべ345名に達した。カメラは2003年から2006年にわたって不起立の教職員たちの想いと行動、そして教え子たちの姿を追う。ここから見えてきたのは、国家主義の台頭とそれに必死に抵抗する人々のドラマだった。また、「君が代」強制は違憲・違法とした9・21東京地裁判決の歴史的な瞬間も捉えている。(商品説明から)

“私”を貫く教師たち
″私″を生きる
監督:土井敏邦  2011年・オフィス=スリーピン 138分

これは「教育」問題や「日の丸・君が代」問題を論じるドキュメンタリーではない。日本社会の“右傾化”“戦前への回帰”に抵抗し、“自分が自分であり続ける”ために凜として闘う、3人の教師たちの“生き様”の記録である。(土井敏邦)

「自分に嘘をつきたくない。生徒に嘘をつきたくない」根津公子
「今言わなければ後悔する。その後悔だけはしたくない」土肥信雄
「炭鉱の危険を知らせるカナリヤの役割を担いたい」佐藤美和子

http://doi-toshikuni.net/j/ikiru/

非正規雇用労働者は闘う
時の行路
監督:神山征二郎  2019年・「時の行路」映画製作・上映有限責任事業組合 111分

2008年のリーマンショックによる経済不況のあおりを受けて「派遣切り」の危機に直面した労働者たちの戦いを描いたヒューマンドラマ。

職場でリストラにあった五味洋介は、青森県に妻子を残したまま、静岡県にある大手自動車メーカーの工場の旋盤工として働くことになる。派遣社員の身分だったがベテラン技能者として職場でも信頼され、充実した日々を送る洋介。しかし、ある日突然、リーマンショックに端を発した非正規労働者の大量首切りにより、職場を追われてしまう。この理不尽な仕打ちに洋介は仲間とともに労働組合に入り、立ち上がるが……。

監督は「ハチ公物語」「遠き落日」などで知られるベテランの神山征二郎。主演に石黒賢。

https://eiga.com/movie/92536/ より引用

誰がテロリストか
グアンタナモ、僕達が見た真実
監督:マイケル・ウィンターボトム、マット・ホワイトクロス  2006年・英 96分

あれは本当に「テロ」だったのか?証拠も示さないまま、一方的にアフガニスタンに侵攻したアメリカ。ジュネーブ条約の戦争捕虜に該当しない「敵性戦闘員」として、拘束者をグアンタナモ米軍基地へ移送収容していた。国交のないキューバ領内にあり、アメリカの国内法も適用されない特殊な場所。それを悪用し、法に従った手続きもないまま、日常的に拷問がおこなわれていることが暴露され、世界中で収容所の閉鎖を求める声が起きている。本作は、パキスタン系英国人の3人の若者が、友人の結婚式に参列するためにパキスタンを訪れたところ、不当に拘束され、2年以上もグアンタナモに収容された衝撃の事実を忠実に再現。ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞している。

ページの先頭へもどる

幸福の敵は誰?
祖国に幸せを 女性代議士の闘い
監督:エヴァ・ムルヴァド   2006年・デンマーク 50分

2007年2月20日、NHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送されたもの。

国連が実施した「正しい選挙活動のやり方」説明会。候補者から「選挙演説をして暗殺されそうになった」、「妨害された」などの苦情が相次ぐ。さらに、選挙監視員が男性が子供の面倒を見ている間に女性も投票するようにと訴えると、「ここはアフガンだ。男性の面子をつぶすのか」と野次が飛ぶ。暗殺の脅威にさらされるマラライも護衛つきで選挙演説をするが、あまりにも危険なため、演説を録音、トラックでその録音を流して選挙活動を展開。

05年の選挙戦が壮絶な混乱の中、実施されたことを映像は語る。同時に、マラライの周囲に集まる女性たちの訴えを通して、アフガン女性を取り巻く現状が今なお厳しいことを描く。また、アフガン初の選挙戦の混沌とした現場を見事にとらえ、軍閥とタリバンが背後で暗躍している現状もかいま見せてくれる。

2005年の選挙では、結果的に多くの軍閥が議員として誕生し、公平な選挙が行われたかどうか疑問の声もあがったが、一方で3割近くの女性議員も誕生。マラライは地元で2位当選を果たし、祖国再建を誓った。(NHKのサイトより転載) 日本語版のリリースを期待したい。

http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=070220

2008年、ベルリン国際映画祭で平和映画部門賞を受賞した作品である。マラライ・ジョヤについては、自叙伝『アフガン民衆とともに』をお読みいただきたい。

自由と権利を求め、アフガン女性は闘う
RAWA アフガン女性の闇に光を
監督:川崎けい子  2008年・オフィススリーウェイ 25分

戦乱が続き、宗教原理主義が渦巻くアフガニスタンで、女性の権利を獲得し、自由で民主的な社会を築くために活動するアフガン女性の団体RAWA。

RAWAは、20才の女性ミーナによって、1977年に首都カブールで設立されました。女性と男性が平等の権利をもち、自由にのびのびと生きられる社会にしたいという強い意志からでした。しかし、1987年2月、ミーナは暗殺されました。女性の権利獲得のために駆け抜けた年の人生でした。

ミーナの死後、その志を受け継いだ人以上の女性たちが、RAWAメンバーとして活動し続けています。

この作品では、RAWAの活動を通して、自由と民主主義、そして女性の権利を見つめます。

(商品説明から)

声をあげるアフガン女性たち
モーターラマ
監督:ディアナ・サケブ、マレク・シャフィイ  2012年・アフガニスタン 60分

2010年ヘラート、ブルカについて語る女性。2009年カブール、デモ行進し、男たちの非難を浴びる女性たち。2011年マザリシャリフ、愛のために死んだ女性詩人に自らを重ねる、12歳で結婚した若き女性…。アフガニスタンの三つの街で、女性たちの声を記録した作品。日本語版のリリースを期待したい。

アフガニスタン難民 少女ラッパーは叫ぶ
ソニータ
監督:ロクサレ・ガエマガミ  2015年・スイス/独/イラン 91分

アフガン難民の少女ソニータ。16歳になった彼女を、両親は見ず知らずの男性に嫁がせようとしていた。古くからの習慣であり、そしてお金になるからである。そんな両親のもとを離れ、イランの首都テヘランで、保護施設の子どもたちの前でラップを披露するソニータ。一流のラッパーになるという夢を叶えようと奮闘する一人の少女の、自らの人生を切り開いていく姿を追った感動のドキュメンタリー。

生きのびるために
アニメ:ブレッドウィナー
監督:ノラ・トゥーミー  2017年・アイルランド/加/ルクセンブルク 94分

タリバン支配下のアフガニスタン。首都のカブールに暮らす11歳の少女パヴァーナだったが、ある日、父親がタリバンに連行されてしまう。女性の外出が禁じられていたため、大黒柱を失った一家は窮地に陥ってしまった。家族を支えるため、パヴァーナは髪を切り、少年になりすまして外に出る。父を救い出すべく、過酷な運命に立ち向かっていくひとりの少女の愛と勇気の物語。

世界的ベストセラーになったデボラ・エリスの児童文学『生きのびるために』の長編アニメ映画化。製作総指揮を務めたのがアンジェリーナ・ジョリーだったことも話題になった。

 
故郷とは何だ?
FLEE フリー
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン  2021年・デンマーク/スウェーデン/ノルウェー/仏 89分

アフガニスタンに生まれ、アフガニスタンで育った少年アミン。幼くして自分がゲイであることを自覚する。父親は当局に連行されたまま消息不明。残された家族は命がけで祖国を脱出することに。しかしアミンとその家族にはさらなる過酷な運命が待ち受けていた…。

