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これは娼婦に身を落とした女性の歌…。娼婦というのは他人に蔑まれるべき存在なのか、やむをえない背景事情で娼婦にならざるをえなかった場合はどうなのか、本人にとって肯定的な理由で娼婦になるということはあり得ないのか、そのような思いも頭をよぎるのだが、ともかくそういう歌ということになっている。
古い歌の常で、歌詞やメロディは変遷を重ね、いくつものバージョンが生み出されているから、原曲については諸説ある。北米を中心に、イギリス、アイルランド、イタリア、スペイン、カリブ海地方などの民俗音楽の録音収集・映像記録・研究家として名高いアラン・ローマックス(1915~2002年)は、1937年、ケンタッキー州で鉱夫の娘ジョージア・ターナーからこの歌を収集したと記している。
この歌は、いわゆるアメリカン・バラッドに分類されるものだ。バラッドというのは、英国の伝承歌謡のひとつのスタイルであるが、イングランドだけでなく、スコットランドやウェールズ、アイルランドまで含めた広義の英国であることに留意したい。初期の移住者である清教徒(ピューリタン)たちが北東部に定住したのに対し、それに続いた人たちはもう少し南の方、アパラチア山脈周辺に住みついた。ここには豊かな鉱物資源もあった。スコットランドやアイルランドの人々、イングランドの貧困層が海を渡ったのは、信仰の自由を求めたピューリタンとは違い、生活のためだったのである。
歌の舞台はニューオリンズであるのに、アラン・ローマックスがケンタッキー州の鉱夫の娘から採集したという背景には、もともとこの歌がニューオリンズで生まれたものではないことを意味しているのではなかろうか。もしかしたら海を渡る前の英国がルーツである可能性すらあるかもしれない。
原曲は長調だったが、どこかの時点でメランコリックな短調に変わっている。今日流布するメロディと歌詞は、1940年代、ジョシュア・ホワイト(1914~69年)によるものとされている。彼はギタリスト、ソングライターであっただけでなく、俳優であり、そして公民権運動家でもあった。1930年代には、パインウッド・トムやティッピー・バートンの名でも音楽活動をしている。この歌が知られるようになったのは、彼の功績にほかならないといえよう。人種差別に反対する政治的立場を貫いたことで、ジョシュア・ホワイトはマッカーシズム支持者によって共産主義者のレッテルを貼られ、赤狩りに巻き込まれることになるのだが、2023年、晴れてブルースの殿堂に迎え入れられた。
この歌は、レッドベリー(1888~1949年)、ロイ・エイカフ(1903~92年)、ウディ・ガスリー(1912~67年)、ピート・シーガー(1919~2014年)、デイヴ・ヴァン・ロンク(1936年~)、ボブ・ディラン(1941年~)、ジョーン・バエズ(1941年~)ら、錚々たるフォーク・シンガーたちによって歌い継がれ、米国中を巡り、英国のロックバンドであるアニマルズによって世界中に知られるようになった。それぞれ3拍子だったり4拍子だったり、あるいは独自のコード進行を伴っていたとはいえ、まだフォークとトラッドが地続きだった時代のことである。
どれが正しい歌詞でどれが正しいメロディなのか、そういったことを私が論じてもあまり意味があるとは思えないので、とりあえず最初に聴いて知ったジョーン・バエズ盤による歌詞とメロディを載せておこう。The House of the Rising Sunの題名については、「朝日の昇る家」とする方が良いと思うのだが、わが国では「朝日のあたる家」が定着しているので、それにならうことにした。
The House of Rising Sun
朝日のあたる家
There is a house in New Orleans
They call the Rising Sun
And it’s been the ruin for many poor girl
And me, oh God, for one
ニューオリンズのとある一軒
朝日のあたる家と人は呼ぶ
落ちぶれた貧しい女のあばら屋
あゝ、あたしもそのひとり
If I had listened to what my mother said
I’d have been at home today
But I was young and foolish, oh God
Let a rambler lead me astray
母さんの言うことを聞いていたなら
今ごろ家にいたはずなんだけどさ
あたしは若く、あゝ、愚かだったわ
見知らぬ人に連れられ迷い込んだってわけ
Go tell my baby sister
“Don’t do what I have done”
But shun that house in New Orleans
They call the Rising Sun
妹に会ったら伝えておくれ
あたしみたいになるんじゃないよってね
近寄っちゃいけないところ
朝日のあたる家と人は呼ぶ
I’m going back to New Orleans
My race is almost run
I’m going back to spend my life
Beneath that Rising Sun
あたしはニューオリンズに帰るわ
終わりが近いからね
残りの人生を過ごすのよ
朝日のあたる家の屋根の下で
C D
英語版と日本語版をあげておこう。英語の方はジョーン・バエズ。実に彼女のファースト・アルバム《JOAN BAEZ》に収録されている曲なのである。
浅川マキが日本語歌詞を書いている。元の歌詞を活かした巧みな訳、特に1番が素晴らしい。物憂げでメランコリックな歌いっぷりが浅川マキの声に実に良く合っている。
もうひとり、慟哭ともとれる迫力のある声で情感たっぷりに歌い上げるちあきなおみを聴かない手はない。最初に収録されたのはアルバム《VIRTUAL CONCERT 2003》だと思うが、様々なスタイルを歌い分ける圧倒的な歌唱力を楽むにはベスト盤の方が良いかもしれない。早すぎる引退が惜しまれる、本当にすごい歌手だった。
《 JOAN BAEZ 》収録曲

1. Silver Dagger
2. East Virginia
3. Fare Thee Well (10,000 Miles)
4. House Of The Rising Sun
5. All My Trials
6. Wildwood Flower
7. Donna Donna
8. John Riley
9. Rake And Rambling Boy
10. Little Moses
11. Mary Hamilton
12. Henry Martin
13. El Preso Numero Nueve
《 浅川マキ ゴールデン☆ベスト》収録曲

1. 夜が明けたら
2. ちっちゃな時から
3. 赤い橋
4. 少年
5. 朝日樓(朝日のあたる家)
6. ガソリン・アレイ
7. かもめ
8. ブルー・スピリット・ブルース
9. それはスポットライトではない
10. 裏窓
11. ナイロン・カバーリング
12. マイ・マン
13. こころ隠して
14. コントロール
15. ちょっと長い関係のブルース
16. こんな風に過ぎて行くのなら
ちあきなおみ《 微吟 》収録曲

1. 星影の小径
2. イマージュ
3. 冬隣
4. 雨に濡れた慕情
5. 四つのお願い
6. 紅とんぼ
7. 矢切の渡し
8. すり切れたレコード
9. 朝日のあたる家(朝日楼)
10. ねえあんた
11. 夜へ急ぐ人
12. 祭りの花を買いに行く
13. かもめの街
14. 嘘は罪
15. 黄昏のビギン
16. 喝采
17. 紅い花
18. そ・れ・じゃ・ネ
(しみずたけと) 2024.8.21
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