暮れゆく一年に…


 今年も足早に一年が過ぎていった。楽しいことがなかったわけではないが、つらい話を耳にすることの方が多かったような気がする。今年に限らないことだが…。

 暮れゆく一年に思いを馳せながら聴く音楽は…と。そうだ、《四季》にしよう。バロック音楽の巨匠アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741年)のヴァイオリン協奏曲ではない。ピョートル・チャイコフスキー(1840~93年)のピアノ曲である。

 ロシアの詩人による一月から十二月の風物を描いた12の詩をもとにして書かれた作品。詩に曲がつけられているわけではなく、あくまでも曲想を得るために、詩をモチーフにしただけ。映画などでも使われたりしている。十二曲中、八曲が長調、四曲が短調。明るくカラフルなヴィヴァルディの《四季》とは対照的だ。いかにも陽光降り注ぐ南欧的なヴィヴァルディに対し、こちらは木々や草の緑も淡く、冬はモノトーンといった趣で、寒い国の静けさが漂う。各月の表題と元になった詩の作者を記しておく。

1月 炉辺にて(アレクサンドル・プーシキン)
2月 謝肉祭週(ピョートル・ヴィャゼムスキー)
3月 ひばりの歌(アポロン・マイコフ)
4月 松雪草(アポロン・マイコフ)
5月 白夜(アファナシ・フェート)
6月 舟唄(アレクセイ・プレシチェーエフ)
7月 草刈人の歌(アレクセイ・コリツェフ)
8月 収穫(アレクセイ・コリツェフ)
9月 狩り(アレクサンドル・プーシキン)
10月 秋の歌(アレクセイ・コンスタンチノヴィッチ・トルストイ)
11月 トロイカ(ニコライ・ネクラーソフ)
12月 クリスマス(ヴァシリ・ジューコフスキー)

 各月の表題を見てもらえばわかると思うが、《四季》という題になにか違和感を感ずる。四季という言葉から、私たち日本人は春夏秋冬の四つの季節、たとえば若葉が萌え出る春、夏の暑さ、紅葉の秋、雪に閉ざされる冬を思いうかべたりするが、副題である「十二の性格的小品」から、この曲が十二ヵ月のそれぞれの性格を音で描いたものであることがわかる。

 気候変動のせいか、ただ暑いだけの単調な夏が続くかと思えば、いきなり夏から冬になったりと、季節感は薄れるばかりの今日この頃である。それにともなって、昔からの行事などの風物詩も、私たちの日常生活とは一致しなくなっているのではなかろうか。この曲を聴きながら、懐古趣味的に「むかしは良かったなー」などと嘆息するのではなく、「このままで本当に良いのか」と自問自答したいものだ。


::: C D :::

1)アシュケナージ盤

 よく知られた曲だし、録音もそれなりにある。演奏会の曲目としてはどうなのだろうか。ここではウラディーミル・アシュケナージ(1937年〜)の演奏を聴いてもらおう。抜群の技巧を誇る人だが、それをひけらかすこともなく、過度の感情移入も避け、淡々と聴かせてくれる。とはいえ、BGMとして聴き流すのではあまりにももったいない。現在は指揮者としても活躍しているが、主要なピアノ曲はすべて録音しているのではないかと思うくらい、20世紀を代表するピアニストの一人である。

収録曲
1.18の小品 作品72から第5曲「瞑想曲」

2.6つの小品 作品51から第2曲「踊るポルカ」
3.情熱的な告白
4.18の小品 作品72から第3曲「やさしい非難」
5.18の小品 作品72から第2曲「子守歌」

6.四季 作品37

演奏:ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
録音:1998年


2)スヴェトラーノフ盤

 こちらはアレクサンドル・ガウク(1893〜1963年)によって管弦楽のために編曲されたものだ。元のピアノ版よりもさらに録音が少ない。ガウクの編曲は、ツボにはまっているというか、まるでチャイコフスキー自身が作曲したかのような見事さだ。重厚な曲が得意なエフゲニー・スヴェトラーノフ(1928〜2002年)だが、ここでは軽やかで小気味の良い音作りをしている。そういえば、スヴェトラーノフの指揮法の先生はガウクであった

