本の紹介

日本・中国・台湾・韓国

オードリー・タン 自由への手紙
オードリー・タン(語り) クーリエ・ジャポン(編集)  2020年・講談社

台湾は、戦後、大陸から蒋介石らが大挙して逃れて来て台湾を牛耳ったり、1949年から1987年まで38年間も国民党軍の戒厳令下にあって台湾人が弾圧されたり、日本が中国と国交を結んだ結果、台湾を国として扱わなくなったり、なかなかに大変だな〜とかよく理解せずにボヤ〜ッとした印象だけを抱いていた。

だから、1980年代後半から始まった民主化の動きがここまで成果を上げていることなど、何も知らなかった。(もう一度同じことば使うけど)だから、オードリー・タンのインタビュー本『自由への手紙』を読んで、政治と行政がこんなに進歩していることに驚いた。

この本の各章は「〇〇から自由になる」というタイトルでまとめられている。その中で特に気に留まったことが三つある。

ひとつ目。章のタイトルは「ヒエラルキーから自由になる」。行政組織のひとつとして、省庁などの縦割り行政組織を横断するデジタル・プラットフォーム “PDIS“ が作られたこと。(PDISはパブリック・デジタル・イノベーション スペースの略称である。)オードリー・タンは閣僚としてこの組織を統率する。各省庁が、マスメディアに向けて発信する従来の広報担当とは別にPDISに広報の担当者を出して、自分の省が行なっていることを国民に説明し、反対方向に世論を吸い上げる役割も果たすという。わたしが想像するに、PDISが執務する専用の建物などはなく、オードリー・タンら幹部が居る場所だけが設られているのじゃないかな〜と。

「オープンな政府」ということが大原則で、行政のすべての行動が公開される。会見も文書や動画で公開されるので、秘密の会談などはなくなるという。このオードリー・タンのインタビューも公開される。

ふたつ目に目を引いたことも「ヒエラルキーから自由になる」の続き。立法機関と行政組織、会社などの民間セクターにNGOやNPOなどの第三セクターを加えて議論する場としてのg0v(ガブゼロ)が設けられたこと。この中から生まれたのがvTaiwanと名づけられた、立法議案について議論する場があること。こんな先進的なことが実際に行われているんだ〜と驚嘆した。

行政に新風を吹き込み、それを実現して行く過程では膨大な抵抗があった/あることと思う。想像を絶するほどの反対勢力もあったかもしれない。それをひとつずつ克服していったとは信じられないほどの忍耐だ。オードリー・タンを閣僚に任命した人がいたこと、また、インターネットのオープンコミュニティから大勢の人が彼女を支持したことが施策を実現に持って行ったのだと思う。

三つ目に目をひいたことは上二つとは方向が違う話しだけれど、オードリー・タンは、人は「スキルセットから自由になる」ことも大事だと話していること。

何かひとつ他の人から抜きん出る能力を身につけることは自分への自信になるとはしばしば耳にすることで、それはそれで間違ってはいないと思うけれど、じゃあ、そのスキルがなかったら、どうなの? ということになってしまう。「何かができるから、自分が成り立っている」と考えるのはスキルセットから自由であるとは言えない。

本を読み終えて、「ふーッ」と言うしかない。「公開する政府」、「議論のためのデジタル・プラットフォーム」とか、これらが必要だと考える日本の国会議員や閣僚、行政マンがいるとは思えない。(少数にはいるだろうけれども。)ことばの意味すら理解できないかもしれない。

と、以上、読後感を書いてみたけれど、理解が及ばなくて間違っていることがあると思う。教えていただければ幸甚です。

インタビュー本だから平易な文章からなっていてサラッと読める本です。 Ak., 2021.9.4

歴史戦と思想戦 歴史問題の読み解き方
著者:山崎 雅弘  2019年 集英社新書 920円+税
ISBN:978-4087210781

第一章 「歴史戦」とは何か
第二章 「自虐史観」の「自」とは何か
第三章 太平洋戦争期に日本政府が内外で展開した「思想戦」
第四章 「思想戦」から「歴史戦」へとつながる一本の道
第五章 時代遅れの武器で戦う「歴史戦」の戦士たち

新しい東アジアの近現代史[上] 国際関係の変動で読む 未来をひらく歴史
日中韓3国共通歴史教材委員会(編集)  2012年 日本評論社 2.750円

開かれた歴史認識の共有を目指し、日中間3国の研究者・教師が共同編集した歴史教科書。上巻は、東アジア近・現代の国際関係の歴史を分析、展望を示す。

新しい東アジアの近現代史[下] テーマで読む人と交流 未来をひらく歴史
日中韓3国共通歴史教材委員会(編集)  2012年 日本評論社 2.750円

開かれた歴史認識の共有を目指し、日中間3国の研究者・教師が共同編集した歴史教科書。下巻は、東アジア近・現代の人と交流の歴史を分析、展望を示す。

黒三ダムと朝鮮人労働者:高熱隧道の向こうへ
著者:堀江節子  2023年  桂書房  2.200円(税別)
ISBN 978-4-86627-136-1

 黒三も高熱隧道も朝鮮人の強制労働によってつくられた!

