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日本人になじみ深い英国の歌
沖縄で「あゝ!パリの美しき五月!」の替え歌「沖縄 今こそ立ち上がろう」が歌われていることを紹介した。替え歌というと、なんだかあまり上等でないB級品のようなイメージを抱かれがちである。あまり品のよろしくない替え歌があるのも確かだが、すべてがそうというわけではない。米国民の多くは自国の国歌「星条旗」を誇りに思っているはずだ。もっとも、それが英国の流行歌謡「天国のアナクレオン」の替え歌であることを知らない人が多いせいであるかもしれないが。
ところで、替え歌とは何であろうか。小学館の『精選版日本国語大辞典』によれば、「もとになった歌とふしは同じで、歌詞をかえたもの」とある。あるメロディに別の歌詞が与えられた歌、ある歌詞を別のメロディで歌うこと、そんなところであろうか。そう考えると、替え歌というのは実に多く、また様々であることに気づかされるのだ。
日本が西洋文明に門戸を開いた明治以後、商品、言語、思想、文化など、欧米から様々なモノが導入された。音楽もまた、しかり。各国の民謡もたくさん入ってきた。とりわけ多いのが英国民謡、特にスコットランド地方のものではなかろうか。明るい曲調の中に見え隠れする哀愁感が心の琴線に触れたのかどうかはわからないが、日本民謡と共通するペンタトニックスケール(五音音階)が馴染みやすかったという説は十分理にかなっていよう。
「蛍の光」「庭の千草」「故郷の空」「埴生の宿」などは唱歌とされたから、多くの日本人が知っているはずだ。自分も音楽の教科書にあったのを覚えている。英国の音楽に日本語の題と歌詞がつけられているのだが、元の歌とは大きく違っていることが多い。「蛍の光」「故郷の空」など、まさにそうだろう。当時、まだ西洋音楽の作曲技法が十分でなかったことから、日本語の歌詞を借り物のメロディで歌ったわけである。訳詞というよりまったく別の歌詞であるから、これも一種の替え歌と呼んでも差し支えないだろう。
中学生の時、NHKラジオに『基礎英語』という番組があって、それを聴いていた。その頃はまだ実社会でネイティヴの英語を聴く機会などほとんどなく、学校英語とは違う種類の勉強ができたと思う。番組のオープニングにやさしい英語の歌があり、それもまた楽しみだった。その中の一曲が「アニー・ローリー」。私が初めて覚えた英語の歌だった。
有名な歌だから、今さらという気もするのだが、簡単に記しておこう。時は17世紀半ば、場所はスコットランド南部のダンフリースシャー。マックスウェルトンの名門貴族ローリー家の美貌の長女アンナ(愛称アニー)への恋心を、ウィリアム・ダグラスが詩にしたためた。しかしローリー家とダグラス家は政治的に対立するクラン(氏族)だったため、二人の恋は実ることなく終わる。スコットランド版ロミオとジュリエットと言ったところであろうか。このウィリアムの詩に、19世紀になってスコットランドの女性音楽家アリシア・ダグラス(1810~1900年)がメロディをつけた。それが今日まで伝わる「アニー・ローリー」である。
Annie Laurie
William Douglas
Alicia Ann, Lady John Scott
1.
Maxwelton’s braes are bonnie,
Where early fa’s the dew,
Twas there that Annie Laurie
Gi’ed me her promise true.
Gi’ed me her promise true –
Which ne’er forgot will be,
And for bonnie Annie Laurie
I’d lay me down and dee.
1.
マックスウェルトンの丘
そは朝露に濡れて美しい
アニー・ローリーはそこで
ぼくに真の愛を誓った
ぼくに真の愛を誓った
そのことを忘れはしない
美しきアニー・ローリーのためなら
倒れ死すともかまわない
2.
Her brow is like the snaw-drift,
Her neck is like the swan,
Her face it is the fairest,
That e’er the sun shone on.
That e’er the sun shone on –
And dark blue is her e’e,
And for bonnie Annie Laurie
I’d lay me down and dee.
2.
彼女の額は雪のごとく
なじは白鳥のごとし
顔だちの美しさは
地上に比ぶるものなし
地上に比ぶるものなし
その深く碧い瞳
美しきアニー・ローリーのためなら
倒れ死すともかまわない
3.
Like dew on gowans lying,
Is the fa’ o’ her fairy feet,
And like winds, in simmer sighing,
Her voice is low and sweet.
Her voice is low and sweet –
And she’s a’ the world to me;
And for bonnie Annie Laurie
I’d lay me down and dee.
3.