アミンの壮絶な半生を、親友であるドキュメンタリー作家のヨナス・ポヘール・ラスムセン監督が聞き取り、アニメーション作品として映画化。

 
壮大な砂漠ロケで綴る英雄伝説だが…
アラビアのロレンス
監督:デヴィッド・リーン  1962年・英 227分

第一次大戦中、ドイツと同盟を結んだトルコを牽制するため、英軍はトルコ支配下のアラブに反乱を起こさせようと画策する。語学の達人で戦術に長けたロレンスが指導者として送り込まれ、アラブの王子、ベドウィンの族長アリ、砂漠の首長らとともに勇戦敢闘し、アカバを攻略、トルコ軍を撤退に追い込む。アラブのトルコからの独立を説くことで信頼関係を築いてきたのに、現実は英仏による支配だった。部族間の抗争と英本国首脳部に利用されただけだったことを知り、絶望したロレンスはオートバイで事故死する。

中近東をめぐる20世紀の重要なテーマを、早い時期に、深く掘り下げ、それを壮大なスケールで描き、作品賞、監督賞など、アカデミー賞七部門を受賞した。一部と二部に別れ、それぞれの開始前に、音楽だけがオペラの序曲のように流れる。演奏はエイドリアン・ボールト指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団である。名作であることは疑いようもないが、今日の中近東の状況を知る者にとっては、胸がしめつけられる。

政治に翻弄される家族
シリアの花嫁
監督:エラン・リクリス  2004年・イスラエル/仏/独 97分

イスラエル、レバノン、ヨルダン、そしてシリアの四カ国の国境が接するゴラン高原。もとはシリア高原と呼ばれていたが、1973年の第三次中東戦争でイスラエルが占領し、81年に併合を宣言した。この土地に暮らす人々にイスラエル国籍を与えたが、もともとシリア領だったことから、大半はシリアへの帰属意識を強く持ち、無国籍者として生活している。ある日、マジュダルシャムス村で婚礼がおこなわれようとしていた。モナは親戚筋の人気俳優タレルのもとに嫁ぐため、境界線を越えなければならない。それはシリア国籍が確定し、イスラエル占領地域の家族とは二度と会えないことを意味していた。政治による分断に翻弄される花嫁と家族。めでたいはずの門出が家族との別れとなる運命は、いったい誰のせいなのか。

ページの先頭へもどる

スマホ片手に闘う勇気
ラッカは静かに虐殺されている
監督:マシュー・ハイネマン  2017年・米 92分

2011年、「アラブの春」と呼ばれるアラブ世界の民主化運動がシリアにまで波及してきた。民主化を求める人々のデモは、次第に過激な反政府運動に発展。アサド政権が武力による鎮圧に乗り出したため、激しい内戦状態に。その混乱に乗じた武装勢力が、2014年6月、「イスラム国」を名乗って北部の街ラッカを制圧し、首都と定める。欧米のジャーナリストやNGO活動家の誘拐、イスラム国に同調しない者に対する処刑が日常化し、死の恐怖が街を支配。そうした惨状を国際社会に伝えようと、市民自らが秘密裏にジャーナリスト集団「ラッカは静かに虐殺されている―Raqqa is Being Slaughtered Silently: RBSS」を結成する。世界に向け、スマホとSNSでイスラム国の非人道的行為を発信するメンバーたち。死と隣り合わせの中で、スマホを武器に闘うRBSSの決死の活動に迫った衝撃のドキュメンタリーである。日本語版DVDの一日も早いリリースを期待する。

ISと戦う女たち
バハールの涙
監督:エヴァ・ユッソン  2018年・仏/ベルギー/グルジア/スイス 111分

戦場で夫を亡くしたフランスの女性ジャーナリスト。中東の紛争地域で、彼女は女性のみで構成された戦闘部隊と遭遇する。部隊を率いるのはクルド人のバハール。もとは弁護士だったが、ある日突然、イスラム国(IS)の戦闘集団に襲われ、夫は殺され、息子も戦闘要員として連れ去られてしまう。バハールも性奴隷として売り渡されるが、命からがら脱出。息子の奪還を誓い、女性戦闘部隊を組織、自らも銃を手に立ちあがる。「女に殺された者は天国に行けない」と信じるIS戦闘員たちにとって、彼女の集団は恐れられる存在になっていく。

善悪の二元論は無意味だ
パラダイス・ナウ
監督:ハニ・アブ・アサド  2005年・仏/独/蘭/パレスチナ 90分

イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区にあるナブルスの町。若者たちはみな希望のない日々を送っている。幼なじみのサイードとハーレドもそうだった。ある日、ヨーロッパで教育を受けた女性と出会ったサイード。二人は互いに惹かれ合うのだが、サイードはハーレドとともにテルアビブでの自爆攻撃実行者に指名されてしまう。

泥沼のパレスチナ問題を、自爆攻撃をする側の視点から問い直す作品。なぜ彼らはそのような手段に出るのか。彼らの葛藤する心の内側に迫りながら、それを肯定するわけでもなく、彼らを生み出す背景を描き出す。そもそも「パレスチナ問題」と言うが、パレスチナ側が問題を起こしているのか?問題の根源はイスラエルの建国であり、百歩譲っても、その膨張政策にあることは間違いない。つまり「イスラエル問題」と呼ぶのが正しいはずだ。歴史を知った上で、情緒でなく論理と理性で見るべき映像。

イスラエルへの抵抗
オマールの壁
監督:ハニ・アブ・アサド  2013年・パレスチナ 97分

オマールは真面目なパン職人。彼が暮らすパレスチナは、イスラエルが建設した高い分離壁によって生活圏は分断され、友人や恋人に会うこともままならない。それでも危険を承知で高い壁を乗り越える。ある日、仲間と共にイスラエル兵の狙撃を企てるが、すぐにモサド(イスラエルの秘密警察)に捕まってしまう。激しい拷問。捜査官は釈放の条件として仲間の情報を要求する。必死の抵抗を続けるのだが…。イスラエルへの抵抗に立ち上がったパレスチナ人青年が辿る過酷な運命を描いた社会派ドラマ。

女はいつだってたくましい
ガザの美容室
監督:タルザン・ナーセル、アラブ・ナーセル  2015年・パレスチナ/仏/カタール 84分

パレスチナのガザ地区。ロシア移民のクリスティンの小さな美容室はお洒落を楽しむ女性たちでいつも大賑わい。街を歩くときはヒジャブを着用しても、女にとってお洒落は大切なこと。いつも通り順番待ちをしていると、突然、外で銃声…。戦火の絶えない過酷な日常。そんな中でも、たくましく生きる女性たちの姿を描く人間ドラマ。

その思い、誰が引き受ける?
アルナの子どもたち
監督:ジュリアノ・メール・ハミス  2003年・イスラエル/パレスチナ 84分

1989年、イスラエルの平和運動家アルナ・メールは、パレスチナのジェニン難民キャンプ内に「支援と学習」という子どもたちのための事業を開始した。その活動は、1993年、オスロ合意と和平の機運を背景に、スウェーデン議会から「もうひとつのノーベル平和賞」を与えられ、彼女はその賞金をもとに子ども劇団を設立、息子のジュリアノが指導にあたる。

絶望と暴力に満ちたキャンプで、芸術を通して自由と人権、将来の夢を教えていこうとしていた矢先、和平が破綻。2002年4月、イスラエル軍は後に「ジェニンの虐殺」と非難される大規模な攻撃をしかけた。再訪したジュリアノがそこで見たものは、子ども劇団のメンバーたちのその後の人生と死だった。

この作品は、占領と圧迫の中で短い人生を燃やし尽くした若者たちへのオマージュであり、彼らとの友情の記録である。ひとりひとりに、もっと別の人生があったに違いない。なぜそれがかなわなかったのか。私たちが自ら問い直すべきだろう。チェコ共和国人権ドキュメンタリー国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した作品である。