 黒三と聞いてもピンとこない人が多いかもしれない。それなら黒部ダムはどうだ。長野県と富山県を結ぶアルペンルート上にあり、内外から観光客が押し寄せる一大観光スポットとして、今や知らぬ人などいるまい。約10キロ下流の地下にある黒部川第四発電所に水を送る水力発電専用ダム。別名、黒四。

 黒部ダムの下流は下廊下(しものろうか)と呼ばれ、かつては荒々しいまでの奔流が多くの人を魅了した見事な峡谷であった。せき止められて勢いを失ったとはいえ、白竜峡、十字峡、S字峡など、今なお日本有数の峡谷美を誇る。その絶景を楽しむことができるのは、岩壁に穿たれた険しい山道を歩くことのできる経験豊富な登山者のみ。阿曽原にある山小屋まで8時間はたっぷりかかるだろう。そこからトロッコ電車で有名な黒部峡谷鉄道の欅平駅まで、さらに5時間の歩きである。しかも通行できるようになるのは、早くて9月下旬。小屋は10月末に閉じられるから、わずか1ヶ月ほどしかない。このあと、黒部は長い冬の眠りにつく。

 欅平駅のところに黒部川第三発電所がある。水圧鉄管を落ちてくる水は、阿曽原よりさらに上流、S字峡のすぐ下にある仙人谷ダムで取水され、地中に掘られたトンネル内を延々と運ばれてくる。直線距離で5.5キロ以上だから、それ以上あるのは間違いない。もうおわかりいただけたと思う。仙人谷ダムと第三発電所こそが「黒三」なのである。

 建設が始まったのは1936年。発電所建設の工事用資材はトロッコ軌道で運ばれた。現在の黒部峡谷鉄道である。この先は断崖絶壁になるので、資材運搬用のトンネルと水路が掘られた。もちろん人力である。途中には高熱の岩盤があり、少し掘り進んだところで摂氏70度、奥に行けば行くほど温度は上昇し、触れただけで火傷するようなトンネルだった。吉村昭の小説『高熱隧道』を読んで知っている人もいるだろう。

 この過酷かつ危険極まりない工事に投入されたのが、当時日本の植民地とされた朝鮮半島から連行されてきた朝鮮人たちだった。そのことを、どれほどの人が知っているだろうか。吉村昭もこのことについては触れていない。自分も今回、堀江節子氏の本を読んで初めて知った。何度も黒部に足を運んでいたにもかかわらず、なぜ気づかなかったのか。黒部川がダムによってせき止められ、去勢されてしまった流れを惜しみ、ダムに堆積したヘドロが放流によって環境悪化を招いていること、そんな程度の認識だった。

 気になって書架にある柏書房の『朝鮮人強制連行の記録 中部・東海編』、神戸学生青年センターの『戦時朝鮮人強制労働調査資料集』をめくってみた。なんたること、黒三のことがちゃんと出ているではないか!恥ずかしいというより自分が腹立たしくなってくる。これは日本の加害の歴史の一側面。今日問われているのは、当時の加害責任もさることながら、それを知らないこと、伝えようとしないこと、むしろそちらの方が大きい。隠し、ねじ曲げ、もみ消そうという企みの先にあるのは「いつか来た道」だから、それに与してはならない。本書が黒三の背景、過程、結果、責任の所在を詳述している。平和と人権を語る者、日本の近現代史を学ぶ者、国際関係を論ずる者を自負するのであれば、避けて通ってはならない必読の書である。そして、登山者だろうが観光客だろうが、黒部を愛する者も…。

徴用工裁判と日韓請求権協定:韓国大法院判決を読み解く
著者:山本 晴太 川上 詩朗  殷 勇基  張 界満 他  2019年  現代人文社  2.200円

戦時下にだまされて日本に連れて来られ、給料も支払われずに過酷な労働を強いられた13歳の少女。戦後、韓国に戻ってからも、日本で被った苦痛を忘れることなどできず、無償労働を強いた日本企業を相手に慰謝料の支払いを求めつづけました。そしてそれがようやく裁判で認められました。

この問題は日韓両国の国家間の問題として考えられがちですが、何よりも一番考えるべきことは、過酷な被害を受けた彼女らが、13歳から今日に至るまで救済されずに放置されてきたということではないでしょうか。韓国大法院は彼女らの訴えをどうして認めたのか、判決を読み解き、考えてみませんか。

以下4冊、韓国現代史の本を紹介します。

韓国の現代史を知る意味は、大きく言って二つあると思います。ひとつは、日本による侵略と植民地支配、それに対する抵抗運動。もうひとつは、植民地支配から解放されたものの、米ソ冷戦体制に起因する民族を二分する朝鮮戦争の惨禍、反共の防波堤の役割を与えられ、軍事独裁が外からの力で容認されたこと、それに対する民主化闘争です。外からの不条理、内からの不条理に対する抵抗こそが韓国の民主主義を支えている。朴槿恵大統領を罷免したキャンドル・デモは、まさにそのシンボルでした。T.S.

