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人 生

男性が支配する社会の中で…
マグダラのマリア
監督:ガース・デイヴィス  2018年・英/米 120分

イスラエル北部の町マグダラで暮らすマリア。男性原理が支配する社会で生きることに苦しんでいた彼女は、ある日、イエス・キリストに出会う。奇跡を目の当たりにし、神に仕えることを決意。家族のもとを離れ、イエスや使徒たちとともに神の教えを伝える旅に出る、救世主として民衆から崇められるようになるイエスだったが…。新約聖書に登場する聖女マグダラのマリアを描いた伝記ドラマである。

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二人が選んだのは…、愛
ロミオとジュリエット
監督:フランコ・ゼフィレッリ  1968年・英/伊 138分

15世紀中頃のイタリアは古都ヴェローナ。この美しい町に君臨する二つの名門、モンタギュー家とキャプレット家の確執。舞踏会で偶然に出会った両家のロミオとジュリエットは一目で惹かれ合うものの、互いの素性を知って嘆く。バルコニーで苦悩するジュリエット、それを見たロミオの熱い愛の告白、そして結婚を決意する二人…。

個人よりも家という組織が優先される封建的な制度に起因する不条理。自由な愛を貫くためには、旧き因習および利権追求集団と闘わなければならない。そのことをシェイクスピアが訴えたかったのかどうかはわからないが、背景にあるのは、まさに個人と集団の対立構造である。集団とは、家や地域社会であったり、はたまた会社、時には「お国」だったりもする。こうしたことは、過去の遺物であり、今やなくなったのだろうか。文学作品が、時代を超越してなお普遍性を有するためには、現代に生きる私たちの受けとめる力いかんにかかっている。

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19世紀英国社会の光と影
荒涼館
監督:ジャスティン・チャドウィック、スザンナ・ホワイト  2005年・英 436分

英国の文豪チャールズ・ディケンズ。彼のどの作品にも共通するのは、19世紀当時の英国社会が描かれていることと、それを批判的に見る視座が明確なことだろう。代表作は『デイヴィッド・コパフィールド』だが、こと面白さという点では、ミステリーや謎解きの要素が含まれた『荒涼館』ではなかろうか。主人公が誰なのか、いささかぼやけ気味だし、語り手がエスターなのか著者なのか、これもわかりにくい。長編のうえ、内容もてんこ盛り過ぎだからかもしれない。『グレート・ギャッツビー』を著したスコット・フィッツジェラルドは、これをディケンズ作品の最高傑作と賞賛しており、読み終われば否応なく同意させられてしまうだろう。

その『荒涼館』を英国BBCがテレビ・ドラマ化したものである。端折られたところもあれば、改変されたところもある。それでも7時間超の大作だ。テンポが早い分、原作よりスッキリまとめられているとも言えそうな脚本に仕上がっている。読むのが億劫な人は、こちらから入っても良いだろう。

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恋愛物語を時代背景が包む
北と南
監督:ブライアン・パーシバル  2004年・BBCドラマ 4シリーズ3時間55分

英国の女性小説家オースティン、ブロンテ姉妹に並ぶも、日本では知る人の少ないであろうエリザベス・ギャスケルの同名小説をBBCが4回のTVドラマシリーズにしたものである。原題は North and South、1855年に発表された。

主人公二人、元牧師の娘マーガレット・へイルと綿工業の工場主ジョン・ソーントンの恋愛物語を1800年代中頃の社会背景が包み込む。

The Northとは「北イングランド」を指し、今日ではそれぞれ50万人前後の人口を抱える大都市リヴァプール、マンチェスター、リーズ、シェフィールドを含んだ地域であり、同じく今日、合計で1500万人近くの人口となっている。

「ノース」では古くから石炭産業、鉄鉱業が盛んであった。18世紀の後半からはそれまでの毛織物業に代わり綿工業が力を持ち、紡織機の進歩がもたらしたイギリス産業革命の発祥の地であった。このドラマの描く背景はそのような地方の陰鬱な雰囲気の街、中産階級と労働者階級との人間関係、産業・労働である。綿工業もピークを過ぎ、成長が鈍化し始めた頃のこと。工場主のジョンの背景である。

一方、マーガレットはThe Southの生まれ育ち、父親が牧師を辞め、友人の紹介によりThe Northの都市に移ってくる。「サウス」は田園地帯で風光明媚な土地柄、「ノース」とは何もかもが異なるがためにマーガレット一家は新しい土地での生活に馴染むのに時間がかかる。

紡職工に暴力をふるうジョンに嫌悪感をいだくマーガレット。ジョンはマーガレットにとって、馴染めない土地を象徴している。自己満足を漂わせるマーガレットに反感をもつジョン。ふたりの出会いはこのように始まった。

BBCドラマ制作は2004年。マーガレットを演じるのはダニエラ・デンビー=アッシュ、ジョンはリチャード・アーミティッジ。

紡職工の労働条件を向上させるべくストライキを組織するヒギンス(ブレンダン・コイル演)、その娘で同じく紡織工のベッシー(アンナ・マクスウェル・マーティン演)、この二人の脇役がとても重要。演じる俳優がこれまた素晴らしい。

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映画制作がレジスタンス
天井桟敷の人々
監督:マルセル・カルネ  1945年・仏 189分

舞台は1840年代、劇場が立ち並ぶパリの犯罪大通り。女芸人ガランスに恋心を抱くパントマイム師のバチスト。しかし彼女は、俳優ルメートルや犯罪詩人ラスネールにも思いを寄せられ、毅然として誰のものにもならない。そこへ現れたのは、やはりガランスにひかれる富豪のモントレー伯爵…。

数年後、バチストは座長の娘ナタリーとの間に一児をもうけ、一座の看板俳優に。彼を毎晩お忍びで見に来る女性、それは伯爵と一緒になったガランスだった。そのことを知ったバチストは、いても立ってもいられず…。

さまざまな男たちが、ガランスをめぐって織りなす人間模様。フランス映画の古典として知られる傑作群像劇である。第二次大戦のさなか、ドイツ占領下のフランスで撮影し、約二年の歳月をかけてつくられた。映画制作それ自体がナチス・ドイツへの抵抗だったのである。

