本の紹介

その他いろいろ

教えて伊藤先生! 憲法改正って何?
著者:伊藤 真  2013年・C&R研究所  1100円(税別)

ISBN 978-4-86354-129-0

 憲法改正が叫ばれるようになる中で、なにがなんでも今の憲法をまもらなければならないんだという人もいれば、日本を占領したGHQの押し付け憲法だから日本独自の憲法に変えるべきだ、80年近くたって古くなった、実情に合わないなどと主張する人、いろいろいます。どれが正しいのか、どう考えたらよいのかという前に、まず私たちは憲法について、どれくらい知っていて、どれくらい理解しているでしょうか。憲法を読んだことも、学んだことも、問題意識をもって考えたこともない人が多いのではないでしょうか。この本は、そういったごくふつうの人を対象に、豊富なイラスト、やさしい丁寧な解説で書かれています。憲法の前文と9条、96条については、わかりやすい口語訳が添えられています。

伊藤 真:
弁護士 法学館憲法研究所所長 日本国憲法の理念を伝える伝道師として 講演・執筆活動を精力的に行う。NHK「日曜討論」や「仕事学のすすめ」、テレビ朝日の「朝まで生テレビなどにも出演。さまざまな媒体を通じてメッセージを日々発信している。(本書より著者紹介 2016年)

自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!
著者:小林節、伊藤真  2013年・合同出版  1300円(税別)

ISBN 978-4-7726-1132-9

 小林節氏は改憲派、伊藤真氏は護憲派、世間一般ではそう思われている。しかし、立憲主義という点では、二人は見事に一致している。立憲主義が現代の憲法の到達点なのだから、あまりにも当然なのだが。そもそも、伊藤真氏は、現行の日本国憲法は完璧だから一字一句変えてはいけないなどとは言っていない。

 立場の違いを超えて、憲法の専門家が自民党の憲法改正草案を添削した。どこがどう間違っているか、問題の箇所に赤線を引き、その理由をわかりやすくコメントしている。結果を見れば、とても及第点はやれない、お粗末なものだということが素人にもわかる。なぜだめなのかという二人の対談を読むと、自民党政権の生い立ちと背景、目指すところが見えてこよう。


小林:
自民党はそもそも、憲法改正のためにつくられた政党です。1955年に保守合同をおこなったとき、独立を回復したのだからアメリカの屈辱から解放されて自主憲法を制定しようという目的を掲げたわけです。

― はて、アメリカの言いなりになって、基地を置かせ、兵器を買わされ、米兵の事故や犯罪を裁くことすらせず放置したままでいるのに?それは現行憲法のせいなのか?


小林:
自民党は非常にふざけた政党で、改憲を党是としながら、歴代内閣発足のたびに記者に問われると「私の内閣では改憲を政治日程にはのせません」と繰り返してきたわけです。良くも悪くも、憲法問題をそうやって軽んじてきた。そのことによって憲法論議のレベルが低くなってしまったのだと思います。

― ははぁ、憲法論議のレベルを下げ、国民の憲法に対する意識が低くなるのを待っていたわけか。十分下がった頃合いを見計らって改憲を表に出すようになったのだな。国民もなめられたもんだ。


伊藤:
そもそも自民党とは、自主憲法制定を党是とした政党ですから、改憲を主張するのは当然なんだろうなとは思います。ただ、気になるのはやっぱり、世襲議員の多さですよね。国民が主権者で主人公だという認識よりは、代々、政治家を家業としてきた自分たちがこの国を作り上げていくのだから、国民は黙ってついて来い、という匂いがぷんぷんするんですよね。

― なるほど、家業なのか。政治がビジネス、商いなら、それで利益をあげようと考えるのも当たり前だ。


伊藤:
自分たちが考えるところのいい国を作りたい、それに対して邪魔になる者は排除するんだ、国民をそれに従わせるんだ、という感じがすごくするんですね。民主主義というより、エリート支配。ところが、エリートでもなんでもない人たちが、自分たちがエリートだと思い込んで、自分たちがうまくやるから黙っていろと言っている。

― どういうのがいい国かは人によって違う。自分たちの価値観だけが正しくて、それを押し付けようとするのは、多様性(ダイバーシティ)に逆行するよな。本物のエリートでないから視野狭窄なのだろう。これじゃ世界に伍していけないよな。


 とまあ、ツッコミどころ満載の自民党憲法改正草案。これが大喜利なら笑ってすますところなのだが、そうじゃないから問題なのだ。この改憲が本当におこなわれたらどうなる?自分のこととして考えてみよう。