虹のイメージとは正反対
レインボー
監督:アブドゥッサラーム・シャハダ   2004年・パレスチナ 41分

私が通り過ぎてきた人々がいる。ある者は、涙を浮かべながら建物の残骸から立ち上がった。ある者は、自らを苛む不安を解決する道を探していた。そしてまたある者は、現実に直面し、疲れ果てていた。皆、私にそっくりだった。私はかつてカメラを愛していた。カメラは痛みを伝え、悲しみを忘れることができると信じていたのだ。いや、私が信じていたのは、希望やより良い人生といったものだったのかもしれない…。占領下で破壊され、奪われ続けるパレスチナの人々の生活と生命。その痛み、悲しみをレンズに焼きつけるかのようにカメラはまわる。

題名のレインボーはイスラエル軍のガザ地区を攻撃する作戦命令である。ガザの状況は、およそ虹のイメージとはかけ離れている。失った娘の人形や買ってやったばかりの服を瓦礫の中に探す男を移す映像は悲痛でしかない。2004年5月のイスラエルの作戦で、ガザ南部で死んだ人たちを訪ねる、花の貯蔵用冷蔵所は遺体安置所に変わり、それも一杯になった。イスラエル軍の戦車はなおも町の中に居座り続けている。検問所では何時間も待たされ、時には通れない。

ページの先頭へもどる

自立した女性の生き方を貫く
ガーダ パレスチナの詩
監督:古居みずえ  2005年・バイオタイド 106分

ガザ地区の難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人女性ガーダ。イスラエルによる圧政、封建的な男社会。そうした中でも、自立した女性としての生き方を貫く彼女の姿、年長の女性たちから故郷を奪われた体験の聞き取りをおこなうジャーナリストの側面が描かれる。パレスチナで、女性や子どもたちに焦点を当てた取材活動を続けてきた古居みずえらしさが色濃くあらわれたドキュメンタリー作品。

世界のほとんどが、何も知らない
パレスチナ1948・NAKBA
監督:広河隆一  2008年・バイオタイド 131分

1948年、イスラエルが誕生し、それと引き換えに70万人以上のパレスチナ人が難民となった。この事件をパレスチナ人はNAKBA(大惨事)と呼ぶ。そして世界のほとんどが、何も知らない。

40年にわたってパレスチナ問題を追い続けているフォトジャーナリスト広河隆一が、生活の場を破壊され、追い出されるパレスチナ人のいまなお続く苦難の歴史を、数万枚の写真、千時間を超える映像をもとに、明らかにしていくドキュメンタリー作品。

パレスチナで起きている現実
届かぬ声 ― パレスチナの占領と民衆 ― 4部作
監督:土井敏邦  2009年・シグロ

2002年春、イスラエル軍のヨルダン川西岸への侵攻作戦のなかで起こったバラータ難民キャンプ包囲とジェニン難民キャンプ侵攻。カメラは、2週間にも及ぶイスラエル軍の包囲、破壊と殺戮にさらされるパレスチナの人びとの生活を記録する。

同じ頃、イスラエルの元将兵だった青年たちがテルアビブで写真展を開く「沈黙を破る」と名づけられた写真展は、“世界一道徳的”な軍隊として占領地に送られた元兵士たちが、自らの加害行為を告白するものだった。占領地で絶対的な権力を手にし、次第に人間性や倫理、道徳心を失い、“怪物”となっていった若者たち。彼らは、自らの人間性の回復を求めつつ、占領によって病んでいく祖国イスラエルの蘇生へと考えを深め、声を上げたのだ。

監督は、ジャーナリストとして20数年にわたりパレスチナ・イスラエルを取材してきた土井敏邦。数百時間にも及ぶ映像を、長編ドキュメンタリー映画として完成させた本作では、イスラエル軍がパレスチナ人住民にもたらした被害の実態と共に、“占領という構造的な暴力”の構図を、人びとの生活を通して描き出している。

時に絶望的に見える抑圧をしたたかに生き抜くパレスチナの人びと、そして、「祖国への裏切り」という非難に耐えながらも発言を続けるユダヤ人の若者たちの肉声は、「パレスチナ・イスラエル問題」という枠を越え、人間の普遍的なテーマに重層的に迫る(商品説明から)

詳細はこちら→ http://www.cine.co.jp/chinmoku/story.html


第1部 ガザ「和平合意」はなぜ崩壊したのか(125分)
1993年の「和平合意」が、パレスチナ住民の真の平和につながらなかった現実とその原因を、ガザ地区最大の難民キャンプ・ジャバリアに住む、ある家族の6年間の生活を通して描く。


第2部 侵蝕 イスラエル化されるパレスチナ(121分)
家屋を破壊され居住権を奪われる東エルサレムのパレスチナ人住民たち。“分離壁”によって土地と資源を侵蝕され、国家建設の基盤を失っていく人びとの現実とその苦悩を描いていく。


第3部 二つの“平和” 自爆と対話(126分)
自爆攻撃に走ったパレスチナ人青年の遺族の証言、自爆テロの犠牲となった少女の両親や、生還した女性兵士と家族の「平和」観を通して、対話を試みるイスラエル人・パレスチナ人双方の“平和観の断層”を描く。


第4部 沈黙を破る(130分)
イスラエル軍の侵攻により破壊と殺戮にさらされるパレスチナの人々の姿を描くと同時に、戦争により“怪物”と化したイスラエル軍の元兵士による告白をカメラに収め、人間という存在そのものの根源を見つめる。中東を精力的に取材するジャーナリスト土井敏邦による『声―パレスチナの占領と民衆―』4部作の完結編。

 
封鎖されたまち 封じ込められない、真実
 
ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち
監督:古居みずえ  2011年・アジアプレス 86分

2008年から09年にかけて行われたイスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への攻撃。300人以上の子どもを含む1400人が犠牲になった。本作は、攻撃直後の現地に足を踏み入れた古居みずえによる、『ガーダ パレスチナの詩』につづくドキュメンタリー作品。子どもたちが体験した過酷な現実と心の傷が伝わってくる。

パレスチナ・ガザ地区の実態
『ガザに生きる』 ― 5部作
監督:土井敏邦  2015年

イスラエルによる封鎖と砲爆撃で、ガザは瀕死の状況にある。1993年の「和平合意(オスロ合意)」で「中東の香港」を夢みた住民たちの希望は粉砕された。何がガザの状況を生みだしたのか。パレスチナを代表する人権活動家ラジ・スラーニの解説を通して、第1次インティファーダ(1986年)からガザ攻撃(2008~09年)までのガザの歴史を映像でたどる。


第1章・ラジ・スラーニの道(52分)
ガザの名家に生まれ育ったラジ・スラーニは、イスラエル占領下の民衆の過酷な状況と闘うために弁護士となり、政治活動にも身を投じた。5年近い獄中生活と拷問体験という試練を乗り越え、人権弁護士として活動を続けるラジの半生を追いながら、ガザに生きる人びとの“生”と“思い”を伝える。


第2章・二つのインティファーダ(82分)
占領への怒りが爆発した第1次インティファーダ(民衆蜂起)は、パレスチナ社会の変革運動でもあった。だが、その結末の「オスロ合意」が“占領の合法化”だったことを知った民衆の失望と怒りは、第2次インティファーダとして表出する。この過程を主導したアラファトPLO議長の歴史的な功罪は何だったのか―ガザの指導者たちが総括する。


第3章・ガザ撤退とハマス(67分)
2005年夏、イスラエルはガザから撤退した。その真の目的は何だったのか、イスラエル人・パレスチナ人双方の証言からを探る。一方、イスラム抵抗運動「ハマス」はこの「ガザ撤退」を支持拡大に利用した。占領下で窮乏する民衆を支援する“慈善組織”の顔と、占領に武力で抵抗する“武装組織”の2つの顔を持つハマスの実態と、その陰を描く。