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厳しさあふれる眼差し
バルタザールどこへ行く
監督:ロベール・ブレッソン  1964年・仏/スウェーデン 96分

マリーはピレネーの小さな村の教師の娘。一方、ジャックは農園主の息子。二人は生まれたばかりのロバにバルタザールと名付けて可愛がるのだが…。ジャックが村を出ることになり、バルタザールもどこかへ行ってしまう。10年の歳月が流れ、鍛冶屋にこき使われ、苦しさに耐えかねたバルタザールが逃げ込んだのは、幼い頃に可愛がってくれたマリーの、その父親が管理するジャック家の農園。喜んだマリーは、バルタザールに馬車を引かせてあちらこちら出かけるのだが、不良のジェラールはそれに嫉妬し、バルタザールを痛めつけ、実家のパン屋の配送の仕事にこき使う。ちょうどその頃、パリで勉学中のジャックが帰省し、あらためて初恋のマリーに惚れ直すのだが、愛と打算の間で揺れ動く悲しい女となっていた彼女は拒絶。バルタザールは、自分に親近感を覚える浮浪者とジェラールたち不良仲間の争いに巻き込まれ、怪我をしてしまう。さ迷ったあげく、道ばたでのたれ死にするバルタザール。その瞳に映る憂い…。ロバの視点を通して描かれる人間の愚かさと醜さ。ふだん、喜怒哀楽を引き起こすこともない人間の罪科を告発するかのような、そして何人をも突き放すかのようなロベール・ブレッソンのストイックな視点。その眼差しは、あまりにも厳しい。

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動乱の中の愛
ドクトル・ジバゴ
監督:デヴィッド・リーン  1965年・米/伊 194分

革命をはさんだ動乱の時代のロシア。ジバゴは医者でありながら、ナイーブな心をもつ詩人でもあった。ラーラとトーニャという二人の女性を愛してしまった彼の、愛ゆえの波瀾に満ちた生涯が描かれる。時代の大きなうねりの中で、多彩な人物をまじえながら進んでいく人生の軌跡。文豪ボリス・パステルナークの一大叙事詩を、モーリス・ジャールによる美しい「ラーラのテーマ」をバックに、素晴らしい映像美を完成させた巨匠デヴィッド・リーンに脱帽。

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北国の悲恋物語
みじかくも美しく燃え
監督:ボー・ウィデルベルイ  1967年・スウェーデン 90分

スウェーデンのクリファンスタ。スウェーデン軍騎兵第二部隊所属のシクステン・スパーレ中尉はスンスバルでマディガン座サーカスのスター、綱渡り芸人エルヴィラ(本名ヘドヴィグ・イェンセン)と出会った。妻子も伯爵の地位も捨て、軍を脱走、愛し合う彼女との逃亡生活へ。軍の脱走兵狩りが始まり、捕らわれれば牢獄行きだ。新聞にはエルヴィラの失踪を伝える記事…。至るところに手配書が回り、今や二人はお尋ね者。諫める友人を振り切ったものの、仕事に就くこともできず、ついに金銭も尽きた。着た切り雀の野宿、森の果実やキノコ、花まで食して飢えをしのぐありさまである。だが、北国の夏は短い。覚悟を決めた二人は、晴れ渡った一日をピクニックして過ごす。精いっぱい贅沢なランチを満喫し…。

明るい緑、だが決して強いとはいえない太陽の光を背景にしたエルヴィラ役のピア・デゲルマルクの美しさ。後ろにモーツァルトのピアノ協奏曲第21番が切なく流れる。1889年、デンマークのスヴェンボリの森で実際に起きた事件をもとにした実話である。

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グルメ映画じゃないけど…おいしそう
バベットの晩餐会
監督:ガブリエル・アクセル  1987年・デンマーク 102分

1800年代の後半、デンマーク、ユトランドの海辺の寒村、陰鬱な天気がおおう景色から始まる。マーチーネとフィリパの姉妹は牧師の老父と、そこに集う集落の人々とともに貧しくも信心深い生活を送っていた。

牧師も亡くなり、月日が流れたある日、バベットという名前のフランス人女性が姉妹の元にたどり着き、家政婦として働くことになった。彼女はパリ・コミューンにて夫と息子を亡くし、デンマークに逃げてきたという事情を持つ。

それからさらに14年の歳月が流れ、村人は年をとり、牧師の不在に信仰も薄れ、互いにいさかいを起こすようになり、ぎすぎすとした人間関係に陥っていた。姉妹はそのことに心を痛め、皆が仲睦まじい昔に戻れるよう、老父の生誕100年の記念として彼らをささやかな晩餐に招待すべく計画する。

その頃、バベットに1万フランの宝くじに当たったという手紙が届く。バベットは晩餐会にフランス料理を作らせてほしい、費用は自分が持つと願い出た。バベットの晩餐会の料理の準備が始まるが、そのただならぬ様子に姉妹と村人は「悪魔の祝宴」ではないかと恐れを抱き、晩餐会で料理の話は決してしないようにと打ち合わせた。

晩餐会の当日、マーチーネのかつての求愛者、スウェーデン軍の将軍も晩餐会に出席することになり、食事が始まる。ヴィンテージ物のワイン、シャンパンから始まり、ウミガメのスープ、ウズラのパイ包みなどが続く。デザート、食後のチーズ、コーヒーとそれに合わせたシャンパンまで。

味わったことのない数々の美味、姉妹も村人も至福の時を味わうものの、打ち合わせどおり、料理については決して言及しない。パリ生活の経験のある将軍はそれらの料理がパリを二分する一流レストラン、カフェ・アングレの味だとひとり称賛するが、村人は「今夜は星空が美しいですね。」と頓珍漢な受け答えに終始する。けれども、将軍の「正義と至福の接吻」との最後のスピーチには他の誰もが納得し、その時までに村人のいさかいは跡形もなく消えていた。

皆が満足していとまごいをしたのち、バベットはやり遂げたことに満足の吐息をつく。姉妹はこれを機にバベットが村を去ると予測していたが、バベットは引き続き置いてもらいたいと願い出る。一生貧乏に暮らすことになるという姉妹にバベットが言う。「芸術家は決して貧乏にはなりません。」