増補版 赤ペンチェック 自民党憲法改正草案
著者:伊藤 真  2016年・大月書店  1000円(税別)

ISBN 978-4-272-21115-9

 衆議院、参議院の憲法審査会がたびたび開かれ、「各条文のとりまとめにはいろう」などと、改憲に着手しようとする危険な動きが出ています。改憲によってわたしたちは誰もが多大な影響を受けます。どんなことが行われようとしているのかチェックしませんか。わかりやすい資料が必要ですね。

 この本では2012年に発表された自民党憲法草案の各条文について、現行憲法と比較し、それぞれの問題点を指摘しています。条文いくつかをまとめた項目ごとに次のように構成しています。

・「自民党草案」と「現行憲法」を並記
・チェックすべき点:何が問題となり得るか。
・上に対応する自民党の改憲理由
・赤ペンチェック:条文ごとの問題点を指摘

わかりやすく書かれています! 自民党草案についてぜひとも知ってください!

伊藤 真:
弁護士 法学館憲法研究所所長 日本国憲法の理念を伝える伝道師として 講演・執筆活動を精力的に行う。NHK「日曜討論」や「仕事学のすすめ」、テレビ朝日の「朝まで生テレビなどにも出演。さまざまな媒体を通じてメッセージを日々発信している。(本書より著者紹介 2016年)

どうして戦争しちゃいけないの? 元イスラエル兵ダニーさんのお話
著者:ダニー・ネフセタイ  2024年・あけび書房  1600円(税別)

ISBN 978-4-87154-252-4

 著者は1957年生まれのイスラエル人。同国の徴兵制により、空軍に3年間所属。本人の弁によれば、国を愛し、イスラエルこそ世界一と考えていた、どこにでもいる普通のイスラエル人。退役後に出た旅で来日、以来40年にわたって日本に住んでいる。埼玉で家具職人をしているが、軍事国家化が進行する祖国を憂い、パレスチナ攻撃に心を痛め、最近は平和を訴える講演会で忙しいようだ。そんな人物による、『国のために死ぬのはすばらしい?』(2016年・高文研)、『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』(2023年・集英社新書)につづく三冊目の著作。前作も良かったが、本書は中学生以上の若い人たちのために書いたという。なるほど、とてもわかりやすく、家族や子どものいる友人知人にすすめてほしい。

 1948年以降のイスラエルがおこなってきたこと、それを黙認してきた世界(特に欧米諸国)、英国の過去の植民地政策、過剰防衛に走るイスラエル国民のメンタリティを解き明かすことで、中東問題に疎い私たちにも理解しやすく書かれている。これを政治問題ではなく人権問題と捉え、そこからの脱却に必要なことは何であるかを説くのだが、そのことでイスラエルの右派からはバッシングされる立場に。相互の敵対意識は、DNAに埋め込まれたものではなく洗脳によるもので、外国に住んで祖国を外から見ることで冷静になれたという著者こそ、イスラエルの正統的な愛国者なのではないだろうか。

 イスラエルとパレスチナの問題は、ロシアとウクライナの戦争にも通じることであり、かつての日本とも共通性がある。戦争に向かう国の特徴をおさえながら、そうならないために必要なこと、国民がやらねばならぬことを明示する。国の安全保障を訴え、軍拡路線を進まんとする日本だが、防衛費が1秒あたり24万円であること、GDP比1%から2%にすれば、それが48万円になること。1機のF35戦闘機が1時間飛行すると、5600リットルの燃料を消費し、車1866台分の排気ガスを出し、1時間の飛行のためのメンテナンス費が650万円であること。そのF35戦闘機を147機購入予定であること。それらは税金でまかなわれること。こうした具体例をあげ、軍拡が国民の生活と地球環境を壊していくことに警鐘を鳴らす。

 パレスチナ関連のドキュメンタリー映像を何作も撮って来た土井敏邦氏との対談もあり、若い人だけでなく、すべての人にとって勉強になる。

NHK 100分de名著《旧約聖書》
著者:加藤隆  2014年・新潮文庫  524円(税別)

ISBN 978-4-14-223038-9

 ユダヤとイスラエルを理解するためには、彼ら・彼女らの情緒を支える重要な柱となっている旧約聖書を知ることが不可欠だ。そういう思いから、阿刀田高の『旧約聖書を知っていますか』を紹介した。一歩進んで、なぜこうした物語が作られたのか、旧約聖書はどのような構成になっているのか、成立過程を通して知ることは、現代のパレスチナを理解する大いなる手助けになるはずである。

