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《アニー・ローリー》で紹介したCD『TRADITIONAL FOLK SONGS & MELODIES OF SCOTLAND』の中に“Flower of Scotland”があったのにお気づきだろうか。スコットランドの国歌である。「えっ?」と思われる方も多いだろうから、少し説明しておきたい。
英国の国歌といえば“God Save the Queen”。いや、今は“God Save the King”か。昭和世代にとってはKingよりQueen、「神よ、女王陛下をまもり給え」の方がしっくりくるのだが…。立憲君主制だろうが何だろうが、王という存在が好ましいものであるとは思わないのだが、女性元首を認めるということでは、認めようとしないどこかの国よりはマシだとは言えそうであるが…。
おっと、話がそれた。この“God Save the King”、スコットランドの人々は歌わない。“God Save the King”はイングランドの国歌であって、スコットランドにはスコットランドの国歌が別にあるから。それが“Flower of Scotland”である。
1960年代初頭、スコットランド・フォーク・リバイバル期にコリーズというフォーク・グループが登場した。当初はビル・スミス(1936~2025年)、ロイ・ウィリアムソン(1936~90年)、ロニー・ブラウン(1937年~)のトリオだったが、66年にスミスが抜け、以後はウィリアムソンとブラウンがデュオとして活動。このウィリアムソンが作詞作曲した歌が「スコットランドの花」である。
Flower of Scotland
1.
O Flower of Scotland,
When will we see your like again
That fought and died for
Your wee bit hill and glen.
And stood against him,
Proud Edward’s army,
And sent him homeward
Tae think again.
1.
おゝスコットランドの花よ
いつ再び見ゆることあらんか
討ち死にせし者あり
ささやかなる汝が山河守らんがため
その者ら敢然と立ち向かい
驕れるエドワード軍を
退けしこと
思い起こすべし今一度
2.
The hills are bare now,
And autumn leaves
lie thick and still
O’er land that is lost now,
Which those so dearly held
That stood against him,
Proud Edward’s army
And sent him homeward
Tae think again.
2.
草木の枯れし丘に
秋の落ち葉
厚く積もりし
今は失われたる
かつて愛(いつく)しまれし地の上に
その者ら敢然と立ち向かい
驕れるエドワード軍を
退けしこと
思い起こすべし今一度
3.
Those days are past now
And in the past they must remain
But we can still rise now
And be the nation again!
That stood against him
Proud Edward’s army
And sent him homeward
Tae think again.
3.
そは過ぎし日のこと
しかし確かなことなり
今こそ立ち上がらん
国の再建なるぞ!
その者ら敢然と立ち向かい
驕れるエドワード軍を
退けしこと
思い起こすべし今一度
スコットランドを支配しようと、プランタジネット朝イングランド王国のエドワードⅡ世(1284~1327年)が軍勢を率いてスコットランドに攻め込んだ。イングランド軍を迎え撃つのはロバート・ザ・ブルースことスコットランド王ロバートⅠ世(1274~1329年)。1314年、ロバートはバノックバーンの戦いでイングランド軍を撃破。スコットランドの誇りと独立をかけて侵略者と戦った祖先がいたこと、その歴史的事実を記憶に留めようという歌なのである。
この歌はいつから人々の間で歌われるようになったのであろうか。私が思うに、それはラグビーの試合だったのではないのか。ラグビーワールドカップが始まる以前、ラグビーはアマチュアのスポーツだった。国の代表同士の試合をテストマッチと呼ぶ。試合の前に国歌斉唱もなければ、試合後の表彰式も国旗掲揚もない。そして試合が終われば敵も味方もない。だから「ノー・サイド」。後半が始まると応援団がチームの応援歌を歌う。テストマッチなら国歌である。
五カ国対抗ラグビーをご存じだろうか。その五カ国とは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランスである。これにイタリアが加わり、六カ国対抗となった。フランスやイタリアは主権国家だからわかるのだが、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドは〈グレートブリテン及び北アイルランド連合王国〉を構成する地方であって、主権国家ではない。それが堂々とひとつの国の代表として試合に臨む。しかもアイルランド・チームは、アイルランド共和国と北アイルランドという別個の国の合同なのだ。