カレン・ブリクセンがイサク・ディネーセンという男性名で書いた同名の小説が原作だ。カレン・ブリクセンは「アフリカの日々」という自伝的小説で有名になったデンマーク人作家。「アフリカの日々」はメリル・ストリープとロバート・レッドフォード出演でアカデミー作品賞を獲得した「愛と哀しみの果て」の原作。

「バベットの晩餐会」は最後に種明かしがある。

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それを必要とする人がいて…
主婦マリーがしたこと
監督:クロード・シャブロル  1988年・仏 108分

ナチ占領下の北フランス。マリーは平凡な主婦だったが、生活のために闇の堕胎をほどこす。夫の密告によって逮捕され、マリーはギロチン台へ。過酷な運命を描く人間ドラマ。

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濃密な愛のゆくえ
奇跡の海
監督:ラース・フォン・トリアー   1996年・デンマーク 158分

1970年代のスコットランド。強いプロテスタント信仰の村に住むベスは海上油田で働くヤンと結婚した。彼を愛する彼女は、早く帰ってこられるよう神に祈る。祈りが通じたのか、願い通りに早く帰ってきたヤン。しかし、それは事故のためだった。回復しても寝たきりの上に、性的不能になっていた…。ヤンは、妻を愛する気持ちゆえ、他の男と寝るよう勧め、ベスもまた、夫を愛するがゆえに男たちを誘惑して…。

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バレエは女の子だけのもの?
リトル・ダンサー
監督:スティーヴン・ダルドリー  2000年・英 111分

ときはサッチャー政権時代の1984年。ところは英国北部の炭坑町。炭坑労働者の父と兄、そして祖母の四人で暮らすビリーは11歳。ある日、ビリーの通うボクシング教室のホールにバレエ教室が移ってきた。ふとしたことからレッスンに飛び入りしたビリーは、バレエに特別な“何か”を感じ、教室の先生もビリーに特別な才能を見出した。バレエに夢中になるビリーだったが…。

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夫の暴力から逃れて暮らす母子の絆
Dear フランキー
監督:ショーナ・オーバック  2004年・英 102分

DV夫から逃げ出したリジー。母親と幼い9歳になる息子フランキーを連れ、夫に見つからないよう、3人でスコットランドを転々としながら暮らしている。そんな事情を知らないフランキーは、幼かったゆえ顔も覚えていない父に会いたいという想いが強まる一方だった。会えない理由を、「パパはアクラ号という船に乗り込んでいて世界中を航海している」と説明するリジーは、父親のふりをして、フランキーと手紙をやり取りする。ある日、本当にアクラ号という船が彼らの港町に寄港することに…。喜ぶフランキー。リジー、どうする?

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人を助けるのは法か、人か
ヴェラ・ドレイク
監督:マイク・リー  2004年・英/仏/ニュージーランド 125分

1950年、冬のロンドン。家政婦として働くかたわら、困っている近所の人の手助けをする明るくて心優しい主婦のヴェラ。家庭は貧しかったが、自動車修理工場で働く夫と二人の子どもたちとの満ち足りた生活を送っていた。しかし、彼女には誰も知らない秘密が…。違法と知りながら、望まない妊娠で困っている女性たちの堕胎を手助けしていたのだった。一人の平凡な主婦が辿る過酷な運命、試練の中で浮かび上がる家族の深い絆。

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老女の静かな晩年を描く
木洩れ日の家で
監督:ドロタ・ケンジェジャフスカ  2007年・ポーランド 104分

ワルシャワ郊外の緑に囲まれた木造の古い屋敷に、愛犬フィラデルフィアと暮らす91歳のアニェラ。共産主義時代に政府から受け入れることを強いられた間借人も、今やいなくなり、静かな余生をおくる日々だった。彼女の楽しみは、双眼鏡で覗く両隣の家。片や、愛人を囲う成金の家。もう一方は、子どもたちのために音楽クラブを開く若夫婦の家。ある日、家を売ってほしいと、成金の使いがやって来た。提示された破格の金額。断ったものの、残り少ない人生を思うと、屋敷の未来が不安に思えてくる。息子の思いもよらぬ行動に、さらなるショックが…。林の中の古い屋敷を舞台に、老女が愛犬と過ごす晩年が、全編モノクロによる映像で詩情豊かに描き出される。

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神に問いたい。彼は罪人(つみびと)なのかと
聖なる犯罪者
監督:ヤン・コマサ  2019年・ポーランド/仏 115分

少年院時代に出会った神父の影響で、熱心なクリスチャンとなったダニエル。前科のある者は聖職者になれないことを知りながらも、神父になる夢を諦めきれずにいた。20歳で仮釈放となった彼は、たまたま通りがかった村の教会で新任の神父に間違われ、渡りに船と、神父になりすましてしまう。宗教者としては型破りな言動ながら、少しずつ村人の心をつかんでいく中、一年前に起きたある悲劇が今も村人たちの心に深い傷を残していると知り、問題の解決を目指すのだが…。ポーランドで起こった実際の事件を基に、新鋭ヤン・コマサ監督が描く緊張感あふれる社会派ドラマ。

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忘れがたい歌の陰で…
シスタースマイル ドミニクの歌
監督:ステイン・コニンクス  2009年・仏/ベルギー 124分

まだ保守的な1950年代末のベルギー。そうした中で自分の人生を自分自身で選びとろうとした女性、ジャニーヌ・デッケルス。母親の押しつけに反発し、ギター片手に修道院の門を叩いた彼女。修道院での厳格な生活に戸惑いながらも、共に暮らすシスター仲間や院長から音楽の才能を認められる。聖ドミニコを讃える自作の歌『ドミニク』の明るいメロディ、それを歌う彼女の美しい歌声が評判になり、ついにシスタースマイルの名でレコードデビューを果たすのだが、世界中で大ヒットしたことがジャニーヌの悲劇になるとは…。彼女の激動の人生を映画化した音楽伝記ドラマ。

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違うからこそ、わかり合える
最強のふたり
監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ  2011年・仏 113分

パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった大富豪のフィリップ。介護人募集の面接にやってきたのは、スラム街に暮らす黒人青年のドリス。彼が欲していたのは、失業手当をもらうための不採用の証明書だった。一方、自分に注がれる憐憫の眼差しにウンザリしていたフィリップは、ふてぶてしいドリスの態度に興味を抱き、思いつきで採用してしまう。ドリスには介護の経験がなく、しかも二人が歩んできたのはまったく別の世界。趣味も生活習慣も違っていた。いつまで続くのだろうか、誰もがそう思ったが、障がい者相手にも遠慮することなく本音で接するドリスは、他の誰よりもフィリップの心を解きほぐし、いつしか二人は固い絆で結ばれていく。境遇の違いを乗り越え、真の友情を育んでいく姿を、心温まる感動と、そしてユーモアも織り交ぜて描いた、実話をもとにした人間ドラマ。

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大切なものは目に見えない…
ミス・シェパードをお手本に
監督:ニコラス・ハイトナー  2015年・英 104分

リベラル文化人が多く暮らすロンドンのカムデン。一台の朽ちかけたようなバンが路駐していた。みすぼらしい身なりの老婦人がひとり、車に寝泊まりしながら自由気ままに暮らしている。いわゆるホームレス。プライドが高く、心配する近所の住人の親切にも悪態で返す彼女の名はミス・シェパード。ある日、退去命令を受けてしまうのだが、町の一角に住むひとりの劇作家が自宅の敷地を提供。一時しのぎのつもりだったが、そのまま15年間も居座り続けられるハメに…。一定の距離を保った珍妙な共同生活をおくりながらも、ミス・シェパードの謎めいた人生に興味を抱かずにはいられなくなるのは作家の性分だったのか…。

英国の劇作家、アラン・ベネットの驚くべき実体験を、本人の脚本で映画化した人間ドラマ。社会批判をまじえた軽妙なコメディでありながら、描かれるのは人間の尊厳という重厚なテーマ。マギー・スミスとアレックス・ジェニングスの演技が素晴らしい。

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心にも豊かさがほしい
マイ・ブックショップ
監督:イザベル・コイシェ 2018年・西/英/独 112分

時代は1959年。舞台は英国の海辺の小さな町。戦争未亡人のフローレンスは、夫との夢を実現しようと、これまで7年間空き家だったところを利用して、町に一軒もない本屋を開こうと動き出す。しかし閉鎖的で保守的な土地柄ゆえ、快く思わない人も少なくなかった。町の有力者であるガマート夫人による執拗な嫌がらせ。どうにか開店したものの、ガマート夫人の妨害によって、店の経営が困難になっていく。八方ふさがりの中、読書好きだが、町外れの屋敷に引きこもったままの老ブランディッシュ氏が支援してくれるようになるのだが…。

原作は、1978年のブッカー賞の最終候補作であるペネロピ・フィッツジェラルドの『ブックショップ』。ペネロピ・フィッツジェラルドは、翌年、『テムズ河の人々』でブッカー賞を受賞している。町で初めての本屋を開こうとした女性の奮闘を、静かに、穏やかに、きめ細かく描かれている。

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この場所があれば世界は変わる
サンドラの小さな家
監督:フィリダ・ロイド  2020年・アイルランド/英 97分

舞台はアイルランドの首都ダブリン。DV夫の元から、幼い二人の娘を連れて逃げ出したサンドラ。しかし、公営住宅は長い順番待ちで、いつ入れるかもわからない。住むところをなくした若いシングルマザーと子どもたちは、仮住まいのホテル生活からなかなか抜け出せないでいる。ある日、娘との何気ない会話から、サンドラは小さな家を自分で建てるアイデアを思いついた。インターネットでセルフビルドの設計図を探し出したが、足りないものがあまりに多く、前途多難を痛感する。しかし、彼女の熱意が少しずつ周りの人々を動かし、サンドラが清掃人として働いている家のペギー、建設業者エイドなどの助けを得ながら建築に取り掛かる。執念深い元夫の妨害をも乗り越える生活再生の物語、家族とそれを取り巻く人々の姿を描いた人間ドラマである。

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今このときに感じる幸せ
希望の灯り
監督:トーマス・ステューバー  2018年・独 125分

深夜の大型スーパー。ここで在庫管理担当として働くのは、内気な青年クリスティアン。いまだ経験したことのない世界に戸惑う彼を、まるで父親がするかのように、仕事の手順を教え込んでいく上司のブルーノ。頼りになる存在のブルーノだが、彼は東ドイツ時代への郷愁から抜けきれない。ある日、菓子部門で働く年上の女性マリオンと出会ったクリスティアンは、しだいに彼女に心惹かれていくのだが…。

東西統一後のドイツ。「負け組」とされた東独出身の人々のままならない日常と小さな幸せを描いたクレメンス・マイヤーの短編『通路にて』を映画化した人間ドラマ。

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友を裏切り、自分を偽り…
グンダーマン 優しき裏切り者の歌
監督:アンドレアス・ドレーゼン  2018年・独 128分

ゲアハルト・グンダーマン。「東ドイツのボブ・ディラン」と呼ばれ、統一後のドイツでも人気を博したシンガー・ソングライターである。東独時代、炭鉱で働きながら音楽活動をしていた彼は、実はシュタージ(秘密警察)の協力者として、西側と接触する機会の多いバンド仲間や友人たちを監視する役目を負っていた。東西統一後、秘密とされてきたシュタージの実態が徐々に明らかになり、シュタージに協力していた過去を暴かれ、大きなスキャンダルになる著名人も出てくる。そうした中、グンダーマンもまた、過去の自分と向き合い、苦悩するのだったが…。

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クケリが繕う父と娘の愛情
ありがとう、トニ・エルドマン
監督:マーレン・アデ  2016年・独 162分

アメリカ映画とはひと味もふた味も違うヨーロッパの映画、その中でもドイツの映画で、ザンドラ・ヒュラーが父親役のペータ・ジモニシェックとともに主演している。

ヒュラー演じるイネスはコンサルティング会社の敏腕社員、仕事でルーマニアのブカレストに住み始めて1年近くが経つ。ドイツに暮らす父親との交流は少なく、互いの関係はしっくりとはいっていない。小学校の音楽教師をリタイアした父ウィンフリートはいたずら好きな性格で独特の価値観を持っているがためだ。それでも、父は娘のストレスフルな生活を案じ、娘は一人暮らしの父を気にかけている。