ヒナギクの花におりた露のごとく
妖精の足が地におろされる
夏の日にそよぐ風のごとく
声は低く甘く響く
声は低く甘く響く
ぼくにとって彼女こそ世界のすべて
美しきアニー・ローリーのためなら
倒れ死すともかまわない
アニー・ローリー(作詞:堀内敬三)
1.朝(あした)露置く 野の静寂(しじま)に
いとしアニー・ローリー 君と語りぬ
永久(とこしえ)まで 心変えじ
誓いしアニー・ローリー 我がいのちよ
2.愛に輝く 君がまなざし
誠(まこと)こめたる 君がささやき
永久(とこしえ)まで 永久(とこしえ)まで
忘れじアニー・ローリー 我がいのちよ
アニー・ローリー(作詞:藤浦光)
1.なつかし川辺に 露はあれど
いとしのアニー・ローリー いまやいずこ
君に逢いし 時はゆけど
いとしのアニー・ローリー 夢忘れじ
2.雪のひたいよ やさしうなじ
輝く瞳は 清く澄みし
比ぶもなき うるわしさよ
いとしのアニー・ローリー 夢忘れじ
3.葉蔭の露にも たとうみ足
たそがれそよぐか 風のみ声
うるわしさよ 愛のことば
いとしのアニー・ローリー 夢忘れじ
この二つの歌詞は、元歌の内容を比較的よく伝えている方だと思う。堀内敬三(1897~1983年)は作詞だけでなく作曲もし、音楽評論家でもあった。音楽では生活できないことを心配したのか、生家は音楽の勉強に良い顔をしなかったらしい。そのせいだろう、米国ミシガン大学で自動車工学に関連して機械工学、マサチューセッツ工科大学大学院で応用力学を専攻。その傍ら、作曲や音楽史の勉強もしていた。結局エンジニアになることはなく、音楽分野の道へ。世界各国の歌曲や民謡の訳詞を残したが、学校の校歌や応援歌も作っている。ところで、「アニー・ローリー」が2番までなのは何故だろうか。
ほぼ同時代の藤浦洸(ふじうらこう、1898~1979年)は長崎県生まれの詩人で作詞家。堀内敬三と異なり、訳詞よりも昭和歌謡やジャズ音楽などを残した。淡谷のり子の「別れのタンゴ」「別れのブルース」、美空ひばりの「東京キッド」が知られるほか、服部良一とのコンビによる一連のブギウギは笠置シヅ子の看板レパートリーだった。この人もまた、校歌を多数残している。人口の増加、教育の義務化で学校が次々作られていった時代背景のせいだろう。
アンニー・ローリー(作詞:緒園凉子)
1.青き岸辺は 露にぬれぬ
やさしき友よ 誓いたまえ
冬去りなば また帰ると
美わしアンニー・ローリー 誓いたまえ
2.雪のかんばせ 清きうなじ
たえなる姿 光に満つ
空の星か 真澄の御眼(みめ)
美わしアンニー・ローリー 夢に浮かぶ
3.萩の下葉の 露をこぼす
野のそよ風か 君が御声(みこえ)
君が御声 心揺する
美わしアンニー・ローリー ああわが友達(ともどち)
緒園凉子(おぞの りょうし、1905~47年)の本名は内藤健三。他にいくつも筆名を持っている。世界各国の歌曲や民謡を訳し、それらは広く学校教科書に採用された。ここでのアンニー・ローリーは歌い手にとっての友だちという設定になっている。なにか時代の圧力を感じるのは私だけであろうか。
才女(作詞:里見義)
1.かきながせる 筆のあやに
そめしむらさき 世々(よよ)あせず
ゆかりのいろ ことばのはな
たぐいもあらじ その功(いさお)
2.まきあげたる 小簾(おす)のひまに
君のこころも しら雪や
蘆山(ろざん)の峯(みね) 遺愛(いあい)のかね
めにみるごとき その風情(ふぜい)
「アニー・ローリー」は「才女」という題名で唱歌に取り入れられている。「庭の千草」「埴生の宿」の日本語歌詞を手がけた里見義(1824~86年)によるものであるが、1番は紫式部が『源氏物語』を著し、後世に残した功績を、2番は清少納言が中宮定子の問いかけに豊かな教養で応えたこと、二人の才女ぶりを歌っており、元の歌とはまるで別のものになっている。替え歌というより、メロディ拝借といった方が良さそうである。
神の御子にますイエス(作詞者不明)
1.神の御子(みこ)にます イエスのために
罪を敵として 立つは誰(たれ)ぞ
すべてを捨てて 従いまつらん
わがすべてにます 王なる主イエスよ
2.富の楽しみと 地の位(くらい)に
目もくれずイエスに つくは誰(たれ)ぞ
すべてを捨てて 従いまつらん
わがすべてにます 王なる主イエスよ
3.罪に捕らわれし 魂(たましい)をば
イエスに連れ来(きた)る 勇士は誰(たれ)ぞ
すべてを捨てて 従いまつらん
わがすべてにます 王なる主イエスよ
4.わが持てるものは 主よ汝(な)がもの
きよき御戦(みいくさ)に 用い給え
すべてを捨てて 従いまつらん
わがすべてにます 王なる主イエスよ
Oh, who’ll stand up for Jesus
1.