指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ
演奏:ソビエト国立交響楽団

録音:1975年


(しみずたけと) 2023.12.22

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グレツキの《嘆きの歌の交響曲》


 この曲は、ポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキ(1933〜2010年)によって作られた。1976年の作品だから、現代音楽の範疇にあるといえるだろう。現代音楽と聞くと、なにやら難しい、斬新すぎてわかりづらいものを思い浮かべがちだが、この曲はそういった類ではない。

 グレツキはポーランド南部、オーデル川に近いチェルニツァに生まれた。かつてドイツ領だった頃はシレジアと呼ばれていた地域に属する。

 初期のグレツキは、不協和音を多用するなど、音によるアナーキズムとでも呼べそうな、非常に前衛的な音楽に傾倒していた。交響曲第1番などはその典型であろう。しかし、音楽に宗教性を打ち出すようになってからは、調性的側面を重視し、現代音楽としてはわかりやすいものへと変貌していった。この交響曲第3番は、そうした彼の変革期の到達点ともいえる作品である。

 とはいってみたものの、オーケストラとソプラノ独唱によるこの交響曲は、交響曲のセオリーからはかなり逸脱している。三楽章構成であり、すべての楽章がレント、非常にゆっくりしたもので、楽章間に緩急がないことなどが特徴である。しかし、古典から現代に至る様々な様式、三和音やオクターブ、私たち日本人には馴染み深いペンタトニックなどが散りばめられ、そのことが「聴きやすさ」を生み出しているのだと思う。

 第1楽章で歌われるのは、15世紀に書かれた、ポーランド南部の町オポーレの民謡。「我が愛しの、選ばれし息子よ、汝の傷をこの母と分かち合いたまえ…」。我が子イエスをなくした聖母マリアの嘆きを歌う哀歌である。

 第2楽章は、今やリゾート地として知られるポーランド南部のザコパネにあったゲシュタポ収容所の独房の壁に少女が走り書きした、「お母さま、どうか泣かないでください。汚れなき聖母様、いつも私をお守りくださいませ…」で始まる。すべての壁という壁には何かしら書かれていた。「出せ〜!」「オレは無実だ!」「死刑執行人のヤロー!」等々、みな大人たちの言葉である。それにくらべ、この少女の祈りはどうだ。泣いたり絶望したりすることなく、さりとて復讐を求めているのでもない。


 第3楽章の歌詞は、第一次大戦後のシレジア蜂起で、ドイツ軍に息子を殺された母親の嘆きである。「わたしの愛しい息子は何処に?」と歌う、シレジア民謡からとられたものだという。つまり、第1と第3楽章は子を亡くした親の、第2楽章は親と離ればなれになった子の立場から歌われた、子への母性、親への思慕、そして苦悩である。

 グレツキはこの曲を妻のヤドヴィガ・ルランスカに捧げた。歴史的な出来事や政治への応答とするつもりがなかったのなら、この曲の内包するメッセージは何だろうか。親子、特に母親と子どもの絆かもしれない。1960年代、ホロコーストにかかわる音楽を依頼され、彼自身もアウシュヴィッツをテーマにした作品を作ろうとしたようだが、完成させたものはひとつもない。彼は次のように語っている。

 私の家族の多くは強制収容所で亡くなりました。祖父はダッハウで、叔母はアウシュヴィッツで。ポーランド人とドイツ人の関係はご存知だと思います。しかし、バッハもシューベルトもシュトラウスもドイツ人でした。誰もがこの小さな地球上で、それぞれの立場を持っています。そのことが背後にありました。この曲のテーマは戦争ではありません。「怒り」ではなく、ありきたりの悲しみを歌った交響曲なのです。

 初演では否定的な反応が多く、決して芳しいものではなかった。ひっぱり出された古い民謡を延々と一時間弱も引きずっているだけというのである。本当かどうかわからないが、終わり近くでイ長調和音が21回くり返されるのを聴いたピエール・ブーレーズ(1925〜2016年)が「バカバカしい!」と叫んだと伝えられている。


 その一方、名優ジェラール・ドパルデュー(1948年〜)とソフィー・マルソー(1966年〜)が共演したモーリス・ピアラ(1925〜2003年)による1985年のフランス映画『ポリス』の中で、本作の第3楽章の一部が使われている。なぜか日本では上映されなかったようだが、サウンドトラックの売れ行きが好調だったというから、本国ではそれなりの人気があったのだと推測される。