 とは言ってみたものの、なにしろ聖書を論ずる書物は難解な大著が多く、私たち異教徒、素人には近寄りがたい印象がある。そんなおり、NHKの『100分de名著』でとりあげられていたことを思い出した。番組を見なかった人にもわかりやすく解説されている。

 ユダヤの民の起源と古代イスラエルという国の勃興の物語、それが旧約聖書である。しかし、旧約聖書は〈律法〉、ユダヤ人が従わなくてはならない法ということになっている。物語をどうやって遵守するというのだろうか。また、旧約聖書は神との間に交わされた〈契約〉とも言われたりもする。しかし、まてよ。契約というのは当事者間で結ばれる対等な取り決めである。神と人の間の契約だとすれば、神と人の双方に権利と義務が発生し、どちらにも契約の履行が求められるのだが、それでは神と人は契約の前にあっては対等であり、神ですら契約は守らねばならない、契約は神より上位にある概念ということなのか。さらには、ユダヤ人とはユダヤ教の信者のことであるというのはどういうことなのか。そもそも〈一神教〉とは何か、どうして一つの神だけが信仰されるのか。

 旧約聖書は長い時間をかけて編纂された。もちろん、ひとりの人間の手によるものではない。その過程で、様々な出来事が起こり、環境も大きく変わったことは想像に難くない。そのことが、内容を複雑化させ、矛盾を生み、理解を難しくしている。ユダヤ教徒であっても、完璧に理解している人などいない。

 宗教的な〈迫害〉についてもわかりやすく説かれている。宗教的迫害行為は、ある特定の立場だけが正しいという考えに基づいておこなわれるものだ。ものごとの善悪を決めることができるのは神だけであるにもかかわらず、神の判断ではなく自らの人間的判断で正しいとされる行為を人間が勝手におこなっている。神の代理行為と称するのは、人が自らを神になぞらえた存在であるという宣言であり、神の否定にもつながる考えである。

 著者は「神と神的現実と人、この三者の関わりを指す言葉が〈宗教〉とされがちだが、神と神的現実と人の関わりが宗教でなければならないわけではない。宗教は神の権威を背景にした人集め〈賛同者集め〉の人間的行為と考えるべきである」と言う。どうだろうか。個人の信仰と宗教の相違、宗教制度や宗教組織が社会問題になる理由がわかると思う。国家権力と宗教がむすびつくことの危険もまた見えてくるに違いない。

旧約聖書を知っていますか
著者:阿刀田高  1994年・新潮文庫  750円(税別)

ISBN 978-4-10-125519-4

 パレスチナのガザ地区に対するイスラエルの苛烈な軍事侵攻を非難する声が日増しに高まっている。それにしても、なぜこのような争いが続いているのか、何が原因で起きたのか、わからない人が多いのでは なかろうか。この疑問を解くためには、二つのキーワード、ユダヤ人とイスラエルを理解する必要がある。

 ユダヤ人とは、唯一神ヤハウェへの信仰に起源を持つユダヤ教を信仰している人々のことであり、その集団が築いたのがイスラエルという国である。ユダヤはユダという部族の名に由来するもので、実際はもっと多くの部族によって構成されているのだが、便宜的にユダヤの呼称が使われることが多いので、ここでもそれを踏襲する。そのユダヤの民の勃興と古代イスラエル王国の建国譚を記したものが、彼らの聖典である旧約聖書で、彼らなりの正義と支配を正当化したものだと言ってよい。

 旧約聖書は、ギリシャ神話や古事記に通じるところもあって、読んでいて面白い。しかしこれは歴史書ではない。だが、ユダヤ人の中には史実として受け止めている人もいる。歴史的事実であるかどうかが問題なのではなく、信じる人がいるという現実が問題を引き起こしているとも言えよう。

 旧約聖書には何が書かれているのか。有名なエピソードもあるから、断片的には知っていても、全体を通して読了した人は多くないだろう。日本語訳された旧約聖書は、文体が古かったりあまり使われることのない言葉のオンパレードで読みづらいものだ。むしろ英語で読んだ方がわかりやすかったりする。しかし、ユダヤ人とイスラエルを理解するためには避けて通れない必須の“読み物”なのだ。読破しようというチャレンジ精神旺盛な人はおいておくとして、異教徒たる一般人はどうすべきか。さて、困ったと思いきや、ぴったりの本があるではないか。阿刀田高の『旧約聖書を知っていますか』である。

