Carry Greenham Home

“Carry Greenham Home”という歌をご存じだろうか。ロンドンから西に約90km、グリーナム・コモンという場所がある。1981年、ここに平和を求める女性たちのキャンプが設立された。米国のフォーク歌手、ペギー・シーガー(1935年~)が訪れ、彼女たちのために作詞作曲したのが、このCarry Greenham Homeである。

homeとは、家庭とか家、故郷のことであるから、Carry Greenham Homeを直訳すれば、「グリーナムを家庭に、故郷に運べ」となる。現地の人々の「グリーナムを返せ」という主張だけでなく、グリーナムで起きていることをあなたの家庭に伝えてほしい、あなた方の地域の問題として受けとめてほしいという、遠く離れた人々への連帯を呼びかけているのだ。この運動スローガンが、そのまま歌の題名になり、ビーバン・キドロンのドキュメンタリー(邦題『グリーナムの女たち』)にもなっている。

歌を作ったペギー・シーガーは、アメリカン・フォークの父と呼ばれ、「花はどこへ行った」の作詞作曲で有名なピート・シーガー(1919~2014年)の異母妹である。反戦を歌い、公民権運動を推進する中でWe Shall Overcome(勝利を我等に)を広めた兄、後にパートナーになったユアン・マッコール(1915~89年)も、戦争や差別に反対する政治的な歌をたくさん書いていた。そうした影響もあったのだろう、ペギーは女性の問題について歌い、エコフェミニズム的な女性運動の賛歌をたくさん生み出すことになる。

合唱版はこちら

Carry Greenham Home

1.
Hand in hand, the line extends
All around the nine-mile fence,
Thirty-thousand women chant,
Bring the message home.

[Refrain]
Carry Greenham home, yes,
Nearer home and far away,
Carry Greenham home.

1.
手を取り合って
9マイルの柵を囲み
3万の女性が歌うのは
故郷に伝えたいこと

・くり返し
グリーナムを返せ
故郷から近くても、遠くても
グリーナムを返せ

2.
Singing voices, rising higher,
Weave a dove into the wire,
In our hearts a blazing fire,
Bring the message home.

[Refrain]

2.
歌声は高まり
フェンスに鳩のマークをつけ
心の中に燃え上がる
故郷に伝えたいこと

・くり返し

3.
No one asked us if we cared
If Cruise should be stationed here,
Now we’ve got them running scared,
Bring the message home.

[Refrain]

3.
私たちの心配を誰も聞こうともしない
巡航ミサイルが配備されても
追い払うだけよ それが
故郷に伝えたいこと

・くり返し

4.
Here we sit, here we stand,
Here we claim the common land;
Nuclear arms shall not command,
Bring the message home.

[Refrain]

4.
ここに座り、ここに立ち
ここはみんなの土地だから
核兵器なんかいらない それが
故郷に伝えたいこと

・くり返し

5.
Singing voices, sing again,
To the children, to the men,
From the Channel to the glens,
Bring the message home.

[Refrain]

5.
歌って、また歌って
子どもたちに、男たちに
南の海岸から北の山あいまで届ける
故郷に伝えたいこと

・くり返し

6.
Not the nightmare, not the scream,
Just the loving human dream
Of peace, the everflowing stream,
Bring the message home.

[Refrain]

6.
悪夢でも悲鳴でもなく
ただ愛すべき人類の夢
途切れることのない平和の流れこそ
故郷に伝えたいこと

・くり返し

7.
Woman tiger, woman dove,
Help to save the world we love,
Velvet fist in iron glove,
Bring the message home.

[Refrain]

7.
女は虎、女は鳩
愛する世界のために手を貸して
ビロードの拳にはめた鉄の手袋で
故郷に伝えたいこと

・くり返し


5番の“From the Channel to the glens”は、南島にあるチャンネル諸島からスコットランドの谷まで、すなわち英国津々浦々という意味なのだが、私たちにとってチャンネル諸島はなじみが薄く、どこにあるのかピンとこない人もいると思い、あえて「南の海岸から北の山あいまで」という訳にした。

