本の紹介

漫  画

漫画家たちの戦争

こちらは金の星社による、漫画家が描いた戦争作品のコンピレーション。中には「偏っている」と言う人もいるだろう。偏っていると思うかどうかは、その人の立ち位置に依存する。たとえば、右の方に立っている人には、真ん中にいる人が左の方にいるように見える。つまり、偏っているかどうかは、絶対的なものではなく、相対的な関係だからだ。

ここに収録された作品は、戦争や戦場を体験した、あるいは体験者から伝え聞いたことを描いたものであるがゆえ、リアルに満ちている。否定するには、幻想、いや妄想の世界に身を置くしかないだろう。それで良いかどうかは、自分自身がどう生きていくつもりなのかにかかっている。あなたが漫画の中の登場人物にならないことを願うばかりだ。

下に9冊紹介します。


●原爆といのち
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06401-7 3,200円

  • 『ブラック・ジャック』から「やり残しの家」・・・手塚治虫
  • おれは見た・・・中沢啓治
  • 地獄・・・辰巳ヨシヒロ
  • 九平とねえちゃん・・・赤塚不二夫
  • 星は見ている・・・谷川一彦
  • 黒バットの記録・・・貝塚ひろし

●子どもたちの戦争
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06402-4 3,200円

  • 屋根うらの絵本かき・・・ちばてつや
  • 疎開っ子数え唄・・・巴里夫
  • 白い雲は呼んでいる・・・永島慎二
  • 荒鷲ゴンちゃん・・・わちさんぺい
  • 少年マーチ・・・小沢さとる
  • 山ゆかば・・・あすなひろし
  • 八月の友人・・・石坂啓
  • ストライク・・・弘兼憲史

●戦争の傷あと
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06403-1 3,200円

  • 『ドラえもん』から「ぞうとおじさん」・・・藤子・F・不二雄
  • 雨の中のさけび・・・樹村みのり
  • すきっ腹のブルース・・・…手塚治虫
  • 焼けあとの元気くん・・・北見けんいち
  • 『cocoon』から「暗闇とペン先」・・・今日マチ子
  • 愛と炎・東京大空襲・・・巴里夫(原作・さわ さかえ)
  • 『三丁目の夕日』から「台風の夜」・・・西岸良平
  • 少年たちのいた夏・・・北条司
  • 寺島町奇譚』から「日和下駄」・・・滝田ゆう

●戦場の現実と正体
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06404-8 3,200円

  • 白い旗・・・水木しげる
  • 大将軍 森へ行く・・・手塚治虫
  • 死者の行進・・・楳図かずお
  • 『寄席芸人伝』から「噺家戦記 柳亭円治」・・・古谷三敏(脚本協力・あべ善太)
  • 戦場交響曲・・・松本零士
  • 母について・・・比嘉慂
  • 戦争 その恐怖の記録・・・白土三平
  • 5人の軍隊・・・秋本治

●未来の戦争
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06405-5 3,200円

  • くだんのはは・・・石ノ森章太郎(原作・小松左京)
  • 落雷・・・星野之宣
  • 地上・・・山上たつひこ
  • 飛ぶ教室・・・ひらまつつとむ
  • 百鬼夜行・・・諸星大二郎
  • THE WORLD WAR 3 地球 THE END・・・松本零士
  • 山の彼方の空紅く・・・手塚治虫
  • ある日……・・・藤子・F・不二雄


●別巻資料
金の星社 2013年 ISBN 978-4-323-06406-2 2,000円

●沖縄戦と原爆投下
金の星社 2017年 ISBN 978-4-323-06407-9 3,200円

  • 赤とんぼの歌・・・中沢啓治
  • 真理子・・・池田理代子
  • 黙祷 初枝 ― その夏・8月9日 ― ・・・川崎のぼる
  • 沖縄に散る ― ひめゆり部隊哀歌 ― ・・・水木しげる
  • ああ沖縄健児隊・・・福本和也・原作 梅本さちお・画
  • ワラビムヌガタイ ― 子どもが語る ― ・・・比嘉慂

●引き揚げの悲劇
金の星社 2017年 ISBN 978-4-323-06408-6 3,200円

  • フイチン再見!・・・村上もとか
  • 家路 1945~2003・・・ちばてつや
  • 幻の子どもたち・・・石坂啓
  • 赤いリュックサック・・・巴里夫
  • 『人間交差点』より「海峡」・・・矢島正雄・原作 弘兼憲史・画
  • 『凍りの掌 シベリア抑留記』より「出征」・・・おざわゆき
  • 『二世部隊物語 最前線』より「流血の丘」・・・望月三起也