 読み物としての旧約聖書は、昔から犬養道子の『旧約聖書物語』が有名で、私も読んだものなのだが、ユダヤ教徒でもキリスト教徒でもイスラム教徒でもない私たちにとっては、第三者的な視点を打ち出したこちらの方がわかりやすく、また断然面白い。

 旧約聖書の書き出しは天地創造、すなわち創世記からなのだが、犬養道子の『旧約聖書物語』と同様、本書もアブラハムの登場から始まる。アブラハムの登場以後をユダヤ民族の歴史、それより前を神話と位置づけているからであるが、先に記したように、旧約聖書の内容は“歴史”と言うよりユダヤ民族の起原と国の勃興の“物語”である。登場するモーセ、ダビデなどは、そのような人がいたということであり、モーセやダビデという名の人間が実在したことを裏付けるものはない。出エジプトは、エジプトから集団逃亡した事件があった、ソロモンの栄華も、ある時代に繁栄が築かれたという、そういう物語なのである。

 作者は文中に「異教徒として…」というフレーズを交える。日本にキリスト教徒は多くないし、そもそも宗旨にかかわらず熱心な信者がそれほど多いとはいえない国である。異教徒というのは、阿刀田高だけでなく読者を含めた一般的な人の立場から見てという意味合いだろう。そういう視点に立つと、おぼろげだったユダヤとかイスラエルの輪郭がくっきり浮かび上がってくる。集団が備えている性質は、その集団の中にいると見過ごしがちなのだが、集団の外から眺めるとわかりやすいものだ。

 花見の場面を想像してみよう。車座になってビールや酒を飲みながら焼き肉とカラオケで盛り上がっているグループがある。声はしだいに大きくなり、空き缶などのゴミは背後にポイ。まわりの迷惑そうな顔には気づかない。みな内側を向いた閉じられた世界だからである。周囲に迎合しろと言うつもりはないが、他者との関係は重要だ。こうしたことは、社会の中で、世界の中で、いつでもどこでも起きうることだし、実際に起きている。異教徒の視点というのは、言い換えれば「鳥の目」であり、ものごとを俯瞰的に考察することにほかならない。旧約聖書の世界も、他者の視点に立つことによって、これを記した人たちの世界観を客観的に知ることができる。

戦争は女の顔をしていない
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ  2016年・岩波現代文庫 1,400円

ISBN 978-4-00-603295-1

第二次世界大戦で、100万人超の女性が従軍したソ連。看護婦としてはもちろん、武器を手に兵士として戦った者も少なくない。しかし戦後、彼女らは自らの戦争体験をひた隠しにするのだった。著者は従軍した500人以上の女性から聞き取りをおこない、しられざる戦争の真実を明らかにする。2015年、ノーベル文学賞を受賞。

学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史 【上・下】
ハワード・ジン、レベッカ・ステフォフ  2009年・あすなろ書房

ISBN 978-4-7515-2611-8/978-4-7515-2612-5 各1,500円

アメリカと聞いて、何を連想するだろうか。経済大国、軍事大国、世界の警察、GDP世界一、それともマックやケンタ、スタバ、ディズニーだろうか。かつては自動車王国、努力すれば夢が叶う国などと呼ばれたりもした。世界の民主主義をリードする国だと思っている人もいる。だが、それらはすべて本当だろうか?

どの国にもネガティブな側面、黒歴史がある。アメリカだって例外ではない。ロシアがウクライナに侵攻し、世界中から非難されている。それを擁護するつもりはないが、アメリカだって第二次大戦後、20ヶ国以上を無差別爆撃してきた。そのことを、私たちはどれくらい知っているだろうか。

自国の歴史は建国の物語でもあるが、古事記を歴史と見なし、日本を「神の国」と称する人や集団が現れたりする。ギリシャの人々が、自分たちはオリンポスの神々の子孫だと言うようなものだ。アメリカには、そう言ったことはないが、やはり自国の歴史の良い面に重点が置かれ、国家権力にとって都合の悪い、負の面は見せたくない、学校でも教えたがらないという事実がある。一般大衆も、そういった事実は知りたくない、だから目をつぶってしまう。指摘する人がいると、愛国的でない、裏切り者、反米主義者というわけだ。

しかしアメリカにも、正だけでなく負の歴史を伝えよう、それを乗り越え、より良い社会を、世界を築こうという人たちがいる。その一人であるハワード・ジンの書いた『民衆のアメリカ史』を、レベッカ ステフォフが若い人向けにリライトした“A Young People's History of the United States”が日本語に訳された。それがこの本である。