 また、英国ではグダニスクの造船所で始まったポーランドの《連帯》を支援する人たちが、この曲をコンサートや映像作品の中で使ったということだ。耳目を集めるようになったのは、現実の政治とは一線を画すという作曲家の思いから離れて、かなり政治的な背景があったといえそうである。しかし、グレツキ自身が《連帯》を支持していたこともまた事実である。

 そうした状況の中でミリオンセラーとなったのが、このジンマン盤なのだ。米国の著名な音楽評論家マイケル・スタインバーグ(1928〜2009年)は、1998年、次のように問いを投げかけている。「みんな本当にこの交響曲を聴いているのかね?この曲のCDを買っている人の中で、理解できない言語で歌われる54分間の非常にスローな音楽が、自分の期待を上回る代物であると、本気でそう思う人がいったいどれだけいるのだろうか?」と。彼はノーベル賞作家ボリス・パステルナーク(1890〜1960年)―ソ連当局の圧力で受賞を辞退しているが―の小説『ドクトル・ジバゴ』を引き合いにして、「みな競うようにしてこの本を買ったものの、読むことができた人はほとんどいなかった。それと似ている」というのだ。

 なるほどども思う。ポーランド語の歌詞がわかる人は少ない。私の場合も、ポーランド人の友人―来日した映画監督のアンジェイ・ワイダ(1926〜2016年)や民主化運動を牽引したレフ・ワレサ(1943年〜)の通訳を務めた人物である―の助けがあるからこそ、どうにか意味をとれるだけだ。緩急も盛り上がりもない音楽は、確かにBGM的ではある。ベートーヴェンの交響曲のように、コンサート会場で襟を正して聴く音楽とは少し違うかもしれない。しかし、歴史を俯瞰し、政治を複眼的に見ることで社会のあり方を考えてきた者として、心に響くというか、突き刺ささるというか、訴えるようなメッセージが静かに伝わってくるのだ。作曲家本人の意思が、先に書いたとおりであるとするなら、それとは相容れないことかもしれないが。

 なお、スタインバーグの出自を、ひとつだけ書いておこう。彼はワイマール共和制時代のドイツ、ブレスラウの町に生まれた。第二次大戦後、ここはポーランド領となり、現在はヴロツワフと呼ばれている。グレツキとスタインバーグ、二人の出身地がシレジアなのは全くの偶然だろうが、なにか因縁めいたものを感ずるのは私だけだろうか。


 いま、ガザから、ウクライナから、ミャンマーから、アフリカの各地から、世界のいたるところから、子どもを奪われた母親たち、親を探す子どもたちの嘆きが聞こえてくる。私たちは何をなすべきなのか。次は自分たちに起こることかもしれない。そんなことを思う。


::: C D :::

交響曲第3番『嘆きの歌の交響曲』

指揮:デイヴィッド・ジンマン
演奏:ロンドン・シンフォニエッタ
独唱:ドーン・アップショウ

録音:1991年


(しみずたけと) 2023.12.7

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クリスマスのうた

 

 来週はもうクリスマス。コロナ禍のせいだろうか、以前のようなけたたましいまでの商戦は見られなくなったような気がする。もともとキリストの生誕を祝う宗教行事だったものが、わが国ではちょっと違和感を抱かざるを得ない、やたら騒々しいだけの季節イベントと化してしまったように感ずるのは私だけだろうか。個人的には、この時期はもう少し静かに過ごしたいと思っているのだが。

 CDショップの店頭には、クリスマスの曲を集めたディスクが並ぶ。多くは、既存の音源の中から、それらしいものを寄せ集めたオムニバス盤だ。季節商品ではあるが、ブッシュドノエルとは違うのは、25日になっても投げ売りされたりしないところだろう。ここで紹介するのは、クリスマス曲集として制作されたもの。けっして新しい録音ではないが、私のお気に入りだ。