第4章・封鎖(84分)
ガザを実効支配したハマスと、これを支持する民衆への“集団懲罰”として、イスラエルはガザ地区の“封鎖”を強化した。住民は食料や医薬品など生活必需品の不足に苦しみ、移動の制限のため海外での治療や仕事の機会さえ奪われてしまう。一方、崩壊したガザ経済の下、若者たちは失業し将来へ希望も断ち切られる。


第5章・ガザ攻撃(86分)
イスラエルのガザ攻撃(2008年12月~2009年1月)は約1400人(7割が民間人)の犠牲者を出した。被害は人命や家屋に限らず、工場や農地など産業基盤も破壊された。その被害の実態をガザ住民の遺族や関係者の証言を元に詳細に報告する。一方、この攻撃を90%を超えるイスラエル国民が支持した背景を、有識者たちの声から探る。

(土井敏邦ウェブサイトから)
http://doi-toshikuni.net/j/life_in_gaza/

ページの先頭へもどる

 
パレスチナという名の牢獄の壁を壊すまで
Women in Struggle -目線-
監督:ブサイナ・ホーリー  2014年・パレスチナ 56分

元政治犯のパレスチナ女性たちが、イスラエルの刑務所に収監されていた時の闘いの記憶を呼び覚ました時、現在の彼女たちの生活や将来にどのような影響を与えるのか。このドキュメンタリー映画は、パレスチナの独立を獲得するための闘いの中で、姉妹、母親、妻としての規範的な役割の枠を越えて、違う役割を担った4人の女性たちに焦点をあてている。ナレーションは一切なく、女性たちは過去の耐え難い経験や現在のパレスチナでの日常生活を送る上での困難を自らの言葉で証言する。彼女たちは既にイスラエルの刑務所からは出たが、自らの内に刑務所を抱えながら、今もインティファーダ(民衆蜂起)が続くパレスチナという、より大きな『牢』で日常を送っている。(商品説明から)

攻撃はガザ住民に何をもたらしたのか
ガザ攻撃 2014年夏
監督:土井敏邦  2015年 124分

2014年7月8日に始まったイスラエル軍の大規模な空爆とその後の地上侵攻によって、約2150人が犠牲となった。その7割近い1400人は一般住民だった。破壊された家は2万戸を超え、数十万の住民が新たに避難民となった。

被害はそれだけではない。ガザの農業や工業、発電所など生活・産業基盤までもが破壊され、さらに強化された封鎖によって、攻撃の終結後もガザ住民の生活を麻痺状態に陥った。

あの攻撃はガザ住民に一体何をもたらしたのか。イスラエルは何を狙ったのか。甚大な被害を蒙った民衆は、統治者「ハマス」にどういう感情を抱いているのか。戦渦のガザ地区を30日にわたって取材した日本人ジャーナリストの報告である。

(土井敏邦ウェブサイトから)
http://doi-toshikuni.net/j/attack_on_gaza/

本当は身近なパレスチナ
アミラ・ハス:イスラエル人記者が語る“占領”
監督:土井敏邦  2019年 237分

イスラエル人でありながら長年パレスチナで暮らし“占領”の実態を世界に伝えてきたジャーナリスト、アミラ・ハス。ホロコースト生存者の両親を持つユダヤ人でもある彼女の報道はイスラエル内外で高い評価を受け数々の国際賞を受賞してきた。これはアミラ・ハスの日本各地での8回の講演と沖縄取材を集約した4時間のドキュメンタリー映画である。




前編(119分)

第1章・取材現場 2017年7月・ヨルダン川西岸
 分離壁の現場/襲撃されるヨルダン川西岸の村/イスラエル人の“特権”を占領の構造と闘う武器に

第2章・アミラ・ハスと占領
 ジャーナリストへの道/ジャーナリストとしての役割と危険/イスラエル人としての限界

第3章・パレスチナ側の“占領”
 占領の実態/「移動の自由」の制限/ガザの移動制限/西岸の移動制限/構造的暴力/占領・分離の心理的影響

第4章・イスラエル側の“占領”
 「占領は終わった」イスラエル人/イスラエル人の人種主義/占領の“利益”を享受する




後編(118分)

第5章・パレスチナ内部の問題
 ファタハ・自治政府の実態/ハマスの実像/民衆を犠牲にした内部抗争

第6章・イスラエル内部の問題

第7章・沖縄とパレスチナ
 【第1部】アミラ・ハスの沖縄取材
    金城実/池原秀明/伊佐真次/金城武政/高里鈴代/知花昌一/佐喜眞道夫/金井創
 【第2部】パレスチナと沖縄の接点
    ジャン・ユンカーマン氏との対談
    共通点と相違点/沖縄への差別/デラックス占領/支配権力の二重構造

第8章・欧米と日本の責任
 米国の同盟国としての日本の責任/政治的不行動の“口止め料”/「危険な国家」に必要な外からの圧力

第9章・抵抗と暴力
 占領と抑圧と戦う権利と義務/「崇拝の対象」となった武装闘争/武装集団に乗っ取られた民衆蜂起

最終章・ジャーナリズム
 民衆が情報源/言論の自由と知る義務/「中立・客観」報道とは/危険地の取材/“怒り”が原点

(土井敏邦ウェブサイトから)
http://doi-toshikuni.net/j/amirahass/

国連「オスロ合意」はどこへ行った?
ヨルダン川西岸
監督:土井敏邦  2019年 347分

パレスチナ国家」実現の希望は閉ざされようとしている。西岸最大の都市ヘブロンでは、ユダヤ人入植者たちの脅迫と暴行によって住民の生活と生命が脅かされ、ヨルダン渓谷と南ヘブロンではイスラエルによって土地や水資源が奪われる一方、入植地が増殖され、着実に“イスラエルへの併合”へ道をたどりつつある。ヨルダン川西岸で起きている“構造的な暴力”の実態と背景を報告する。


第1部 ヘブロン

《第1部》73分/《第2部》71分
西岸最大の都市ヘブロン。パレスチナ人20万人が暮らすこの街の中心部に800人ほどのユダヤ人入植者が住み着き、彼らを守るため数百人のイスラエル兵と警察官が常駐する。街の中心で暮らすパレスチナ人の家屋は没収・買収され、そこは次々と入植地に変っていく。そのヘブロンの現状と共に、入植者やイスラエルの軍と警察による日常的な恐喝や暴行に怯えながらも、先祖代々の家と土地を死守しようとするパレスチナ人住民たちの闘いとその声を伝える。


第2部 ヨルダン渓谷

《2007年4月》54分
ヨルダン渓谷最大の農村に住み込み、住民の生活とその環境をつぶさに追う。また近隣のユダヤ人入植地の実態と、「生きるため」に入植地で働かざるをえない住民の“経済的な従属化”の現状と背景を描く。

《2016年11月》58分
イスラエルは、戦略上の重要性からヨルダン渓谷の“併合”をめざす。そのためにパレスチナ人住民の土地や水資源を収奪し、生活に不可欠なインフラ整備を阻止することによって、住民の“間接的な追放”を狙う。そのイスラエルによる土地や水資源の収奪の実態、被害住民の「オスロ合意」観、“土地”に対する思いを、証言によって報告する。


第3部 南ヘブロン

《第1部》43分/《第2部》48分
イスラエル政府によって「軍事制限区域」に指定されたパレスチナ人の15の村々。住民は村で暮らすことが「違法」とされ、イスラエルの軍や警察によるインフラ整備の妨害や家屋破壊、土地没収にさらされる。一方で、ユダヤ人入植地が次々と建設され、入植者による住民への恐喝・暴行が横行する。それらは、“「C地区」併合のための住民追放”というイスラエルの政策の一環であることを、2人のイスラエル人専門家が解説する。