アメリカという国を正しく理解するためには、正負両面、語られることのない裏側も知る必要がある。私たちの国も、手放しでアメリカに追従していって本当に良いのだろうか。それが私たちの幸福につながるのだろうか。たとえそうであるとしても、それが世界にとって、人類すべてにとって、正しいことだと言えるだろうか。的確な判断は、思考することによってのみ得られるはずだが、考えるための材料である知識が欠けていたり、よりどころとする情報が誤っていては、すべてが危うくなる。この本を読んで、アメリカという国を見つめ直し、問い直すきっかけになればと思う。

人新世の「資本論」
斎藤 幸平  2020年・集英社新書

”地球は救えるのか?”
NHKスペシャル「2030未来への分岐点」シリーズをご覧になっているでしょうか? あと9年のうちに温室効果ガス(75%程がCO2)の排出量を現在の半分に減らさなければ、現在の地球環境はポイントオブノーリターンを越えて悪化するばかりと国連機関が警告しています。例えば洪水、暴風雨、旱魃、酷暑、海面上昇がひどくなります。2100年の夏は東京には暑くて住めません。日本は2030年までに2013年比で26%削減すると宣言していますが、国際的には不十分との評価です。

以上に関連して、2021年新書大賞1位と書店に並んでいる『人新世の「資本論」』とNHK「100分で名著、資本論」の大阪市立大、斎藤幸平准教授のお考えをご存知でしょうか? 人新世(ヒトシンセイ、ジンシンセイとも)とは、人工物で地球を覆った、現在の地質学的時代の命名案で、その始期案は原水爆実験が多かった1950年代だそうです。マルクスが著した資本論第1巻と盟友エンゲルスが遺稿をまとめて出版した第2巻、第3巻には取り込まれなかった、晩期マルクスの膨大な研究ノートがあるそうで、それを120巻程にまとめる世界的なMEGA(メガ)スタディの一員として、准教授が学び取った成果が述べられています。

特に大加速時代と呼ばれるWWII後の資本主義は、森林を伐採しての大規模農園、レアメタル鉱山採掘など、あくまでも利益を求める新自由主義経済によってアフリカ奥地まで切り開かれ、地球環境を悪化させた。それは「コモン」という考えによってしか回復できないと晩期マルクスは考えていたとのこと。コモンは共有財産を共同で(=民主的に)管理することと考えればいいらしい。共有財産は、本源的蓄積以前は水、土地、山林など豊富にあり、共同体で管理されていたが、資本主義により私財に切り取られて「商品」化したと説明されています。

宇沢弘文先生が外部不経済の他に「社会的共通資本」として、水、土壌などの自然環境、電力、交通機関などの社会インフラ、教育、医療のような社会制度を営利活動から切り離すことを提唱していたことを思い出す方がいらっしゃるでしょう。その言及もあり、共有財産は同様に捉えると分かり易いようです。

現代のコモンとしては、米国で住宅、エネルギー、食料、清掃などの分野で、欧州各地でも住宅、農業などの分野でワーカーズ・コープとしての成功例があげられています。日本でも、保育、介護、農業、清掃などの分野で実績があるそうです。(日本では昨年末、労働者協同組合法が成立しました) ソ連や中国は一党独裁による国家資本主義であり、コモン運営がマルクスのいう本当のコミュニズムだとのこと。望む社会は、ゴータ綱領批判にある「能力に応じて人々に与え、必要に応じてそれを受け取る」のようです。あなたは、これに賛成?

地球温暖化は裕福な生活と密接に結びついていて、世界の富裕層トップ10%がCO2の半分を排出していて、下から50%の層は僅か10%を排出するのみだそうです。これは、富の保有と似た構成ですね。温暖化防止のためにグリーン・ニューディールやSDGsが叫ばれているが、それらはアヘンであって、解決できない、日本人の大半も「帝国的生活様式」なので1970年代の生活レベルまで落とすこと、エコバッグやマイボトルではダメだと過激です。そういえば、グレタ・トゥーンベリさんも飛行機に乗りませんでした。世界人口はまだ増加するが、地球温暖化で食糧生産は阻害され、世界的に食料問題が起こることが予測されています。成長を重視する経済から脱却して、人間と自然を重視し、効率は落として人々の必要を満たす規模を定常とする「脱成長型経済」を目指さないと問題は解決できないと主張しています。