カラヤン/アヴェ・マリア

 オリジナルのタイトルは“Christmas with Leontyne Price”のはずだが、最初に買ったLPレコードでは《カラヤン/アヴェ・マリア》となっていた。デッカに録音された、ヘルベルト・フォン・カラヤンとウィーン・フィルの演奏が10種類ほどラインアップされたシリーズの一枚で、当時はロンドン・レーベル(販売はキングレコード)。カラヤン来日に合わせた企画だからなのだろうが、このレコードの主役は、誰が考えてもソプラノ独唱のレオンタイン・プライスだろう。CD化されたあとも、あいかわらず同じ日本語タイトルが添えられている。

 プライスは、1927年、アメリカのミシシッピ州に生まれた。人種差別の強い南部だが、歌唱力を認められ、ジュリアード音楽院の奨学生に。25才の時にダラスで歌手としてデビューするが、1958年、カラヤンがヴェルディの歌劇『アイーダ』のタイトル・ロールに起用。ウィーン国立歌劇場という世界の檜舞台での成功によって、一躍脚光を浴びることになる。

 当時、まだ黒人に対する偏見は根強かったはず。米国で公民権法が成立したのは1964年のことである。カラヤンが、楽壇の帝王として君臨するようになるのはもう少し後のことであるが、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の終身指揮者だけあって、反対派を沈黙させるだけの十分な力を持っていたということだろう。その後、プライスはコヴェントガーデン王立歌劇場、ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場に登場するようになり、国際的なオペラ歌手の地位を確立していく。

 カラヤンは、1966年のザルツブルク音楽祭で、ビゼーの歌劇『カルメン』にグレース・バンブリーを起用し、87年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートではキャスリーン・バトルと共演するなど、西洋クラシック界から人種偏見を排除するという大きな役割をになった人物なのではなかろうか。

ここで聴くプライスの歌唱は見事である。あたたかみのあるビブラートに、こちらの心までもがふるえる。声楽的な評価としては、ビブラート(声のゆれ)のない方が優れた声ということになっているようだが、私は彼女のビブラートがたまらなく好きだ。このあたりは好みの問題ではあるのだが。

 曲目はクリスマスの定番ばかり。フランツ・グルーバーの「きよしこの夜」を知らぬ人はいるまい。ここでは英語とドイツ語で歌われている。そういえば、「天(あめ)には栄え」がフェリックス・メンデルスゾーンの作であったことを、ずいぶん長いこと忘れていた。ジョン・ホプキンズの「われらは3人の王」とリチャード・ウィリスの「あめなる神には」、どちらもアメリカの牧師による讃美歌である。「あら野の果てに」はフランスの、「もみの木」はドイツの、「ともに喜びすごせ」はイングランドの古いキャロル。そして「おさなごイエス」は、プライスが歌ってこその黒人霊歌だ。

 「高き天より」は、宗教改革で名高いマルチン・ルターが、1534年に書いたテクストに、1539年に自身で曲をつけたものと言われている。これをもとに、有名なオルガンによるコラール(BWV 700)を作ったのが、音楽の父と称されるヨハン・セバスチャン・バッハ。フランツ・シューベルトの「アヴェ・マリア」は、ウォルター・スコットの詩『湖上の美人』のドイツ語訳につけられたもので、同名の歌曲集の中の一曲。もともとは宗教曲ではなく、エレン・ダグラスが湖畔で父の罪の赦しを聖母マリアに乞う「エレンの歌 第3番」である。竪琴を思わせる伴奏が実に魅力的だ。アドルフ・アダンはバレエ『ジゼル』で有名だが、この「オー・ホーリー・ナイト」は声楽家が好んで歌う一曲。原詩はフランス語だが、ここではジョン・ドワイトによる英語の歌詞で歌われている。なんとゴージャスなクリスマス・キャロルであることか。

 もうひとつの「アヴェ・マリア」は、シャルル・グノーがバッハの『平均律クラヴィーア曲集 第1巻』にある「前奏曲第1番ハ長調」を移調し、これを伴奏に、カトリック教会の祈祷文を歌詞にした歌曲。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの「アレルヤ」は、カストラート歌手ヴェナンツィオ・ラウッツィーニのために作曲した『エクスルターテ・ユビラーテ』の終楽章である。