ボクの韓国現代史
著者:ユ・シミン  2016年  三一書房  2,500円
ISBN 978-4-380-15009-8

私たち同時代を生きる「普通の人」の視線による現代史。どの国にも誇れる部分はあるし、また暗黒面もある。前者を肯定的にとらえるのは国家主義的、自己陶酔史観なのか、後者をとりあげるのを反○○的な自虐史観として捨象して良いのか。自分史として捉え直す著者だが、それが容易でないことは、現実社会に漂う空気からもわかる。あらゆる問題の要因は、実はひとりひとりの心の内に収れんするのではないのか。そして解決の糸口も…。YouTubeに著者へのインタビューがあるから、そちらを見てほしい。

→ 著者ユ・シミンが語る「ボクの国現代史」

→ ボクの韓国現代史』著者、ユ・シミンへのインタビュー

韓国現代史60年
著者:徐仲錫  2008年  明石書店  2,400円
ISBN 978-4-7503-2710-5

戦争と混乱、過酷な強権政治と抵抗、経済成長とその破綻。本書は、幾多の困難と屈折をくぐり抜け民主化を求めてきた韓国に住む人びとの経験を伝える。そして今なお残る過去清算問題とは何か。柔らかな筆致でコンパクトに描く韓国現代史の新たなスタンダード。【出版社による解説】

韓洪九の韓国現代史 韓国はどういう国か
著者:韓洪九  2003年  平凡社  2,400円
ISBN 978-4-582-45429-1

民主化世代が書いた全く新しい韓国現代史。韓国とはどんな国なのか。韓国社会が抱える課題の歴史的な根源とは何なのか。新鮮な視点とユーモラスな語り口で最新の韓国像を示す。【出版社による解説】

韓洪九の韓国現代史 II 負の歴史から何を学ぶのか
著者:韓洪九  2005年 平凡社  2,400円
ISBN 978-4-582-45433-X

韓国のベトナム参戦、徴兵制度、朴正熙論、金日成論と、好評の第1巻を上回る韓洪九の批判精神がさらに冴え渡る。歴史の見直しが進む韓国ならではの鮮烈な現代史像が展開される。【出版社による解説】

日韓が和解する日
著者:松竹 伸幸  2019年  かもがわ出版   1.650円

安倍首相にも文大統領にも受け入れ可能な解決策を提示。政府が来春東京に開設する徴用工展示室の成功に向け外交交渉を開始すべきだ。

日本人の明治観をただす
著者:中塚 明

近隣諸国との真の友好関係を築く第一歩は、日本帝国の朝鮮に対する侵略をどのように進めていったかを知ることです。

現代の日本人の間に深く浸透している「栄光の明治」観──日清・日露戦争に勝利して「一等国」にのぼりつめる物語ですが、国内においてはアイヌや琉球の人々を臣民化し、台湾・朝鮮を植民地として併合する帝国主義国家が誕生する道のりでもありました。本書は、日清・日露戦争の主眼は朝鮮支配にあるとし、その具体的な事実を日本軍による不法行為と戦史の改ざんを示す史料で明らかにしました。

韓国併合
著者:海野 福寿  1995年 岩波新書

江華島事件を口実に朝鮮の開国に成功した日本は、清国との角逐や欧米列強との利害調整をくり返しつつ、日清・日露戦争をへて、一九一〇年、韓国を「併合」する。それは同時に、朝鮮政府・人民の粘り強い抵抗を排除する過程であり、苛酷な弾圧の歴史でもあった。朝鮮植民地化の全過程を、最新の研究成果にもとづいて叙述する待望の通史。

なつかしの庭(上)(下)

2002年 各2,500円 ISBN 978-4-00-001556-1
ISBN 978-4-00-00155-78

著者:黄晳暎(ファン・ソギョン)

軍政に抵抗し、日本・中国年の刑期を終えて出所した主人公。乗り込んだタクシーで見たのは、かつて獄中生活を支えてくれた恋人の写真だった。逃亡生活を送っていたときに協力者として紹介され、二人は愛し合う仲に。潜伏場所で現実とは一線を画す幸福な生活を送るが、ソウルで仲間が捕まったとの連絡を受け、彼は彼女を残して立ち去る。

この本は2006年に映画化されました。「映画の紹介」ページの解説に跳ぶ。

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