困難な運動でも成功できる方法を提唱する学説も紹介されています。僅か3.5%の人たちでも非暴力的に本気で立ち上がれば実現可能だと言うのです。九条の会も?  KT

核に縛られる日本
田井中雅人  2017年・角川新書 924円

なぜ核兵器禁止条約を批准できないのか。核の傘に居続ける日本のジレンマ。

2017年7月、「核兵器禁止条約」が国連で賛成多数で採択された。1945年の広島、長崎への原爆投下後、核兵器を違法とする条約が国連で採択されるのは初めてである。この採択で、核時代の転換点が訪れたが、日本は唯一の被爆国でありながら不参加を表明した。〈核の傘〉に居続けるとはいえ、なぜ独自の立場を貫くことができないのか。「風下の視点」から最前線で取材してきた著者が、新聞には書けなかった核をめぐる日米外交の舞台裏・秘話に触れながら、核兵器廃絶に向けて、日本がとるべき道を問いかける。(角川のサイトより引用)

序章 核兵器禁止条約交渉 日本不参加の真相
第1章 原爆は日本人に使おう ルーズベルト
第2章 原爆使用に悔いなし? トルーマン
第3章 それでも原爆に救われた 核の神話
第4章 オバマが広島にやってきた 和解を演出する日米
第5章 勝利の兵器と風下の人々
第6章 核の桃源郷と負の遺産
終章 核時代を終わらせるために日本がとるべき道

アフガン民衆とともに
マラライ・ジョヤ  2012年・耕文社 1,700円  ISBN 978-4-86377-023-2

1978年、アフガニスタン西部のファラー州に生まれた著者。ソ連のアフガニスタン侵攻のため、4歳から16年間をイラン、パキスタンで難民生活をおくることになった。アフガニスタンの女性人権団体RAWA(アフガニスタン女性革命協会)の運営する学校で教育を受け、後に女性に対して抑圧的なムジャヒディンと呼ばれる武装勢力やタリバン政権、アメリカの占領政策を批判。2003年、ファラー州代表としてロヤ・ジルガに参加し、軍閥を批判する演説をおこない、世界から「アフガンで最も勇敢な女性」と賞賛される。2005年、27歳で最年少国会議員に選出されるも、軍閥・原理主義批判により議員資格を剥奪され、多くの知識人が欧米に脱出する中、国内にとどまり、5度にわたる暗殺未遂を切り抜けてきた。今日にいたるまで、占領の終結、民主主義の実現、女性の解放を訴え、世界を駆けめぐっている。

2009年にオバマ米大統領がノーベル平和賞を受賞した際、ノーム・チョムスキーは「ノーベル平和賞委員会は、卓越したそして注目すべきアフガンの女性活動家マラライ・ジョヤを選ぶという、真に価値ある選択をしてもよかったはずだ」と語っている。光州人権賞(2006年)、アンナ・ポリトフスカヤ賞(2008年)などを受賞。

祖国の平和と民主化、女性の人権のために活動することを選び、大学進学を見送った彼女。だが、その教養は半端ではない。著書にベルトルト・ブレヒト、マーチン・ルーサー・キング牧師、サマド・ベフランギーらの作品を引用していることからも、それがわかる。マクシム・ゴーリキー、ジャック・ロンドン、ラングストン・ヒューズ、イランの反体制派詩人アシュラフ・デフガーニなどを読み、マハトマ・ガンジーやチェ・ゲバラの伝記に触れ、パトリス・ルムンバやビクトル・ハラの生涯に影響されたという。本書は、そんな彼女の波乱に満ちた半生を綴った自叙伝である。その中から、一部だけ紹介しておこうと思う。

“自由とは他国によってもたらされるものではない。自ら闘って勝ちとるものである。大地に種をまき、血と涙を注いで育むことによってのみ芽吹き、生長するのだ。

「真理は太陽のごとく。いったん空に昇らば、何人もこれを遮ることを得ず。また、これを隠すことを得ず」―アフガンの格言である。

ささやかとはいえ、本書が、そして私の物語が、いつも太陽の輝きとならんことを。どこであろうと、読む人たちに勇気を与えんことを。平和と正義、民主主義を求める闘いの助けとならんことを。”

読売新聞書評 2012年5月20日 『アフガン民衆とともに』 祖国への連帯訴える自伝

関連映画 『祖国に幸せを 女性代議士の闘い』

コリーニ事件
フェルディナント・フォン・シーラッハ  2013年・創元推理文庫

ナチスの犯罪に関係した映画 「コリーニ事件」が2020年6月に封切りされたと教えてもらった。(ドイツでの公開は2019年6月)興味を持ったけれど、DVDが発売される(ネット配信される)のはまだ先のことだろうし、とりあえずは原作の小説を読んでみることにした。題名は同じく「コリーニ事件」。

著者はドイツの作家(元弁護士)、フェルディナント・フォン・シーラッハ、本はドイツで2011年に発行された。(和訳 2013年)