 キャロル(カロル)とは、本来は宗教とは無関係の、踊りとともに楽しむ共同体の世俗的な祝い歌で、クリスマスの頃に歌われたものがクリスマス・キャロル。中世以後、教会がこれらを讃美歌や聖歌に取り込みながら、壮大な宗教音楽の世界を築くことを思うと、クリスマスはキリスト教そのものであり、西洋クラシックが教会音楽から生まれてきたことを、否応なしに再認識させられるのではなかろうか。1961年の録音だから、もう半世紀以上も前のものだが、今なお現役で通用する名盤だと思う。

1.きよしこの夜(グルーバー)
2.天には栄え(メンデルスゾーン)
3.われらは3人の王(ホプキンズ)
4.あら野の果てに(フランスのカロル)
5.もみの木(ドイツのカロル)
6.ともに喜びすごせ(イングランドのカロル)
7.あめなる神には(ウィリス)
8.高き天より(ルター)
9.おさなごイエス(黒人霊歌)
10.アヴェ・マリア(シューベルト)
11.オー・ホーリー・ナイト(アダン)
12.アヴェ・マリア(バッハ、グノー)
13.アレルヤ K.165(モーツァルト)

独唱:
レオンタイン・プライス(ソプラノ)

合唱:

ウィーン楽友協会合唱団
ラインホルト・シュミット(合唱指揮)
ウィーン・グロスシュタット少年合唱団

演奏:

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

指揮:

ヘルベルト・フォン・カラヤン

録音: 1961年6月

ウィーン・ソフィエンザール

CHRISTMAS WITH THE ACADEMY

 もう一枚。こちらはネヴィル・マリナー(1924~2016年)が指揮するアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの管弦楽団及び合唱団によるもの。セント・マーティン・イン・ザ・フィールズとは、ロンドンの観光名所トラファルガー広場に面するスコットランド出身の建築家であるジェームズ・ギブス(1682~1754年)の代表的建築とされるSt. Martin-in-the-Fields教会のことで、ヴァイオリン奏者のネヴィル・マリナーが、1959年、ここを拠点に、各オーケストラのトップないしセカンド奏者を集めて創設したのがアカデミー…云々、略称、ASMF。もともとは指揮者なしの弦楽合奏団だったが、徐々に規模が大きくなり、現在ではオーケストラとみなして良いだろう。しばしば「アカデミー室内管弦楽団」の表記がみられるが、これは誤りである。

 小編成の管弦楽団だけあって、実に音が澄んでいる。合唱が加わると、まるで教会で聴いているような気がしてこないだろうか。この教会は、ホームレス支援に力を入れており、チャーチヤードにある野外マーケットの下(地下の空間)で炊き出しをしていたことを思い出す。学校、病院、孤児院、救貧院、これらは教会や修道院の事業だった。それと並行して、音楽や芸術も支えてきたことを思えば、驚くにはあたらない。

 ロンドン交響楽団(LSO)、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(LPO)、フィルハーモニア管弦楽団(PO)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(RPO)、BBC交響楽団、そしてASMFと、ロンドンにはワールド・クラスのオーケストラが六団体もある。こんな都市は他にない。アメリカほど陽気ではなく、ディケンズの『クリスマス・キャロル』に見られる暗さを感じさせるロンドンのクリスマス。どの楽団も、それを思い出させる音色を聴かせてくれた。

それでは、クリスマスを心やすらかに!

1.Church Bells – Past Three a Clock 3時を過ぎて(イギリス伝承)

2.O Come, All Ye Faithful 神のみ子は今宵しも

3.Ding Dong! Merrily on High ディンドン、高らかに(フランス民謡)

4.In the Bleak Midwinter 木枯らしの風はほえたけり(ダーク)

5.Sinfonia from Christmas Oratorio (Bach) クリスマス・オラトリオ:シンフォニア(J.S.バッハ)

6.Once in Royal David’s City 昔、ダビデの村に(ゴーントリット)

7.Sussex Carol サセックス・キャロル(イギリス伝承)

8.Quelle est cette odeur agréable? なんとかぐわしいこの香り(フランス伝承)

9.Il est né le divin enfant み子がお生まれに(フランス伝承)

10.L’enfance du Christ (Berlioz)オラトリオ《キリストの幼児》より:(ベルリオーズ)L’adieu des bergers à la Sainte Famille 羊飼いとの別れ 

11.同上。Le repos de la Sainte Famille サン・ファミーユの休息

12.Es ist ein Ros entsprungen 薔薇の花がほころんだ(プレトリウス)