愛犬が死んだことをきっかけに突然思い立ち、ウィンフリートは娘を訪ねにブカレストへと赴く。大口の顧客との契約を獲ろうと奮闘するイネスに付いていき、イネスの交渉相手や同僚と交流するわけだが、ウィンフリートの独特のコミュニケーション力が発揮される。ルーマニアの地元の人とも仲良くなる。

そんな中、イネスに疎まれたウィンフリートはブカレストを去ることにする。そして、そのあと…。トニ・エルドマンの登場だ。

コメディタッチの父娘ヒューマンドラマと言えるだろう。笑ったり、ほろっとしたりの映画である。

※ 『クケリ』とはブルガリアやルーマニアの民間信仰の扮装、『なまはげ』のようなものかもしれない。

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マフィアのプライドに命をかけた男
シチリアーノ 裏切りの美学
監督:マルコ・ベロッキオ  2020年・伊/仏/ブラジル/独 152分

1980年代の初め、イタリアのシチリア島でマフィア間の抗争が激化。パレルモ派の大物トンマーゾ・ブシェッタが仲裁に失敗、ブラジルに逃げてしまう。コルレオーネ派は、彼の家族や仲間たちを次々と抹殺していくのだった。ブラジルで逮捕され、本国に送還されたブシェッタは、自分が誇りにしてきたコーザ・ノストラに失望し、マフィア撲滅を目指す判事のファルコーネに協力することを決断。それは、マフィアの“血の掟”を破ることにほかならなかった。組織を裏切り、司法当局に協力した実在の人物を主人公にしたドラマである。

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家族の中にだって事情もあれば秘密もあるさ
家族にサルーテ! イスキア島は大騒動
監督:ガブリエレ・ムッチーノ  2018年・伊 107分

ナポリの沖に浮かぶ美しいイスキア島。そこに暮らす結婚50年目を迎えたピエトロとアルバ。彼らの金婚式を祝うために、約20人の親族が集まった。和気あいあいのうちに進んだパーティーも、そろそろお開きという頃、天候の急変で帰りのフェリーが欠航だという報せが。やむなく全員が屋敷に泊まることになったが、それまで抑えていた本音が吹き出し、家族の秘密が次々と暴かれ、そこかしこで衝突が…。

イタリアを代表する豪華キャストの共演で描かれるのは、家族の人間ドラマか、はたまた群像コメディなのか。

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はたしてこれはコメディ?
フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて
監督:クリス・フォギン   2019年・英 112分

英国南西部のコーンウォール地方。そこにある小さな港町のひとつ、ポート・アイザックを訪れたのは音楽マネージング会社に勤めるダニーとその仲間たち。彼らは偶然、猟師たちが野外ステージで舟歌・漁の歌を合唱するのを目に(耳に?)した。グループの名は「フィッシャーマンズ・フレンズ」。上司はダニーに、彼らとの契約をものにしろと命ずるのだが、実はまったくの冗談。そうとは知らず、一人で町に残されたダニーは、この気乗りしない契約の交渉を始める。しかし、そこは閉鎖的な田舎町。ヨソ者のダニーに対し、リーダー格のジムをはじめ、10人全員がけんもほろろ、取り付く島もない。長期戦を覚悟した彼は、ジムの娘が経営する民宿に泊まり込み、説得工作に乗り出す。町の古い教会で収録してみると、これはなかなかスゴいかも。本気になったダニーだったが…。

英国で話題となった、実在の現役漁師の合唱団「フィッシャーマンズ・フレンズ」と彼らをメジャー・デビューさせた音楽マネージャーをモデルにした人間ドラマ。

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あなたの想い出、お菓子にします
ノッティングヒルの洋菓子店
監督:エリザ・シュローダー  2020年・英 98分

イザベラとサラは親友同士。自分たちの店を持つという長年の夢がついに実現しようとしていた矢先、パティシエのサラが事故死してしまう。親友を失った悲しみに加え、パティシエなしでは店は成り立たない。諦めざる得ないと思っていたところに、サラの娘クラリッサが、絶縁状態だった祖母のミミを連れてあらわれ、なんとか母の夢を実現させようと言い出す。パティシエなしのまま開店準備を始めた三人だったが、そこにやって来たのがマシュー、なんとミシュラン二つ星レストランの花形シェフなのだった。イザベラとサラに関係する人々が織りなす人間模様を綴る、心あたたまる人間ドラマ。

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なぜこんな愚かな不条理が…
PITY ある不幸な男
監督:バビス・マクリディス  2018年・ギリシャ/ポーランド 99分

一人息子と暮らす弁護士の男。不慮の事故のため、妻は昏睡状態のまま。周囲の人たちは、悲嘆する彼に同情し、何かと親切にしてくれるのだったが、ある日、妻が奇跡的に目を覚ます。悲しむだけの日常が一変するのだったが、彼の心は乱れ、ゆがんだ欲望が暴走、そして狂気の顛末…。

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今日よりは明日の命を信じて…
明日に向って撃て!
監督:ジョージ・ロイ・ヒル  1969年・米 112分

19世紀末のアメリカ西部史に名高い列車強盗の二人組、ブッチとサンダンス。近代化が進む中、彼らの生き方は、あまりにも時代遅れだった。夢を求めた彼らは、新天地の南米ボリビアへと旅立つ。哀愁と笑いをまじえて描かれるその逃避行。今となってはやや懐古趣味的にも見えかねない西部の風景を背に、対照的なポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの二人とキャサリン・ロスが演じるロマンティックな人間ドラマ。かつて傑作ニュー・シネマと呼ばれた作品だが、バート・バカラックの音楽を含め、むしろ在りし日の青春映画のようだ。

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砂漠に芽生えた女と女の友情
バグダッド・カフェ
監督:パーシー・アドロン  1987年。西独 91分