シーラッハの祖父はナチ党全国青少年指導者バルドゥール・フォン・シーラッハ 。シーラッハは大学卒業後、刑事事件弁護士になり、 元東ドイツ政治局員やドイツ連邦情報局工作員の弁護に携わったという。その後、作家に転身。

「コリーニ事件」、30年以上ドイツで勤勉に働いてきた67歳のイタリア人ファブリツィオ・コリーニがある実業家を殺害した。1カ月前に弁護士になったばかりのカスパー・ライネンが国選弁護人として弁護にあたることになるが、コリーニは弁護人にも殺害の動機を話そうとしない。しかも、殺害されたのはライネンが子どもの頃から世話になった人物で、チェスの相手をしてくれたのも彼だった。ライネンの苦悩が始まる。一度は弁護を断ろうとしたが、結局は引き受けることにする。

下の動画は映画のPV。映画を見ていないので、詳しくはわからないけれど、映画は小説を多々変更している模様。




小説を読んで知りえたことをメモとして、ここに残して置こうと思う。

その前に、物語の理解を助けるための予備知識として、エデュアルト・ドレーアーについて 、wikiからあれこれを拾ってみた。

旧西ドイツにおいて法律家で法務省の高官だったエデュアルト・ドレーアー(1907年ドレスデン近郊生まれ、1996年ボンにて死去)は、ナチス時代はインスブルック特別裁判所にて検事総長代理の職にあり、ナチスに抵抗する多くの人を 政治犯として死刑に処し、または強制収容所送りにした。戦後すぐは公職を追われはしたものの、ほどなく復職し、1960年代には刑法の専門家として法曹界に絶大なる影響力を持つ人物となった。司法の誰もが用いる刑法典の注釈書を書いたのもこの人物とのことだ。小説にもこのくだりが描写される。

戦後のドイツ法曹界ではニュルンベルク裁判は「勝者の裁判」として認知されていた。そうした法曹界の認識の元、ナチス下で政治犯に死刑判決をもたらした法曹者たちはただ「法に従った」者であるとして罪を問われることはなかった。そうして、戦後に公職追放された元ナチス関係者の大半は1950年には戻った。

上述のドレーアーは 「秩序違反法施行法」EGOWiG の草案を命じ、議会を通し、この法律は1968年10月1日に効力を持った。「秩序違反法施行法」 とは、「法や命令に従って」ナチスの犯罪に加担した法律家や軍人の罪の時効を、30年であったものを15年に短縮した法律事項である。 この「法律改正」は当時の国民や国会議員に十分に認知される間もなく、成立してしまったものらしい。「時効のスキャンダル」と呼ばれる所以。小説では、ライネンが弁護する法廷場面にてこのスキャンダル性が鮮やかにあぶり出されてくる。フリッツ・バウアーはこの年の7月1日に亡くなった。彼が生きていれば、違った展開があったかもしれないが。

(注)時効については、実際には、戦争犯罪殺人が謀殺だったか、個人的利害関係にあったか、命令された殺人(殺人幇助)だったか、殺すまでに苦痛を与えたか、恐怖心を与えたかによって、短縮時効が適用されるかどうかなど、複雑な要素があるのだけれど、ここでは割愛する。

と、ここまで読んで、わけがわからなくなったと思う。上の映画の予告編を見た人には、コリーニの殺人の動機は復讐だとすぐに分かるが、かといって、ナチスの犯罪の時効が15年だろうと30年だろうと、57年後 のナチスへの復讐殺人に何の関係があるのか、どのみち時効だったんだから、コリーニには復讐殺人しか手段はなかったんだよねと思って当然。

実は、コリーニは 、「秩序違反法施行法」が効力を持った同じ1968年に今回の被害者を告発していた。ただ、「告発案件は時効が成立するゆえ、訴追されない」という通知を受け取ったのみだった。その時に時効が短縮されていなければ、正当な手段をもって有罪にするチャンスはまだあったということ。その事実が今回の裁判の判決に影響を及ぼすということは十分考えられる。あるいは、そもそもコリーニが手を下す必要はなくなっていただろう。

小説に書いてあったことはざっと以上のこと、と理解した。

そして、巻末には以下のことが書かれてあった。

小説「コリーニ事件」の反響は大きく、本が刊行された2,3カ月のちの2012年1月に連邦法務大臣はナチスの過去の犯罪を見直すべく、調査委員会を設置した。


元ナチス党員や強制収容所生存者の子ども世代や孫世代が親や祖父母の来し方を知ろうとする題材を扱った小説、映画、ニュース記事を目にすることが折々にある。人々に訴えることによって、自分の世代の責任を果たしたいと願う人たちがいる。