 <CD>

Carry Greenham Homeはペギー・シーガーのアルバム“Period Pieces”に収録されている。

収録曲

1. I’m Gonna Be an Engineer
2. Nine-Months Blues
3. Lullabye for a Very New Baby
4. Different Tunes
5. Winnie and Sam
6. Reclaim the Night
7. Missing
8. Union Woman II
9. I Support the Boycott

10. Twenty Years
11. R.S.I
12. Different Therefore Equal
13. Turncoat
14. B-Side
15. Woman on Wheels
16. Carry Greenham Home
17. Darling Annie


グリーナム・コモンの女性平和キャンプ

グリーナム・コモン(Greenham Common)と聞いてもピンとこない人が多いと思うので、簡単に説明しておこう。第二次大戦中の1942年、ここに英国空軍の基地が作られた。飛び立ったランカスター爆撃機や米陸軍航空隊のB-17爆撃機がドイツ本土を猛爆。やがて戦争は終わり、不要になったはずなのに、基地は残された。

米ソ冷戦体制下の1970年代。ソ連のSS-20ミサイル配備に対抗して、NATO諸国もミサイル計画を進める。グリーナム・コモンに96発の核巡航ミサイルが配備されると発表されたのが1980年。そこは無人の原野ではなく、多くの人々が暮らす町である。有事に際して、最初の攻撃目標となる場所だ。

日本でも最近聞かれるようになった「敵基地攻撃能力」。攻撃する先がどういうところか、攻撃したらどうなるかに思いを馳せる人は少ないが、味方基地が攻撃された場合を思えば、想像はそれほど難しいことではない。この近くで言えば、横須賀、厚木、橫田にミサイルが飛んできたら…、被害は基地の中だけですむのか…。そういうことである。

それは被害に遭う危険だけではない。こちらが加害者になる可能性を常にはらんでいる。被害と加害は背中合わせ、必ずセットになっているものだ。北朝鮮のミサイル云々と言う人がいる。彼の国の政策を肯定するつもりはないが、彼らにしてみれば、自国に対する攻撃を阻止するための敵基地攻撃能力の整備にすぎない。それを非難するのであれば、敵基地攻撃能力の保有など、口にすべきではないことがわかる。

核ミサイルを撃ち合えば、結果は二つしかない。片方の死滅か、双方の死滅か、そのどちらかである。被害者にも加害者にもなりたくない。巡航ミサイルの配備に抗議する女性たちが集まりはじめ、いつの間にか「女性の平和キャンプ」となった。1981年のことである。被害に遭いたくなければ、加害の可能性を捨て去るしかない。女性の発想は、いつだって男性のそれより合理的であり、進歩的だ。いや、理性的かつ常識的と呼ぶべきか。

彼女らはねばり強く、非暴力を貫き、誰をも傷つけることなく、時にはフェンスをカッターで切って侵入し、月夜の明かりの下、ミサイルのサイロの上で踊ったりした。警官隊の弾圧にも耐えながら、19年にわたって続けられたねばり強い直接行動。1987年、米ソ間で「中距離核戦力条約」が署名され、核巡航ミサイルは撤去されることになるのだが、その陰にはこうした女性たちによる勇気ある運動が存在したのである。

キャンプでは、古くからあるWhich Side Are You On?(あんたはどっちの味方?)、フランス民謡フレール・ジャックの旋律で歌うWe Are Women(私たちは女)等に加え、数多くの歌が作られ、歌われた。興味があれば、“The Greenham Common Women’s Peace Camp Songbook”で検索してみたら良い。歌は、歌だけでなく音楽、いや芸術すべては、人に生きるための勇気を与えるものであるし、また、そうでなくてはならないものだ。音楽が、いかにして集団的アイデンティティの構築に寄与するものであるかを、グリーナムの女性平和キャンプは示している。

映像クリップ

ビーバン・キドロンのドキュメンタリー“Carry Greenham Home”(邦題『グリーナムの女たち』)については、本サイトの【映画の紹介】を参照してほしい。

(しみずたけと)  2021.10.15

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