Who’ll stand up for Jesus,
The lowly Nazarene?
And raise the blood-stained banner
Amid the hosts of sin?
Refrain:
The cross for Christ I’ll cherish,
Its crucifixion bear;
All hail! reproach or sorrow,
If Jesus leads me there.
2.
O, who will follow Jesus,
Amid reproach and shame?
Where others shrink or falter,
Who’ll glory in His Name?
Refrain:
3.
Though fierce may rage the battle,
And wild the storm may blow?
Though friends may go forever,
Who will with Jesus go?
Refrain:
4.
My all to Christ I’ve given,
My talents, time, and voice,
Myself, my reputation,
The lone way is my choice.
Refrain:
5.
O Jesus, Jesus, Jesus,
My all-sufficient Friend!
Come, fold me to Thy bosom,
E’en to the journey’s end.
Refrain:
イエスのために立ち上がるは誰ぞ
1.
粗末な身なりのナザレ人
イエスのために立ち上がるは誰ぞ
罪の軍勢の只中で
血染めの旗を掲げるは誰ぞ
《くりかえし》
キリストの十字架を胸に抱き
その磔刑を負わん
万歳! 責めも悲しみも
イエスの導きあらば
2.
責めと恥辱の只中で
イエスに従うは誰ぞ
他がひるみ、たじろぐところで
主の御名を誇りとするは誰ぞ
《くりかえし》
3.
戦いは激しく
嵐が吹き荒れ
友は永遠に去ろうと
イエスと共にゆくは誰ぞ
《くりかえし》
4.
持てるものすべてキリストに捧げん
わが才能、時間、声、
われ自身、わが名声
孤独こそわが選びし道
《くりかえし》
5.
あゝ、イエス、イエス、イエスよ
わがすべてなる友よ
どうか御胸に抱きたまえ
わが旅の終わりまで
《くりかえし》
最後に、讃美歌になった「アニー・ローリー」。収録する讃美歌集が『聖歌』582番、『聖歌総合版』618番、『新聖歌』397番、『教会福音讃美歌』455番であるところから、日本ではカトリックを中心に、プロテスタントの一部まで幅広く受け入れられているようだ。誰もが知っている歌いやすいメロディだからなのであろう。英語の歌詞の方だが、こちらは別のメロディで歌われることが多いようである。
::: C D :::
1)鮫島有美子:庭の千草

鮫島有美子(1952年~)は、ドイツ・リートなどの歌曲はもちろん、ドイツの歌劇場の専属歌手として歌っていただけあって、十分な声量と歌唱力を聴かせてくれる。クラシック畑の声楽家はすごいものだと、改めて思わされた次第。このCDは、イギリス民謡の中で、日本でも老若男女を問わずよく知られたものばかりを集めたもの。
1. なつかしき愛の歌
2. 埴生の宿
3. たゆとう小舟
4. アニー・ローリー
5. 久しき昔
6. ロンドンデリーの歌 (ダニー・ボーイ)
7. 故郷の空
8. アイルランドの子守歌
9. グリーンスリーヴス
10. スコットランドの釣鐘草
11. 春の日の花と輝く
12. 庭の千草
13. 可愛いチャーリー
14. ロッホ・ローモンド
鮫島有美子(ソプラノ)
指揮:田中良和
演奏:東京都交響楽団
合唱団OMP(合唱指揮:栗山文昭)
2)TRADITIONAL FOLK SONGS & MELODIES OF SCOTLAND

元の歌詞で聴きたい方のために、スコットランドの歌を集めたCDもあげておく。
1. Annie Laurie
2. Mairi’s Wedding
3. The Two Corbies
4. Flower of Scotland
5. Skye Boat Song
6. Will Ye Go Lassie Go?
7. Scotland the Brave
8. Mull of Kintyre
9. Bogey’s Bonnie Bell
10. Westering Home
11. Comin’ through the Rye
12. Matty Groves
13. The Mingulay Boat Song
14. I’m a Rover
15. Eriskay Love Lilt
16. I Loved a Lass
17. Leezie Lindsay
18. Amazing Grace
19. Loch Lomond
20. Auld Lang Syne
ARTISTS:
Paul Murray (1,2,4,5,9,13,15,17,19)
Inishkea (8,11,20)
Isla St Clair (3,10,12,15)
The Old Town Pipes (7,18)
The Blanney Lads (14)
(しみずたけと) 2025.6.7
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