それはまるで本州チーム、北海道チーム、四国チーム、九州チーム、沖縄・台湾合同チームで五カ国…みたいではないか。イギリスは、外交や国防以外の財政や教育文化などについては地方分権が進んでいる。それぞれが議会を有しており、スコットランド銀行はイングランド銀行とは別に紙幣を発行している。そういえば、エディンバラにある博物館はスコットランド国立博物館、同地に本拠を置くオーケストラはスコットランド国立管弦楽団だ。
イギリスは、EUからは離脱したものの、欧州内での地域協力を推進しながら、同時に国内の地方自治を尊重してきた。周辺のアジア諸国との緊張緩和や信頼関係の構築を図ることをせず、その一方で沖縄の自治を認めず、基地や原発立地に中央政府が政治介入し、中央集権化を進める日本とは対照的である。同じ島国であるのに、真逆の方向へ歩まんとする両国。比較してみると見えてくるものがありそうだ。
「スコットランドの花」は、まずはラグビーの大会で、スコットランド・チームを応援するときに歌われ出した。やがてサッカーの応援でも歌われるようになっていく。国際サッカー連盟(FIFA)が主催するサッカーワールドカップでも、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドは、それぞれがナショナルチームとして個別に参加。欧州地区にはドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダなどの強豪国がひしめいているから、予選を突破するのは大変だ。一つにまとめた方がより強いチームにできて本戦に行くチャンスが増えそうなものだが、そういう選択はしない。自分たちはイングランドだ、俺たちはスコットランドだ、それぞれがプライドを持っている。
ラグビーワールドカップが創設され、早くからプロ化していたサッカーと同様、ラグビーもまたプロ化した。あらゆるスポーツが商業主義に飲み込まれていくことには賛同したくないのだが、ラグビーやサッカーの試合が「スコットランドの花」を聴くきっかけになった人もいることだろう。
「スコットランドの花」は、スコットランドのラグビー協会、サッカー協会が国歌として採用しているとはいえ、正式な国歌ではない。スコットランド政府や議会が「歌え」と言っているわけではなく、人々が「歌いたいから」歌っているだけである。法律に定められているのではない。言うまでもないが、歌わない者を処分するようなこともない。スコットランドは全体主義の国ではないし、そのような野蛮国でもない。
「スコットランドの花」を国歌にしようという声は以前からある。スコットランド国立管弦楽団が2006年におこなったオンライン投票では、1万の回答のうち41%がスコットランド国歌として相応しいという結果だった。しかし国歌の制定について、スコットランド議会は「スコットランド政府が決定するものではなく、時間をかけて非公式に決定されるべき」と結論づけた。国歌は民衆の応援ソングである。国家権力によるトップダウンではなく、民衆からのボトムアップという自然な流れによって収れんしていくことが望ましいと判断したわけだ。当を得るとは、まさにこのことであろう。
::: C D :::
コリーズというグループについては、既に説明したからいいだろう。このCDは、LP時代に出された『The Corries In Concert』と『Scottish Love Songs』の二枚のアルバムをセットにした、ある意味お得盤になっている。
「スコットランドの花」は『In Concert』の方に収録されている。『Scottish Love Songs』には前に扱った「アニー・ローリー」のほか、スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズ(1759~96年)の“Ae Fond Kiss”があるのが嬉しい。ケン・ローチ監督による同名の映画『やさしくキスをして』も見てほしい。

The Corries In Concert
1.Johnny Lad
2.Wild Rover
3.Sally Free And Easy
4.Lord Of The Dance
5.Kid Songs
6.Liverpool Judies
7.Flower Of Scotland
8.Hills Of Ardmorn
9.Granny’s In The Cellar
10.Will Ye Go Lassie Go
Scottish Love Songs
1.Tiree Love Song
2.The Road To Dundee
3.Ca’ The Ewes
4.Annie Laurie
5.Hunting Tower
6.The Bonnie Lass Of Fyvie
7.Ae Fond Kiss
8.The Lowlands Of Holland
9.The Skye Boat Song
10.The Nut Brown Maiden
Traditional Folk Songs & Melodies of Scotland
(しみずたけと) 2025.7.1
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