(土井敏邦ウェブサイトから)
http://doi-toshikuni.net/j/westbank/

息子の成長記録が目的だったが…
壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び
監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダヴィディ  2011年・パレスチナ/イスラエル/仏/蘭 90分

パレスチナの民主抵抗運動の中心地であるビリン村で農業を営んでいたイマード・ブルナートは、四男ジブリールの誕生を機にカメラを手に入れた。息子の成長する様子と共に、村の耕作地を強制的に奪った「分離壁」の建設に怒った村人たちの非暴力デモを記録するイマード。撮影中、銃撃によって、事故によって、彼のカメラは何度も壊れた。だが、その度に新しいカメラを手に入れ、息子の姿や友人たちの闘い、そして拡大していく入植の実態を見つめていく。(商品説明から)

音楽の力で分断を乗り越える!
自由と壁とヒップホップ
監督:ジャッキー・リーム・サッローム  2008年・パレスチナ/米 94分

初のパレスチナ人ヒップホップ・グループのDAM。彼らの音楽は年齢や性別、国境さえも超え、希望を失った若者や女性、子どもたちに夢を与えていた。DAMの影響で、他の地域でもヒップホップを始める若者が増え始め、抑圧に押し込められていた感情をメロディにのせ、苦難に立ち向かう勇気を生み出していく。DAMを中心に、ラマラに各地のパレスチナ人ヒップホップ・グループを集め、音楽フェスティバルを開こうとするが、彼らの居住地はイスラエルが建設した分離壁や検問所などにより遮られていた。占領と貧困にあえぐパレスチナで、ヒップホップと出会った若者たちが、音楽の力で差別や分断などの壁を乗り越えようとする姿を、ジャッキー・リーム・サッロームが力強く描くドキュメンタリー。

体験の共有を目指して
ルート181 (英語版)
監督:ミシェル・クレフィ、エイアル・シヴァン
   2003年・ベルギー/仏/英/独 275分

1947年の国連決議181条で採択されたパレスチナ分割案の境界線。それを「ルート181」と名づけたパレスチナ人クレイフィとイスラエル人シヴァンの両監督が、南から北へ、境界線沿いに旅をする。道すがら出会うユダヤ人やアラブ人の言葉に耳を傾け、このルート181に凝集された様々な人々の過去や現在をカメラに収めていく。

近東の「現実」における悲劇的な状況は、人間が作り出したイデオロギー的かつ病的な構造だ。作り出したのが人間である以上、人間によって解体できないはずがない。私たちが本プロジェクトで求めるものは「体験の共有」である。現実に対して、そして現実に応じて行動するために、私たちは幻想化や神秘化をせず、あるがままに受け入れる準備がある。両監督の言葉である。南部(86分)、中部(104分)、北部(85分)の三部構成で、2005年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞した作品。日本語版のリリースが望まれる。

ページの先頭へもどる

これは犯罪だ
パレスチナからフクシマへ
監督:土井敏邦  2018年 56分

イスラエル建国で故郷を追われ、空爆や砲撃で家と家族を失ったガザのパレスチナ人は、原発事故で故郷を追われた“フクシマ”に何を観るのか。「第二のノーベル平和賞」受賞者、パレスチナの人権弁護士ラジ・スラーニが飯舘村への旅と村民との対話の中で、“パレスチナ”と“フクシマ”の普遍性を探っていく。
(土井敏邦ウェブサイトから)

http://doi-toshikuni.net/j/palestine_fukushima/

 
あなたは西サハラを知っていますか?
銃か、落書きか ~サハラーウィ人民の非暴力闘争~
監督:ジョルディ・オリオラ・フォルク  2020年・西サハラ 51分

2020年3月14日から開催のイスラーム映画祭5で上映された、アフリカ最後の植民地と言われる西サハラを舞台にした映画『銃か、落書きか』(2016年)が無料公開されています。モロッコによる占領の実情と、西サハラの民サハラーウィの焦燥と葛藤を伝えるドキュメンタリー映画です。

◆撮影を極秘で敢行

西サハラでは、大西洋岸のほとんどの地域において、モロッコによる軍事力を背景にした占領が続けられている。元来この地に生活してきたサハラーウィと呼ばれる人々は、モロッコの占領政策に苦しみながら、45年もの月日を過ごしてきた。

モロッコ占領地への取材者の入域は厳しく制限されており、ここで国外メディアによる取材が許可されることは、まずない。『銃か、落書きか』を制作したスペインの映像作家ジョルディは、現地のサハラーウィと連携しながら、撮影を極秘で敢行した。

国連において西サハラは、帰属未決の地であり、独立かモロッコの一部となるかを決める住民投票の実施が待たれる地域とされている。しかしモロッコは、植民と開発を続けながら、西サハラ支配の既成事実を積み重ねてきた。サハラーウィが西サハラ占領政策に異を唱えれば、政治犯としてとらえられてしまう。投獄や拷問が日常的に行われ、声をあげる自由はない。

このような状況においても、サハラーウィたちは住民投票の実施をあきらめず、声をあげ続けてきた。長期にわたって投獄され、収監時に受けた暴力の傷痕に今も苦しみながら、サハラーウィの活動家たちは様々な手を尽くし、占領に抗い、その不当性を訴え続けている。

また、サハラーウィは、占領地の実情を外部に伝える取り組みも行っている。Equipe Mediaと呼ばれるメディアチームを編成し、モロッコ当局による弾圧や暴力の実情を、文章と写真、映像とともに、インターネットを介して国際社会へ配信してきた。困難と危険を伴いながらも、西サハラの実情を世に伝え続けることもまた、サハラーウィの戦いの一部である。

ここまで、アジアプレス・ネットワークより転載。
https://www.asiapress.org/apn/2020/03/african-countries/western-sahara-3/2/


YouTubeで視聴することができます。
https://www.youtube.com/watch?v=nZs6Ar4TBzo

100年前に描かれた近未来
1984 (1956年版)
監督:マイケル・アンダーソン  1956年・英 91分

核戦争後、三大国に分割された1984年の世界、大国のひとつ一部となったイギリスの首都ロンドンは、指導者“ビッグ・ブラザー”を元首とする全体主義政権の支配下にあった。あらゆる自由が禁止される過酷な生活の中、情報を管理する真理省の職員ウィンストンは同じ職場で働くジュリアから愛を告白され、死刑に値する“自由な恋愛”という危険な道を進んでいく。

20世紀を代表する文学の一冊にも数えられ、村上春樹の大ヒット小説『IQ84』の元ネタともなったジョージ・オーウェルの世界的ロングセラー『1984年』の初映画化作品。撮影、セット、衣装などは独創的なヴィジュアルイメージに溢れ、オーウェルの描く衝撃の近未来を、名匠マイケル・アンダーソン監督が見事に映像化した問題作だ。(商品解説より)

70年前から私たちへの問いかけ
1984 (1984年版)
監督:マイケル・ラドフォード  1984年・英 113分

国家はビッグ・ブラザーを「指導者」とし、その下で全体主義を敷き、他国との戦争に明け暮れる1984年。主人公は記録局に勤務し、国家の意向に従って、過去から現在までの記録を修正、削除、徹底した国民への情報操作をおこなっていた。警察は市民生活を厳格に取り締まり、個人の自由も制限されている。こうした国家体制に疑問を抱き始めた彼はひとりの女性と出会う。恋に落ちる二人。しかし、そこは恋愛すらも禁じられたデストピア…。