AK, 2020.8.26

参考: 「不寛容な時代だからこそ伝えたいことがある」
全米が奮起! ナチ党員の孫とルームシェアするホロコースト生存者

クーリエ・ジャポンが翻訳した2017.6.5の記事(元記事はワシントン・ポスト): 有料記事だが、冒頭を読むことができる。

参考: 映画サイト:コリーニ事件

資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐
マルクス・ガブリエル/マイケル・ハート/ポール・メイソン著 斎藤幸平編  2019年・集英社新書

利潤率低下=資本主義の終わりという危機は、資本の抵抗によって、人々の貧困化と民主主義の機能不全を引き起こしたが、そこに制御の困難なAI(人工知能)の発達と深刻な気候変動が重なった。我々が何を選択するかで、人類の未来が決定的な違いを迎える「大分岐」の時代。世界最高峰の知性たちが、日本の若き俊才とともに新たな展望を描き出す! (商品説明より)

次世代論客特別対談: 白井 聡 X 斎藤幸平

NOでは足りない
著者: ナオミ・クライン  2018年・岩波書店

「アメリカ社会がもちうる最悪な要素すべてを象徴する男」「アメリカ始まって以来の“核武装したリアリティ番組大統領”」の登場。大統領執務室と「マール・ア・ラーゴ」、そしてツイッターから矢継早にくり出される政策ー規制国家の解体、福祉国家と社会福祉事業に対する徹底的な攻撃、移民と「イスラム過激派によるテロ」に対する文明的な戦い…。それらは、すでに最も弱い立場にある人々への明白な脅威であることに加えて、次から次へと危機の波を生じさせるトランプ版「ショック・ドクトリン」である。この脅威に対して「NO」と言うだけでは足りない!際限のない収奪と蕩尽に基づく社会から、思いやりと再生に基づく社会へ。みなが望み必要とするビジョンをつくり、実現するために、私たちはたゆまぬ努力をつづけなければならない。トランプへの怒りをもとに、切るような迫力の筆致で書き上げられた、人類と地球の未来のための警世と行動の書。(商品説明より)

悪と全体主義-ハンナ・アーレントから考える
著者: 仲正昌樹  2018年・NHK出版

「安心したい」── その欲望がワナになる
世界を席巻する排外主義的思潮や強権的政治手法といかに向き合うべきか? ナチスによるユダヤ人大量虐殺の問題に取り組んだハンナ・アーレントの著作がヒントになる。トランプ政権下でベストセラーになった『全体主義の起原』、アーレント批判を巻き起こした問題の書『エルサレムのアイヒマン』を読み、疑似宗教的世界観に呑み込まれない思考法を解き明かす。(商品説明より)

朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論
著者:橘 玲  2018年・朝日新書

「明日は今日よりずっとよくなる」。そういう希望がほんらいのリベラル。私たちが、そう思えないのはなぜだろう。朝日新聞に代表される戦後民主主義は、なぜ嫌われるのか。今、日本の「リベラル」は世界基準のリベラリズムから脱落しつつある。再び希望を取り戻すには、どうしたらいいのか?若者が自民党を支持するワケからネトウヨの実態、リベラルの未来像まで、世界の大潮流から読み解く、再生のための愛の劇薬処方箋!

市民政治の育てかた - 新潟が吹かせたデモクラシーの風
著者:佐々木 寛  2017年・大月書店

2016 年参院選・新潟県知事選での常識を覆す野党統一候補の勝利は「新潟ショック」と呼ばれた。その主体となった「市民連合@新潟」の要を担う政治学者が、初めて体験した選挙の裏側を赤裸々に語りつつ、市民がリードする新たな政治、そして地方からの変革の未来図を描く。

安保がわかるブックレット(17) 日米地位協定
著者:仲山、小泉、渡久地  2019年・安保破棄中央実行委

沖縄からの告発 「海兵隊は撤退を」

象徴天皇という物語
著者:赤坂憲雄  2019年・岩波現代文庫

「象徴とは何か,象徴としての天皇とは何か…….この問いにたいして,だれをも納得させるだけの明確な答えは,どこにもない.」昭和から平成への代替わりを眼前にしながら,象徴天皇制に厳しく迫り,あらたなる天皇制論の地平を切り拓いた画期的な論考が,書き下ろしの章を加えて,平成の終わりに蘇る.天皇制論の基本となる一冊

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