ラスベガスとロサンゼルスを結ぶインター・ステーツ15号。モハヴェ砂漠をかすめて通るこの道沿いに、まるで取り残された様にポツンと立つ侘しいモーテルが一軒。その名はバクダット・カフェ。切り盛りする黒人女は、ぶらぶらしているだけで役に立たない夫、自分勝手な子どもたち、そして使用人に、いつもイライラさせられっぱなし。宿に居着いた住人にさえ腹を立てる毎日だった。ある日、ひとり砂埃舞う中を歩いてきたのは、大きな旅行鞄を抱え、スーツにハイヒールの太ったドイツ女。彼女の登場で、バクダット・カフェは砂漠の中のオアシスへと変貌してゆく。物語を彩るのは。ジュベッタ・スティールが歌う主題歌「コーリング・ユー」だ。

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やがて鯨は姿を見せなくなり、老姉妹の季節も少しずつ変わっていった
八月の鯨
監督:リンゼイ・アンダーソン  1987年・米 91分

長い人生のほとんどを一緒に過ごしてきた姉妹、リビーとセーラ。毎年、ふたりはメイン州の小さな島にあるセーラの別荘で夏を過ごしていた。そこの入江には、八月になると鯨がやって来る。娘時代、鯨を見に駆けていった二人だが、それも遠い昔のこと…。

リリアン・ギッシュ、90歳。ベティ・デイヴィス、79歳。二人の大物女優による友情ドラマであるが、そのほかにも、ヴィンセント・プライス、76歳、アン・サザーン、78歳、ハリー・ケリー・Jr、66歳と、年輪を重ねたハリウッドの名優たちが繰りひろげる老練の演技が、この作品に描かれるささやかな日常生活に味わい深さと奥行きを与えている。

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女と男の、白人と黒人の、雇う者と雇われる者の友情
ドライビング Miss デイジー
監督:1989年・米 99分  1989年・米 99分

1948年の夏、未亡人デイジーは長い教員生活に終止符を打った。まだ元気ではあったが、車の運転で事故を起こしそうになり、心配した息子は彼女専属の運転手を雇うことに。初老のベテラン運転手で、ホークという名の黒人男性だった。デイジーは典型的なユダヤ人で締まり屋。しかも元教員である。お抱え運転手でお出かけみたいな金持ち然としたことは大嫌い。車に乗ることを拒むのだが、ひょうひょうとしたホークの黙々とした勤務態度に根負けし、渋々車に乗り込む。二人の関係は、いつしか不思議な友情へ、そして25年の歳月が流れた。認知症があらわれはじめ、デイジーは施設へ。住み慣れた家も手放すことになったが、二人の友情は変わることがなかった。

第二次大戦の戦場となった欧州やアジアと異なり、戦後すぐに穏やかな日常を取りもどすことができたアメリカ。牧歌的な風情と都市化への変貌を背景にしながらも、ひとりひとりにまだゆとりがあった古き良き時代が残っていたとも言える。しかし、映画の設定は公民権運動の前であり、二人の関係も「白人と黒人の間にしては」という但し書き付きだ。白人による「上から目線」の友情ストーリーも、制作が1989年と言うことを考えれば、これが限界だったのかもしれない。BLMの声が響く現在から見れば、やや物足りなさも感じてしまう。

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友人は自分を映す鏡のようなもの
フライド・グリーン・トマト
監督:ジョン・アヴネット  1991年・米 130分

毎日が単調な主婦業に飽き飽きしていた主人公。ダンナは帰宅早々、「めし」「ふろ」「ねる」みたいな仕事人間。たまたまボランティアに行った病院で出会った老女から昔話を聞かされるのだが、実話なのか創作なのか、それがなんとも面白くて…。閉鎖的な1930年代の南部の田舎町。伝統や因習に反旗を翻し、恋に生き、虐げられた黒人のための食堂を開く白人女の気概と勇気。回想と今を行き来しながら展開する、笑いありスリルありの驚くようなストーリーに、見ているこちらも、いつのまにか住民の一人になったような気持ちに…。

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ラブ・ストーリーは安直でいい?
サブリナ
監督:シドニー・ポラック  1995年・米 127分

サブリナは大富豪のララビー家のお抱え運転手フェアチャイルドの娘。子どもの頃から次男デヴィッドに恋していて、パーティの晩はいつも木に登って彼の姿をみつめていた。父はサブリナに、人は自らの立場を知ってこそ幸せになれると言い聞かせていたが、彼女はひたすら彼が自分に振り向いてくれる事を祈るのだった。フェアチャイルドは、そんな娘の思いを断ち切らせ、もっと広い世の中に目を向けさせようと考え、サブリナをパリに送ることにしたのだが…。

オードリー・ヘプバーン主演『麗しのサブリナ』の舞台を現代社会に置き換えてリメイクしたものだが、いわゆる金持ちの男と庶民の女のラブ・ストーリーといった基本線は同じ。恋の物語に理屈はいらないとは言っても、こうもトントン拍子に進んでしまうと…。現実感なさすぎの上、金銭的・物質的に豊かである事が幸せで、外見の華やかさが重要となると、拝金主義&ルッキズム万歳みたいで、なんか危なくないかとも思ったり…。こうした“おめでたい”ラブ・ストーリーを、本当にみんな喜んでいるのだろうか。それとも、現実離れしているからこそ、逃避の場として受け止められるのか。それはそれで問題だと思うのだが…。

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傷ついた魂を癒やすのは、なに?
この森で、天使はバスを降りた
監督:リー・デヴィッド・ズロトフ   1996年・米 116分

誰にも言えない暗い過去を背負った女がひとり、見知らぬ小さな町に降り立った。無愛想な中年女性が経営するスピットファイヤー・グリルという町の食堂で働き始めた彼女に、閉鎖的な田舎町ゆえ、胡散臭い余所者という眼差しが注がれる。周りの人も、やがて彼女に惹かれていくようになっていったのだが…。

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誰にでもできることから
ペイ・フォワード 可能の王国
監督:ミミ・レダー  2000年・米 123分

中学生になったばかりのトレバーは、アルコール依存の母親を気遣い、近所のホームレスを放っておけない少年だった。ある日、社会科の先生が「この世の中を良くするためには何をしたらいい」という課題を与える。彼は「人から受けた好意を別の人へ回す―ペイ・フォワード」という考えを思いつくのだった。