13.Stille Nacht きよしこの夜(グルーバー)

14.Still, Still, Still 静かに、静かに(ドイツ伝承)

15.Singt und klingt イエスのために歌い、奏でよ(プレトリウス)

16.The Holly and the Ivy ひいらぎとつたは(イギリス伝承)

17.The Three Kings 聖なる三博士(コルネリウス)

18.Tomorrow Shall Be My Dancing Day 明日が私が踊る日(イギリス伝承)

19.Away in a Manger 神のみ子のイエスさまは(カークパトリック)

20.Christmas Song (Personent hodie) パーソナント・ホーディー(ドイツ伝承)

21.In dulci jubilo もろびと声あげ(ドイツ伝承)

22.Jesus Christ the Apple Tree りんごの木なるイエス・キリスト(ポストン)

23.Hark! The Herald-angels Sing – Church bells あめにはさかえ(メンデルスゾーン)

Academy & Chorus of St. Martin-in-the-Fields
Conducted by Sir Neville Marriner
Recording: St. John’s, Smith Square, London, UK,
January 1994


(しみずたけと) 2021.12.18 執筆

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なつかしいクリスマス・ソング

 クリスマスの週を迎えた。街角やショップにクリスマス音楽が流れる。メロディも素敵なのだが、ふと気がつくと、いつの間にか口ずさむ自分…。庶民に伝わっていくためには、やはり歌詞が必要なのだな。

 ポピュラーなのは、「きよしこの夜」や「天には栄え」のようなクリスマス・キャロルより、「ジングルベル」、「サンタが街にやってくる」、「ホワイト・クリスマス 」「赤鼻のトナカイ」などだろう。これらはクリスマス・ソングと呼ばれる。しかし、キャロルだって、もとは宗教とは関係ない季節の祝い歌であったことは前に書いた。こうしたクリスマス・ソングの中には、やがてクリスマス・キャロルと見なされ、讃美歌や聖歌に取り込まれていくものも現れるのかもしれない。

::: カーペンターズ :::

 クリスマス・ソングは多くのシンガーが歌い、ミュージシャンがとりあげるのだが、20世紀後半を生きた者にとって思い出深いのは、カーペンターズではなかろうか。聴きやすい速度と音程、明瞭な発音は、英語を学ぶ上でも身近な存在だった。リチャードとカレンの兄妹デュオについては、いまさら説明などいるまい。《クリスマス・ポートレイト》と《オールド・ファッションド・クリスマス》の二枚のアルバムがある。

Christmas Portrait

1.久しく待ちにし
2.メドレー ひいらぎかざろう~アイ・ソー・スリー・シップス~メリー・リトル・クリスマス~メリー・ジェントルメン~神の御子イエス様は~グリーンスリーヴス~キャロル・オブ・ザ・ベルズ~神の御子は今宵しも

3.クリスマス・ワルツ
4.楽しいそり遊び
5.メドレー クリスマス・タイム~夢の中に
6.メリー・リトル・クリスマス
7.サンタが街にやってくる
8.クリスマス・ソング
9.きよしこの夜
10.ジングル・ベル
11.メドレー ファースト・スノウ・フォール~レット・イット・スノウ
12.キャロル・オブ・ザ・ベルズ
13.メリー・クリスマス・ダーリン
14.クリスマスはわが家で
15.主は生まれ給いぬ
16.メドレー ウィンター・ワンダーランド~シルヴァー・ベルズ~ホワイト・クリスマス
17.アヴェ・マリア


An Old-Fashioned Christmas

  1. 天なる神には
  2. メドレー ハッピー・ホリデイ~まきびと羊を~おもちゃの行進~リトル・ジーザス~ママがサンタにキッスした~ああベツレヘムよ~もろびと声あげ~ジェス・バンビーノ~あら野の果てに
  3. オールド・ファッションド・クリスマス
  4. オー・ホーリー・ナイト
  5. ホーム・フォー・ザ・ホリデイズ
  6. メドレー サンタ・クロースがやってくる~フロスティ・ザ・スノウマン~赤鼻のトナカイ~よき王ウェンセスラス
  7. リトル・オルター・ボーイ
  8. ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア?
  9. 私の好きな物
  10. ヒー・ケイム・ヒア・フォー・ミー
  11. サンタが街にやってくる
  12. ホワット・アー・ユー・ドゥーイング・ニュー・イヤーズ・イヴ?
  13. バレエ組曲『くるみ割り人形』から小序曲~金米糖の踊り~トレパック~花のワルツ
  14. アイ・ハード・ザ・ベルズ・オン・クリスマス・デイ

https://youtu.be/iUwFUYQIh8c

::: シセル・シルシェブー :::