ジョージ・オーウェルが1949年に書いた未来小説を、1984年、その年になって映画化した作品。あらゆるものが監視され、管理化された社会。完璧な治安、考えたり判断しなくてすむ「健全な社会」を、人は望んでいるのだろうか。現代に生きる私たちへの問いかけでもある。

階級社会は未来でもなくならない?
スノーピアサー
監督:ポン・ジュノ  2013年・韓国/米/仏 125分
 

『パラサイト 半地下の家族』でカンヌ映画祭のパルムドールに輝き、アカデミー賞をも受賞したポン・ジュノ監督が、フランスで大ヒットしたSFコミックを映画化。クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、ジェイミー・ベル、オクタヴィア・スペンサー、ジョン・ハート、エド・ハリスら、世界の錚々たる俳優陣も見もの。

温暖化を食い止めるために散布された冷却物質が効き過ぎ、地球は厚い氷河に覆われてしまう。生存した人類は、止まることなく一年間で地球を一周する永久機関の列車「スノーピアサー」の乗客だけとなった。17年間走り続ける列車、その前方車両では富裕層が優雅に暮らし、貧困層は後方の劣悪な環境下に押し込められている。列車内のすさまじい階級社会、それに対する反乱。この方舟に未来はあるのか?虐げられた人々が、ついに革命を起こす。さて、そのゆくえは…。

反骨のロック、ここに健在なり!
白い暴動
監督:ルビカ・シャー  2019年・英 84分

1970年代の英国に沸き上がった反差別運動、RAR―ロック・アゲインスト・レイシズム。その全貌に迫る音楽ドキュメンタリーである。レッド・ソーンダズを中心に、わずか数人の若者たちによって始まったRARであったが、ザ・クラッシュをはじめとするパンクやレゲエと結びつき、ついには10万人によるデモ行進と音楽フェスが開催されるという一大ムーブメントへと発展。メッセージのないロックなんて、真のロックではない!

市民社会を築く人たち
歌は何のために ―ジョリモーム路上コンサート
監督:松原明   2004年・ビデオプレス 20分

2004年6月6日、花の都パリ。大学町カルチェ・ラタンのムフタール街に人だかりが!演劇集団ジョリモームの路上ライブである。結成以来、ブレヒトの作品やパリ・コミューンを題材に、権力への抵抗や連帯をテーマにした芝居を演じてきた。市民の抗議行動に帯同するなど、傍観者でいることを潔しとしない行動するアーティスト集団だ。それを楽しみ、拍手する市民の姿…。こんな社会が羨ましい。

1.コミューン万歳
2.歌は何のために
3.マクドのマック・ストライキ
4.路上で歌う
5.すべてがうまくいっていたのに!
6.バリケードへ!(ワルシャワ労働歌)
7.名前を明かさず
8.インターナショナル

詳細はこちら → http://vpress.la.coocan.jp/jori.html
ジョリモームの公式サイト → https://cie-joliemome.org/

ページの先頭へもどる

権力は必ず腐敗する
アニメ:動物農場
監督:ジョン・ハラス、ジョイ・バチェラー  1954年・英 74分

放漫経営で落ちぶれた貧乏農場。飲んだくれで横暴なだけの農場主に耐えかねた動物たちが反乱を起こし、農場主を追放。平等の原則など革命のスローガンを掲げ、自分たちの手で理想的な動物農場を築く。ところが、革命を先導した豚の間でリーダー争いが起き、権力を掌握した豚が独裁者となり、それに追従する者たちが利権をむさぼるようになった。スローガンに巧妙な修飾文が書き加えられ、有名無実化してしまう。平等な社会を目指したはずのロシア革命が、いつの間にかスターリン独裁へと転化していったソ連を批判的に俯瞰したジョージ・オーウェルの原作をアニメ化。本邦では2008年、ジブリの手でようやく劇場公開された作品。60年以上も前に作られたとは思えない出来映えだ。

フランス発のイスラム・アニメ
アニメ:ペルセポリス
監督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー  2007年・仏 95分

イランに住むマルジはブルース・リーが大好きな9歳の女の子。1978年のイスラム革命で、反政府主義者として投獄されていた叔父が釈放されたのは良いとして、厳しくなった風紀で生活が一変。さらには隣国イラクとの戦争が勃発。それでも自由な心を失わないマルジは反抗心旺盛。自由主義思想の母親タージさえも心配になり、ウィーン留学させることに…。

パリに住むイラン人、マルジャン・サトラピの半自伝的コミックを、本人の監督・脚本で映画化した長編アニメ。少女の視点から俯瞰する、イスラム革命に始まった自国の激動の現代史。生活する者の目線ならではの生き生きとした皮肉とユーモアが楽しい。マルジの声はキアラ・マストロヤンニ、母タージはキアラの実母カトリーヌ・ドヌーヴだ。

このアニメ映画の原作は漫画「ペルセポリス」で2005年に発表されました。本の紹介のページに跳ぶ。

平和を求める女たちの闘い
グリーナムの女たち
監督:ビーバン・キドロン  1983年・英 69分

まだ東西冷戦のさなかだった1980年代、ロンドンの中心部から西南西に約80km、グリーナム・コモンにある第二次大戦中の英空軍基地跡に巡航ミサイルの貯蔵庫が作られようとした。反対する3万人もの女性たちがピース・キャンプを張り、リボンと家族の写真をフェンスに結び付け、警察の暴力に耐えながら、歌い、踊り、寝泊まりをつづけ、最後には施設を阻止。当時、映画の勉強をしていたビーバン・キドロンによる卒業制作は、平和を求める女性の抵抗運動を見事に描き出すドキュメンタリーとなった。日本語版は、近藤和子の解説を被せたものになっている。

働き闘う女性たち
WHY WOMEN COUNT (英語版)
制作: 2008年・TVE 80分

アフリカ・中東・南アジア・西アフリカのリベリア共和国で女性大統領が誕生した2006年、隣国のシエラレオネでは女性町議会議長の奮闘が始まっていた。アフガニスタンでは、世界のメディアが注目している27才の闘士、元国会議員マラライ・ジョヤさんを収録。アフリカのシエラレオネ、ガーナ、ナイジェリア、南アフリカ共和国、ジンバブエ、ルワンダ、ウガンダ、ケニアの8カ国、中東からはヨルダンとレバノンの2カ国、南アジアはパキスタン、インド、ネパール、バングラデシュ、アフガニスタンの5カ国、計15カ国の主張し、行動し、闘う女性たちを紹介するドキュメンタリー。日本語版のリリースを期待したい。

これは沖縄へのレイプだ
教えられなかった戦争・沖縄編 ― 阿波根昌鴻・伊江島のたたかい
監督:高岩仁  1998年・映像文化協会 110分

沖縄本島北部の本部に生まれた阿波根昌鴻(1903~2002年)が語る、江戸幕府、日本政府、太平洋戦争後はアメリカに搾取されてきた近代沖縄の虐げられた歴史。内村鑑三に師事した彼の歩んだ道は、そのまま日本の運動思想の発展と重なる。大平洋戦争の激戦地となり、多くの民間人死傷者を出し、戦後は米軍占領下での苛烈な土地収用、本土復帰も変わらない基地負担。平和運動家としての彼の人生は、沖縄の苦難にほかならない。

ページの先頭へもどる

沖縄の人々が歩んできた苦
米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー
監督:佐古忠彦  2017年・彩プロ 107分

戦後の沖縄。米軍の支配に対し、「不屈」の精神で立ち向かった男、瀬長亀次郎の強い信念と闘いの歴史を通して、今なお基地が集中する沖縄の人々の想いの原点に迫ったドキュメンタリー。

沖縄に寄り添った男の生き様
米軍が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯
監督:佐古忠彦  2019年・彩プロ 128分