●出征と疎開そして戦後
金の星社 2017年 ISBN 978-4-323-06409-3 3,200円

  • 『ドラえもん』より「白ゆりのような女の子」・・・藤子・F・不二雄
  • 「ゴッドファーザーの息子・・・手塚治虫
  • 火垂るの墓・・・野坂昭如・原作 滝田ゆう・画
  • この世界の片隅に・・・こうの史代
  • ああ七島灘に眠る友よ! 疎開船「対馬丸」の悲劇・・・石野径一郎・原作 木内千鶴子・画
  • 夕映えの丘に ― そこも戦場だった ― ・・・佐藤まさあき
  • 『人間交差点』より「消えた国」・・・矢島正雄・原作 弘兼憲史・画
  • 『味いちもんめ』より「若竹煮」・・・あべ善太・原作 倉田よしみ・画
  • 『テツぽん』より「汽車ぽっぽ」・・・高橋遠州・原作 永松潔・画
  • 『垣根の魔女』より「御身大事に…」・・・村野守美
手塚治虫が描く戦争の時代

日本漫画界の巨人と言えば、誰もが真っ先に思い浮かべる手塚治虫。1928年生まれの彼は、国民が国家権力に監視され、自由が奪われていく中で少年期を送る。学校教練の教官に漫画を描いているのを見つかっては殴られ、健民修錬所に入れられ、軍需工場へと勤労動員され、45年6月の大阪大空襲では九死に一生を得た。戦争の時代を実体験として知るだけに、彼の作品には、戦争の不条理と平和の尊さがそこかしこに挿入されている。この三冊は、それらのコンピレーション。手塚治虫が亡くなって34年、今日でも色褪せていないどころか、むしろ現代日本が作品に描かれた戦争に近づいているようで恐ろしい。


●手塚治虫「戦争漫画」傑作選

 祥伝社新書 2007年 ISBN 978-4-396-11087-1 750円


  • 紙の砦
  • 新・聊斎志異 女郎蜘蛛
  • 処刑は3時におわった
  • 大将軍 森へ行く ・・・
  • モンモン山が泣いているよ
  • ZEPHYRUS(ゼフィルス)
  • すきっ腹のブルース

●手塚治虫「戦争漫画」傑作選Ⅱ

 祥伝社新書 2007年 ISBN 978-4-396-11087-1 750円


  • カノン
  • ジョーを訪ねた男
  • ブラック・ジャック 魔王大尉
  • ミッドナイト 足柄山の金太郎
  • 0次元の丘
  • ザ・クレーター 溶けた男
  • I.L 南から来た男
  • イエロー・ダスト
  • 1985への出発

●手塚治虫傑作選「戦争と日本人」

 祥伝社新書 2017年 ISBN 978-4-396-11511-1 820円


  • 悪魔の開幕
  • ゴッドファーザーの息子
  • 空気の底 猫の血
  • ブラック・ジャック アナフィラキシー
  • どついたれ 抜粋
  • やまなし
  • ブラック・ジャック やり残しの家
  • 最後はきみだ!
  • ザ・クレーター 墜落機
漫画が語る戦争

戦争を描いた漫画がある。かくいう私も、子どもの頃にずいぶんたくさんの戦争漫画を読んだ。

戦争漫画には、概ね、二種類に分けられるように思われる。ひとつは雄々しく、格好良く描かれ、気分を高揚させる描き方のもの。もうひとつは悲しく、惨めな気持ちにさせられるもの。どちらが正しい、どちらが読んで面白いかなどと野暮なことはいうまい。男の子が好むのは、たいていは前者だ。そして私もその一人だった。

しかし、リアルさを求めるのであれば、誰が描いたのかに留意した方が良い。つまり、作者が戦争というものを知っているか否かである。戦争のリアルを知らずに描かれたものは、そのストーリーがいかに面白く、描写がいかに優れていても、絵空事にすぎない。知っているつもりの戦争漫画が氾濫する現代、読むに値する作品はどれかを考えることは重要だと思う。戦争の危機を感ずるのであれば、なおさらであろう。