 1969年生まれのシセル・シルシェブーは、ノルウェーの国民的歌手。リレハンメル冬季オリンピックのテーマ曲を歌い、世界的に注目を集めたが、このアルバムは1987年、まだ十代の時のもの。「神から授けられた美声」が伝統的な讃美歌を歌い綴る。

聖しこの夜

  1. きよしこのよる(讃美歌109番)
  2. さやかに星はきらめき(讃美歌第二編219番)
  3. 今、クリスマス・キャンドルが灯る
  4. エサイの根より(讃美歌96番)
  5. 静かな道を光がてらす
  6. イエスきみはいとうるわし(讃美歌166番)
  7. クリスマス・メドレー
  8. マリアの男の子
  9. クリスマスの夜はとても嬉しい
  10. 大きな星
Sissel Kyrkjebø -Hark! The Herald Angels Sing – 2006

::: ナターシャ・グジー :::

 1980年、ウクライナに生まれたナターシャ・グジーは、ウクライナの民族楽器バンドゥーラの奏者としても有名。チェルノブイリ原子力発電所からわずか3.5kmのところに住んでいて、1986年の爆発事故で被ばく、避難生活を強いられる。1998年に来日し、以後、日本を拠点にして音楽活動およびチェルノブイリ、フクシマの救援活動をおこなっている。水晶のような透き通った美しい声が多くの人を魅了。バンドゥーラの弾き語りでないのだけが惜しいが、これはまさに「祈り」のアルバムだ。

メリークリスマス

  1. 星に願いを/When You Wish Upon a Star
  2. O Holy Night
  3. Winter Wonderland
  4. White Christmas
  5. Ave Maria(Schubert)
  6. Ave Maria(Bach, Gounod)
  7. Ave Maria(Caccini)
  8. Amazing Grace
  9. きよしこの夜/SILENT NIGHT
アヴェ・マリア (シューベルト) / ナターシャ・グジー

(しみずたけと) 2021.12.22

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古(いにしえ)のクリスマス

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 世俗的な祝い歌の中から、クリスマスの時期に歌われるものがクリスマス・キャロルとなり、やがて讃美歌や聖歌へと取り込まれていったこと、西洋音楽が教会に根ざしていること、そこから壮大なオラトリオやカンタータ、レクイエムが生まれたことについては、前に記したとおりである。

 ヘンデルの「メサイア」、バッハの「マタイ受難曲」、モーツァルトやベルリオーズ、ヴェルディ、ドヴォルザーク、フォーレらの「レクイエム」、ベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」、ロッシーニやドヴォルザークの「スターバト・マーテル」、ブルックナーの「テ・デウム」、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」などが有名だが、ブリテンの「戦争レクイエム」やペンデレツキの一連の作品などもその流れで生まれた曲だといえよう。

 教会音楽は、神に捧げる祈りであるから、大切なのは言葉である。それゆえ、あくまでも中心は声楽であり、オルガンやオーケストラなどの器楽は歌の伴奏でしかなかった。時代は下って、楽器とその演奏技術の進化、作曲技法の発達により、器楽が伴奏の範疇を超え、声楽と対等に、いや、声楽に取って代わり、西洋クラシックの主流たる地位を得るようになっていったのである。上にあげた一連の曲が、いずれも独唱や合唱を含むのも、そうした理由による。

 今日のクリスマスは、そうした文化爛熟の中にあるが、それ以前、人々のまわりにあった音楽はいかなるものだったのだろうか。キリスト教が浸透しはじめたケルト、アングロサクソンの時代、中世へと辿ることで、西洋クラシックの流れが見えてくるに違いない。と同時に、素朴なクリスマスの音色を味わってみてほしい。