不屈の男、瀬長亀次郞を描いたドキュメンタリー『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』につづく第二作。沖縄の平和と自立のために生涯を捧げた闘争を、彼の人生と素顔にふれながら、いっそう深く掘り下げて描いている。なにがあの不屈の精神を築き上げたのか、その原点に迫っていく。

戦争準備は地球破壊
破壊を伴う開発
2005年・英BBC 25分

「破壊を伴う開発」は英国のBBC放送『アースレポート』の取材スタッフが2005年5月に沖縄を訪れ、美しいサンゴやジュゴン、海ガメの生息する沖縄を取材し、半年後の10月に世界200国以上、7億人の視聴者に向けて放映されました。番組の趣旨は、地球の自然環境保護です。沖縄は「東洋のガラパゴス」と形容されるほど、海や山には貴重な生き物が生息しています。ドキュメンタリーは、沖縄が誇るこのすばらしい自然が、公共工事や米軍基地の存在によって脅かされている事実にも目を向けています。

2005年8月13日、沖縄国際大学の構内に隣接するアメリカ海兵隊普天間基地所属のヘリコプターが墜落炎上しました。そしてその危険な普天間基地が、沖縄本島北東部の沿岸、ジュゴンの生息する海域の近くへ移転するということが、米政府と日本政府の間で合意されました。私たちはこれを黙ってみているだけでよいのでしょうか。また、不必要と思われる公共工事も様々な問題をもたらしています。

若い世代のみなさんがこのドキュメンタリーを見て、沖縄が抱える現状(基地や自然環境の問題)を考えるきっかけになれば幸いだと思います。(商品説明から)

反対運動ではなく阻止行動
海にすわる ~ 辺野古600日間の闘い ~
監督:三上智恵  2006年・琉球朝日放送 48分

「反対運動などしても基地建設は止められない。だから阻止行動なんだ」と語る人たち。普天間基地の移設先となった名護市辺野古の海上で、地元のお年寄りや市民などが繰り広げた阻止行動を、QAB琉球朝日放送が追ったもの。沖縄では2006年3月25日に放送された。約25分の短縮版が、テレビ朝日系列の『テレメンタリー』として全国的に放送されたが、深夜だったため、見逃した人も多いだろう。ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、地方の時代賞審査員選奨、日本民間放送連盟賞九州沖縄地区テレビ報道番組部門優秀賞などに輝く、一テレビ番組としては異例の秀作。

なぜ基地はなくならないのか?
誰も知らない基地のこと
監督:エンリコ・パレンティ、トーマス・ファツィ  2010年・伊 75分

尖閣諸島、竹島の領土問題で緊張高まる中韓関係を背景に、長引く普天間基地移設問題に加え、オスプレイ配備、米兵による犯罪など米軍基地をめぐる問題が連日、メディアをにぎわす。だが世界に目をやれば、基地問題は日本だけの問題ではない。現在、世界の約40カ国に700箇所以上の米軍基地が存在する。なぜ、戦後60年以上過ぎても基地をなくすことができないのか?

本作は2007年にイタリアで起こった基地拡大への反対運動をきっかけに、イタリアの若手監督2人がその謎を探る旅に出て制作したドキュメンタリー。主な取材先はビチェンツァ(イタリア)、ディエゴ・ガルシア(インド洋)、普天間(沖縄)、基地の騒音や兵士が起こす事故に苦しむ住民と専門家への取材を通じ、横暴な米軍と膨らみ続ける軍産複合体の真実を暴いていく。沖縄返還から40年を経た今、一国の存在意義を揺るがす重要課題でありながら、国民全員がその実態を把握しているとは言い難い沖縄基地問題。本作はその入門編としても最適でありすべての日本人必見のドキュメンタリーだ。(商品説明から)

“基地との共存”が意味するもの
米軍基地の町に生きる
監督:ホシノ・リナ  2011年・米 65分

米軍基地と隣り合わせに住む7人の女性たちの物語。彼女たちは、持ち前の知恵とリーダーシップと優しさで、その土地とそこに住む人々への愛情と尊敬、未来を担う世代への希望を原動力に、それぞれの地域で活動している。映画の舞台は、サンアントニオ(テキサス州)、ビエケス(プエルトリコ)、ハワイ、グアム、沖縄、韓国、フィリピン。それぞれの地域で米軍基地が生み出したのは、環境汚染、売買春、暴力、地域と文化への冒とくだった。彼女たちの闘い、喪失、勇気を通じて、この状況を変えていこうとするコミュニティーの物語が描かれる。(商品説明から)

ページの先頭へもどる

われわれ日本人の問題
沖縄 うりずんの雨
監督:ジャン・ユンカーマン  2015年・シグロ 148分

現在の“沖縄問題”は、薩摩藩に始まり、江戸幕府、明治政府へ受け継がれてきた力による支配の歴史に由来するものである。とりわけ70年前の沖縄戦が、それを決定づけた。本土決戦の時間稼ぎのため捨て石にされた沖縄。戦後、昭和天皇は、米国による沖縄統治を望むという発言をしている。1952年のサンフランシスコ講和条約で日本本土が独立を回復した後も、沖縄はさらに20年間も占領下に置かれたままだった。本土の基地が順次返還される中、沖縄の基地は強化され、負担が集中する結果に。米国と日本の二重植民地体制といえよう。沖縄の反基地運動は、アジアやアフリカが半世紀以上前に果たした植民地解放運動を闘っているのだ。

沖縄の“終わらない戦後”を描くべく、ジャン・ユンカーマンは沖縄のみならず、本土及び米国での精力的な取材を重ね、日米の元兵士はじめ多くの当事者の声を通して沖縄戦の実情とその後の基地問題の根深さを多角的に明らかにしていくとともに、不条理な抑圧に対する沖縄の人々の怒りの根幹へと迫っていく。これは断じて沖縄の問題ではない。永田町と霞ヶ関、われわれ日本人、本土に住む者の問題である。

直接行動の最前線
圧殺の海 ― 沖縄・辺野古
監督:藤本幸久、影山あさ子  2015年・森の映画社 109分

2014年7月1日に着工された辺野古新基地の建設に反対する人々と、現場を警備する警察力との生々しい攻防。大手メディアが報じることを放棄した、横暴な国家権力に非暴力で対峙する民衆の姿を記録した迫真のドキュメンタリーである。

沖縄の人々の複雑な思い
戦場ぬ止み
監督:三上智恵  2015年・東風 129分

2014年11月の沖縄知事選は、辺野古移設容認に転向した仲井真前知事と新基地建設反対を訴える翁長前那覇市長の一騎打ちとなった。保革のイデオロギーを超えて反対派が結束し、結果は翁長氏が圧勝。続く衆議院選でも、基地反対を掲げる候補が全勝と、沖縄の民意は明確に示されたかに思われたが、政府の移設計画は県民の意思を無視して「粛々と」進められていく。新基地建設の工事阻止のために命懸けで活動する人々の姿を通して、沖縄の人々が歩んできた苦難の歴史と複雑な思いを、『標的の村』の三上智恵監督が詳細に記録したドキュメンタリーである。

沖縄は「日本」なのか?
標的の島 風かたか
監督:三上智恵  2017年・東風 119分

辺野古の新基地や高江のヘリパッド建設の強行に加え、宮古島と石垣島でもミサイル基地建設と自衛隊配備が進行中だ。その背後にある米の軍事戦略と対米従属を貫く日本政府の姿勢を明らかにしながら、今ここで軍事要塞化を食い止めなければと必死の抵抗を続ける沖縄の人々の切実な思いに迫っていく。

元海兵隊員が語りかけるもの
テロリストは僕だった ~ 沖縄基地建設反対に立ち上がった元米兵たち ~
監督:大矢英代  2016年・琉球朝日放送 46分

対テロ戦争とは何であるか、兵士たちはどのようにして徴用されるのか、それに応えるのはどのような人たちなのか、彼らを戦闘マシーンへと仕立てあげる方法、帰還兵たちの境遇…。