●漫画が語る戦争 戦場の挽歌
小学館 2013年 ISBN 978-4-7780-3256-2 1,500円

  • 敗走記 ・・・水木しげる
  • 死者の行進 ・・・楳図かずお
  • 真空地帯 ・・・野間宏・作 滝田ゆう・画
  • 寄席芸人伝〈噺家戦記 柳亭円治 ・・・古谷三敏
  • イカロスの飛ぶ日 ・・・ 新谷かおる
  • 砂の剣 ・・・比嘉慂
  • 銀翼〈手紙~敬礼〉・・・立原あゆみ
  • 『マルクウ』兵器始末 ・・・湊谷夢吉
  • テロルの系譜〈一人だけの聖戦〉 ・・・かわぐちかいじ
  • 泣き原 ・・・白戸三平
  • 味いちもんめ〈若竹煮〉 ・・・あべ善太・作 倉田よしみ・画

●漫画が語る戦争 焦土の鎮魂歌
小学館 2013年 ISBN 978-4-7780-3257-9 1,500円

  • カノン・・・手塚治虫
  • 石の戦場・・・巴里夫
  • 火の瞳・・・早乙女勝元・作 政岡としや・画
  • 少年たちのいた夏・・・北条司
  • 黒い鳩の群れに・・・ 中沢啓治
  • ヒロシマのおばちゃん・・・曽根富美子
  • 家路 1945~2003・・・ちばてつや
  • 回転・・・山上たつひこ
  • 垣根の魔女・・・村野守美
漫画:凍りの掌 シベリア抑留記
おざわゆき  2012年

シベリア抑留を体験した父親の話を漫画家のおざわゆきが描く。その制作過程をNHKがドラマ化、2019年に「お父さんと私の“シベリア抑留”~『凍りの掌』が描く戦争~」のタイトルで放送している。

あとかたの街
おざわゆき  2014年

ふつうの町に、ふつうに住む、ふつうの人たちの日常生活が、戦争によってどのように変わっていくか。話題になることが少ない名古屋大空襲が描かれているところが貴重である。『凍りの掌』と同様、こちらもNHKでテレビドラマ化され、2020年に「あとかたの街~12歳の少女が見た戦争~」のタイトルで放送された。

漫画:夕凪の街 桜の国
作者:こうの史代  2004年

【夕凪の街】 原爆投下から13年が過ぎた広島の街。平野皆実は母との二人暮らし。弟の旭は戦時中に叔母夫婦の家に疎開し、そのまま養子になっていた。ある日、職場の同僚から告白されるが、原爆投下時の悲惨な光景がよみがえり、逃げ出してしまう。

 

【桜の国】 21世紀の東京に住む七波。一緒に暮らす定年退職した父親の名は旭。このところ、なにやら行動が怪しい。ある日、そっと後をつける。着いたところは、なんと広島。どうやら昔の知り合いを訪ね歩いているようだ。からみあった糸をほぐすように、だんだんと見えてくる自分の縁。

漫画とアニメの両方でブレイクした『この世界の片隅に』の作者、こうの史代が2004年に文化庁メディア芸術賞マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した同名漫画。

この漫画は2007年、実写映画化されました。「映画の紹介」ページへ跳ぶ。

漫画:この世界の片隅に
著者:こうの史代  2008年

軍港の町、広島県の呉に住む主人公。戦争を背景にした日常の暮らしと戦争直後の日本社会を静かに描いた作品である。2016年、本作を元にしたアニメ映画が公開されるや、ものすごい反響を呼び、1,133日連続上映という国内映画館における最長のロングラン記録となった。制作資金をクラウドファンディングにたよりながら。数々の賞を受賞。映像を見た後で読み直すと、一段と味わい深く感じるに違いない。

リンク先にてアニメ映画の紹介をしています。
https://bessho9.info/mov/senso.html#konosekai1

漫画 戦争は女の顔をしていない
原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
作画:小梅けいと

KADOKAWA 2020年~ 各巻1,000円

ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる同名の作品を、小梅けいとが漫画化。ウクライナ戦争が始まるや、この漫画は世代を超えたヒット作に。現在、第4巻まで刊行されている。

漫画:ペルセポリス
著者:マルジャン・サトラピ  2005年

イランに住むマルジはブルース・リーが大好きな9歳の女の子。1978年のイスラム革命で、反政府主義者として投獄されていた叔父が釈放されたのは良いとして、厳しくなった風紀で生活が一変。さらには隣国イラクとの戦争が勃発。それでも自由な心を失わないマルジは反抗心旺盛。自由主義思想の母親タージさえも心配になり、ウィーン留学させることに…。

この漫画は2007年、アニメ映画になりました。「映画の紹介」ページへ跳ぶ。

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