A Celtic Christmas

Winter Ritual Song And Traditions

  1. Calenning – Wales
  2. Taladh Chriosda (Christ Child’s Lullaby) – Scotland (Isle of Barra)
  3. The Wren Hornpipe/The Christmas Eve/Winter Apples – Ireland
  4. Oika Ayns Bethlehem (Baby In Bethlehem) – Isle of Man
  5. Hunting The Wren
        a) The King – Wales
        b) Can Hera’r Dryw – Wales
       c) Sheig Y Dream – Isle of Man
       d) Wren-Boys of Dun/Wren Boys’ Song – Ireland
  6. Kanomp Nouel (Sing, Nowell) – Brittany
  7. Dublin Tune – Ireland
  8. Mari Lwyd: Can y Fair Lwyd/Cariad Cywir – Wales
  9. Da Day Dawns/Chistmas Day I da Moarnin/The Papa Stour Sword Dance – Scotland (Shetland)
  10. The Tree Of Life – Cornwall
  11. Carval ny drogh vraane (Carvale On Base Women) – Isle of Man
  12. The Gower Wassail – Wales
  13. Plygain: Wel dyma’r borau gorau I gyd – Wales
  14. Arise And Hail The Glorious Star – Cornwall
  15. The Seven Rejoices Of Mary – Ireland
  16. Ffarwel Gwyr Aberffraw (Farewell The Men Of Aberffaw) – Wales
  17. Leanabh an àigh (Blessed Child) – Scotland (Isle of Mull)
  18. Highland Pipe Medley – Scotland

Singers:
Emma Christian, Arthur Cormack, Colin McAlliter, Julie Murphy, Dave Townsend
Robin Huw Bowen (Welsh Triple Harp)
Pete Cooper (Fiddle, Viola)
Steáfán Hannigan (Irish Pipes, Bodhran, Flute)
Ceri Rhys Matthews (Welish and Breton Bagpipes, Citern, Chanter)
Dougie Pincock (Scottish Highland Pipes, Scottish Small Pipes, Bodhran)
Dave Townsend (Concertina, Accordion)


ANGLO-SAXON CHRISTMAS

10th-century Chant from the Winchester Troper
Schola Gregoriana of Canbridge
Directed by Mary Berr
y

  1. VERSUS ANTE OFFICIUM
  2. INTROIT
  3. KYRIE
  4. GLORIA
  5. GRADUAL
  6. ALLELUIA
  7. SEQUENCE
  8. OFFERTORY
  9. SANCTUS
  10. AGNUS DEI
  11. COMMUNION
  12. INVITATORY

Thys Yool – A Medieval Christmas

  1. Personent Hodie
  2. Judas & Wenceslas
  3. Hyer Matin
  4. Miri It Is
  5. Man Mei Longe
  6. Thys Yool
  7. Tapster, Drynker
  8. Ja Pour Hyver
  9. Gabriel From Heven-King
  10. Chester Nun’s Song
  11. Hail Mary Full Of Grace
  12. As I Lay On Yoolis Night
  13. Edi Be Thu
  14. Perperit Virgo
  15. O Virgo Splendens
  16. Loor De Santa Maria
  17. Polorum Regina
  18. Mariam Matrem
  19. I Pray You All
  20. Ther Is No Rose
  21. Caligo Terrae Scinditur
  22. Princeps Pacis
  23. Mors Vitae

★ Martin Best Ensemble


Christmas Chant
Traditional Latin Plainsong

  1. Sequence
  2. Invitatory
  3. Hymn
  4. Antiphon
  5. Lesson
  6. Responsory
  7. Marian Anthem
  8. Midnight Mas: Introit
  9. Kyrie
  10. Gloria
  11. Epiphany: Gradual
  12. Alleluia
  13. Midnight Mass: Offertory
  14. Sanctus
  15. Agnus Dei
  16. Midnight Mass: Communion
  17. Angelus Ad Virginem
  18. Ecce Nomen
  19. Quem Vidistis
  20. Angelus Ad Pastores
  21. Hodie
  22. Puer Natus

★ The monks of Prinknash & the nuns of Stanbrook Abbeys

Prinknash Abbey, now located in St Peters Grange, a 15th century building on the Cotswolds near Upton St Leonards, Gloucestershire UK

(しみずたけと) 2021.12.23

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