世界各地の紛争の背景に横たわるアメリカ社会の構造的な暴力システム。軍隊以外の選択肢を奪う貧富の差は暴力にほかならない。換言するなら、アメリカは暴力を容認する社会なのだ。良い家に住んで車を買い、旅行するという夢の実現には、自分が“撃つ側”になれば良いという思想。銃所持の正当化も同じところから生まれる。

しかし、軍隊が夢を叶えてくれるところでないことは、退役軍人やその支援をする人たちの生の声でわかる。兵士募集の謳い文句は嘘八百。戦争体験者であるベテランズ・フォー・ピース(平和を求める元軍人の会)のメンバーの一人が、「元兵士として戦争は国際問題の解決策になりえないと確信した」と言う。

軍隊の基本、それは「相手を人と思うな」ということ。だからこそ躊躇なく殺せるのだ。軍隊内部で蔓延する性暴力を含む暴力事件。基地の外に“漏れ出した”ときにだけ、私たちはその存在を知ることになる。だが、軍隊の性質を考えれば、当然の帰結でしかない。

QAB琉球朝日放送が2016年に制作した、イラク戦争でテロリスト掃討作戦に参加した一人の元海兵隊員の姿を通して、米軍の構造的暴力、沖縄の米軍基地、そして国家とは何かを問う番組。ディレクターの大矢英代のブログも読んでほしい。

https://hanayooya.themedia.jp/posts/3428694/

 
私たちは、話し合って決める
島がミサイル基地になるのか 若きハルサーたちの唄
監督:湯本雅典  2021年 60分

石垣島では、2019年3月から陸上自衛隊ミサイル基地の建設が決まっている。これに対し島の中では様々なリアクションが起きた。その中の一つ、島の若者たちが始めた住民投票運動がある。

この取り組みは2018年、わずか1ヶ月間で石垣島の有権者の3分の1以上の署名を集める成果をあげた。しかし、市議会は住民投票条例案を否決。加えて石垣市は独自の自治基本条例があり、有権者の4分の1以上の請求で市長は所定の手続きを経て住民投票を実施しなければならないとされているのもかかわらず、それも市は無視した。

若者たちは裁判で住民投票の実施を求めたが、1審、2審で却下、棄却、門前払いであった。日本政府が琉球弧を軸に日米一体の軍事戦略を展開、強化している中、憲法と地方自治の破壊が日本の西端の島ですすんでいる。カメラは、その中であくまでも対話を求め、地方自治のあるべき姿を追い続ける若者たちの生き方を追った。 (商品説明から)

右翼だってホンモノはマトモだ!
愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男
監督:中村真夕  2019年・オンファロスピクチャーズ 78分

鈴木邦男。右翼団体「一水会」を創立し、右翼を代表する論客の一人。近年、その活動に注目されている人物に迫るドキュメンタリー。日本社会を覆う不寛容な空気と対峙するかのようなボーダーレスなスタンス。生粋の右翼活動家でありながら、急速な右傾化や激化する排外主義に対して警鐘を鳴らし、右翼や左翼を問わず、政治や宗教の枠も超え、多種多様な人たちと交わる。彼の理路整然とした主張を聞くと、あちらこちらで見かける右翼の多くがニセモノ右翼であることがわかるだろう。そのなんと多いことか。

鈴木邦男に密着取材すること2年。その数奇な人生を、挫折や葛藤、政治的・思想的変遷、彼をめぐる人々へのインタビューから、知られざる素顔を明らかにする。

 
キミは三里塚を知っているか…
三里塚
監督:小川紳介  小川プロダクション

-闘争から農村へ-

1966年7月、政府は地元住民の合意を得ずに、新国際空港を千葉県成田市三里塚・芝山地区へ建設することを閣議決定。その結果、建設反対運動を起こす地元住民と全学連の学生たちは鎮圧しようとする空港公団と機動隊との激しい闘争をくり広げることになった。双方の人間を克明に記録した一連の映像作品は、小川プロの名を世界に知らしめることになったのであるが…。

三里塚の農民、老人、若者、学生、その闘争の変遷が見てとれる。これは単なる反対運動の記録などではなく、生きようとする人間のエネルギーが満ちあふれた、国家権力と対峙する勇気ある小さきものたちの後世への伝言である。


  • ①『日本解放戦線 三里塚の夏』    1968年 105分
  • ②『日本解放戦線 三里塚』      1970年 144分
  • ③『三里塚 第三次強制測量阻止斗争』 1970年 48分
  • ④『三里塚 第二砦の人々』      1971年 141分
  • ⑤『三里塚 岩山に鉄塔が出来た』   1972年 86分
  • ⑥『三里塚 辺田部落』        1973年 147分
  • ⑦『三里塚 五月の空 里のかよい路』  1977年 82分
  • ⑧『映画作りとむらへの道』      1999年 53分
三里塚の人々は、なぜ国家権力と闘ったのか
三里塚に生きる
監督:大津幸四郎、代島治彦  2014年・スコブル工房 140分

1960年代に始まり、今もなお続いている成田空港建設反対闘争。その歴史を、当事者たちの証言によって明らかにするドキュメンタリー。小川紳介監督(1992年没)がライフワークとした「三里塚」シリーズの第1作、『三里塚の夏』の撮影を担当した大津幸四郎と、『三里塚のイカロス』の代島治彦が共同監督を務める。小川プロの遺産、膨大なアーカイブ映像と、大津監督が撮り下ろした現在の映像を使い、半世紀にわたる闘争の歴史を通して浮かび上がらせる、国民と国家の関係。

 
滑走路の下を掘り起こせば…
三里塚のイカロス
監督:代島治彦  2017年・ムヴィオラ=スコブル工房 138分

代島治彦が『三里塚に生きる』で描いた、成田空港建設に対して抵抗する農民たちの生活の帰結として、農民とともに闘った若者たちに焦点を当て、彼らのその後の50年を描いたドキュメンタリーである。三里塚闘争の責任者を務めた者、農民支援に入り、やがて地元農民と結婚した女性、さらには元空港公団職員など、三里塚闘争に身を置いた当時の若者たちの貴重な証言が心を揺さぶる。

伝説の学生運動
きみが死んだあとで
監督:代島治彦  2021年・「きみが死んだあとで」製作委員会 200分

1967年10月8日、第一次羽田闘争が発生。学生と機動隊の激しい衝突の中で、18歳の若者、山崎博昭が命を落とした。高校の同級生たちや当時の運動の中心人物など、総勢14人にインタビューを敢行、生き残った者たちによるその後の人生を辿りながら、当時の熱狂と、ひとりの若者の死について振り返る。

公式サイトへリンクしています。

民主主義って、なんだ
わたしの自由について - SEALDs 2015 -
監督:西原孝至  2016年 165分

2015年。第二次世界大戦以後、70年間、平和国家として歩んできた日本の安全保障が、大きく変わろうとしていた。安倍晋三首相率いる自民党は、これまでの憲法解釈を180度転換し、集団的自衛権の行使容認を含む新たな安全保障関連法案を国会に提出した。日本国憲法第9条で定められた、戦争放棄に反するこの政府の動きに、世界一政治に無関心といわれた日本国民、特に若い世代が大きな危機感を持った。東京を中心に立ち上がった、学生団体「SEALDs」(シールズ:Student Emergency Action for Liberal Democracy-s)は、毎週金曜日に国会議事堂前で抗議活動を開始し、その動きは日本全土に広がった。この映画は、数名の若者たちが手探りではじめた社会運動の、半年間の記録である。(商品説明から)

ページの先頭へもどる

ページ先頭へ