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孤独、仲間、わかり合うこと…
かいじゅうたちのいるところ
監督:スパイク・ジョーンズ  2009年・米 101分

やんちゃで元気な少年マックスは八歳。シングルマザーの母親と姉との三人暮らしだが、このところ遊び相手になってもらえない。寂しいので狼の着ぐるみで悪さをしていたら、お母さんの怒りが爆発。誰も僕の気持ちをわかってくれない。勢いで家を飛び出してしまったマックス、無我夢中でヨットに乗り込み、海へ乗り出す。たどり着いた島にはたくさんの不思議な怪獣たちがいた。そこでマックスは王様にされてしまう。みんなが幸せになれる王国を作ろう!さあ、どうなる…。

原作はモーリス・センダックの絵本。感性豊かな少年が、ちょっと恐いけれど愛嬌ある怪獣たちと出会い、心を通わせて繰り広げる冒険。それぞれが抱える心の内側を、スパイク・ジョーンズがみごとに描き出す。

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人生のメニューからチョイスを
ニューヨーク 親切なロシア料理店
監督:ロネ・シェルフィグ   2019年・デンマーク/加/スウェーデン/仏/独/英/米 115分

夫の暴力から逃れるため、二人の子どもを連れて着の身着のままで家出したクララ。無一文の三人はホームレス生活を余儀なくされていた。逃げ込んだ先は、マンハッタンにある老舗ロシア料理店のウィンター・パレス。しかし、かつての栄華も今は昔、店はさびれ果てていた。出所したばかりの謎の男マークがマネージャーとして雇われ、再建を任されているのだったが…。マークや店の常連客アリス、商売下手なオーナー、ティモフェイらとめぐり会ったクララだったが…。それぞれが事情を抱えた、言ってみれば訳ありな人々。彼らの優しさに支えられ、新しい人生へと踏み出していくシングルマザーの姿を描く。

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アメリカ一多様性に富んだ街
ニューヨーク、ジャクソン・ハイツへようこそ
監督:フレデリック・ワイズマン  2015年・米/仏 189分

ニューヨークは世界中からの移民とその子孫が作りあげた街。その中でも、167もの言語と多くのマイノリティが集まり、もっとも多様性に富んだ町がジャクソンハイツである。アメリカの象徴ともいうべきその日常風景と、再開発に揺れる人々の姿を映し出したドキュメンタリー。

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長い長い愛の物語
コレラの時代の愛
監督:マイク・ニューウェル  2007年・米 137分

1897年、コロンビアのカルタヘナ。フェルミーナに一目惚れしたフロレンティーノは貧しい郵便局員。一方の彼女は裕福な商人の娘。情熱的なラブ・レターで彼女の心を射止めたものの、二人の間には大きな社会的格差が…。フェルミーナの父親は娘を名家に嫁がせること決めており、二人は引き裂かれてしまう。コレラの撲滅に尽力するヨーロッパ帰りの医師フベナルのプロポーズを受け入れたフェルミーナ。自暴自棄になったフロレンティーノは、彼女を忘れようと、言い寄る何人もの女たちと夜を共にする。内戦とコレラ禍に揺れる南米コロンビアを舞台に、初恋の女性を51年9ヶ月と4日待ち続けた男を主人公にした、ノーベル賞作家ガルシア・マルケスによる異色の愛の物語。

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若き日のチェ・ゲバラ
モーターサイクル・ダイアリーズ
監督:ウォルター・サレス  2003年・英/米 127分

喘息持ちだが好奇心溢れるエルネスト(チェ・ゲバラ)は理想に燃えた23歳の医学生。7歳年上の陽気な友人アルベルトと南米大陸縦断の旅に出る。アルゼンチンのブエノスアイレスから、おんぼろバイク「ポデローサ号」を駆り、パタゴニア、アンデス山脈を越え、チリの海岸線を北上、南米北端ベネズエラのカラカスを目指す。無鉄砲な計画ゆえに、いくつもの困難に出くわすが…。ゲバラが残した日記をもとに映画化した、彼の若き日を再現したロード・ムービー。

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歌の裏に隠された秘密と悲劇
悲しみのミルク
監督:クラウディア・リョサ  2008年・ペルー 97分

ペルーの貧しい村でのこと。死を目前に、ひとりの老女が歌っている。それはテロの時代に彼女が味わった壮絶な恐怖と苦しみの記憶。やがて息を引き取り、娘のファウスタがひとり残された。彼女は母乳を通して母親の苦しみを受け継いだと信じ、成長した今も恐怖のために一人で出歩くことができない。しかし、母親を故郷の村に埋葬したいと願い、その費用を稼ぐため、彼女は町の裕福な女性ピアニストの屋敷の女中となる。恐怖心を紛らわせるため、即興の歌を口ずさむファウスタ。その歌に興味を持ったピアニストは、一曲歌うごとに真珠一粒と交換するというのだが…。

テロの恐怖と混乱に翻弄された1980年代のペルー。そうした歴史と社会を背景に、悲劇と傷跡を母親から受け継いだひとりの女性の過酷な日々と再生への希望を、寓話的につづった、2009年ベルリン国際映画祭の金熊賞に輝く人間ドラマである。

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かけがいのない出会い
セントラル・ステーション
監督:ヴァルテル・サレス  1998年・ブラジル 111分

リオ・デ・ジャネイロの中央駅。代書業を営むドーラのもとに、息子を連れた女性が夫への手紙の代筆を依頼にきた。ところが手紙を書き終えた後、その女性は事故で死んでしまう。みかねたドーラは、一人残されたジョズエを家に招き入れるのだった。とはいえ、子どもの面倒など見る気のないドーラは、ジョズエを父親のもとへ行かせようと、一緒にバスに乗り込む。母親を亡くした少年と偏屈で怒りっぽい老女の父親探しの旅が始まった。

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人生、いろいろあるさ
ぶあいそうな手紙
監督:アナ・ルイーザ・アゼヴェード   2019年・ブラジル 123分

ブラジル南部、ポルト・アレグレの町。ウルグアイからやって来て46年になるエルネストは78歳の老境にある。妻に先立たれ、一人暮らし。もともと頑固な上、視力も衰えたこともあり、投げやりな毎日をおくるのだった。そうした中、一通の手紙が届く。ウルグアイ時代の友人の妻からだった。しかし彼の目ではもはや読むことができない。たまたま知り合った23歳のビアに代読を頼んだことがきっかけで、ビアはエルネストの部屋に出入りするようになる。孤独な二人の間に友情が芽生えていくのだったが…。

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潜入先は老人ホーム!?
83歳のやさしいスパイ
監督:マイテ・アルベルディ  2020年・チリ/米/独/蘭/西 89分

探偵事務所に雇われた83歳のおじいちゃん。潜入先は入居者への虐待が疑われる老人ホームだった。不慣れなスパイ活動に悪戦苦闘しながらも、思いがけず入居者たちと心を通わせていく。そのコミカルさと人間関係の意外な展開…。

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流した涙と幸福は比例する
モンスーン・ウェディング
監督:ミーラー・ナイール  2001年・印/米/仏/伊 114分

舞台はインドの首都デリー。アディティ・ベルマはテレビ局に勤めるインテリ女性。父のラリットが決めた縁談を急に承諾したわけは…。相手のヘマント・ライは米国で仕事をするエンジニア。娘の結婚式を、伝統に則ってモンスーンの時期に親戚縁者を集めて盛大に執り行なうべく、一家は準備に大忙し。式を数日後に控え、アディティは仕事場に別れの挨拶へと向かうのだが、実は担当番組のスタッフと不倫中。今なお心の整理がつかないままなのだ。そんなこととはつゆ知らず、世界中からベルマ家の親族たちが続々と到着する。あちらこちらで各人の思惑が入り乱れて…。

『サラーム・ボンベイ!』の監督がおくる、豪華絢爛で盛大な結婚式を舞台に、そこに集った人々の恋や人生模様を描き出す群像劇。2001年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品である。

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生きる喜びを歌い上げる愛と冒険の活劇!
あなたがいてこそ
監督:S・S・ラージャマウリ  2010年・印 125分

アンドラ・プラデシュの故郷ラヤラシーマを離れ、今はハイデラバードで貧乏暮らしのラーム。対立する家同士の抗争の中で父親が殺されたことを、彼は知らないまま成長した。配達が遅いという理由で、宅配の仕事はクビ。自転車では無理な話だった。オート三輪を買えば雇ってやると言われるが、それには15万ルピーが要る。何をやってもうまくいかない負のスパイラルの中、ある日、故郷の土地5エーカーを相続していたことがわかる。1エーカーが3万ルピーなら15万ルピーだ。土地を売って金に換えるべく、列車で帰郷することに。相席になったのはアパルナという美しい娘。実は、彼女の父こそが父親を殺害した宿敵ラミニドゥだった…。

対立する家族間の抗争で父親を亡くした青年が、宿敵の娘とは知らずに恋に落ちたことから巻き起こる大騒動。インド版「ロミオとジュリエット」か。このアクション・コメディとラブ・ロマンスの融合した作品は、おそらくバスター・キートンの『荒武者キートン』(1923年)にヒントを得たのであろう。インド映画らしく、そこかしこに歌と踊りがちりばめられている。人気コメディアンのスニールが演ずるラーム、アパルナ役のサローニの息をのむような美しさ…。タミル語が多いインド映画だが、本作はケララ語である。

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インドの風に身をゆだねて
マリーゴールド・ホテルで会いましょう
監督:ジョン・マッデン  2011年・英/米/UAE 124分

高齢者向け長期滞在プランのセールストーク「神秘の国インドの高級リゾート・ホテルで、穏やかで心地よい日々を」に乗せられた七人の男女が、インドのマリーゴールド・ホテルに向かう。亡夫の残した負債を返済するために家を手放し、インドでの一人暮らしを決意したイヴリン、退職後に家を買うはずが、予算の都合でインドを選んだダグラスとジーンのカップル、突然判事を辞めたグレアム、英国内では半年先になる手術を受けようと、気乗りしないままインドに来てしまったミュリエルなど、ひとりひとりの事情は様々。ところが、現地ジャイプール着いて目にしたのは、将来は“高級ホテルになる予定”という廃墟同然のオンボロ・ホテルと、家族が止めるのも聞かず、ホテルの復興を目指して一人やる気に満ちた若き支配人ソニーだった。かつての植民地に、今や宗主国が失ってしまった生命力を感じながら、インド特有の混沌の中で、思いがけず人生の喜びを再発見していく七人。ユーモアと感動にみちた群像コメディだ。

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生きているって、すばらしい
マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章
監督:ジョン・マッデン  2015年・英/米 123分

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』の続編。マリーゴールド・ホテルに長期滞在するイヴリンら男女五人。あまりに勝手が違うので、最初は不満だらけだったが、今やホテルに愛着すら抱くようになっていた。おかげでマリーゴールド・ホテルは大繁盛。いつも満室状態である。恋人スナイナとの結婚を控え、ソニーのビジネスも順風満帆。事業拡大に乗り出した彼は、宿泊客から共同マネージャーに転身したミュリエルとともに渡米し、新館オープンの資金獲得を目論んで投資会社へと乗り込むのだった。二人が帰国して間もなく、予約なしの客が現われる。投資会社が送り込んできた覆面調査員に違いない。そう睨んで丁重にもてなすソニーだったが…。

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乗り越えろ、二人で!
あなたの名前を呼べたなら
監督:ロヘナ・ゲラ  2018年・印/仏 99分

結婚してすぐに夫を亡くしたラトナ。貧しい農村に未亡人の居場所はない。大都市ムンバイにやって来た彼女は、建設会社の社長の御曹司アシュヴィンの高級マンションで住み込み家政婦として働くことになった。そのアシュヴィンは、婚約者の浮気で結婚が破談。心の傷で孤独感にさいなまれる彼を気遣いながら、家政婦として日々の仕事をそつなくこなすラトナ。ファッション・デザイナーになりたいという夢を抱き、ある日、裁縫教室に通う許しを求める。快諾するアシュヴィン。自立を目指して懸命に生きようとするラトナに心引かれていくアシュヴィンだったが…。

急速な経済発展の中、旧態依然とした因習や階級格差が根強く残るインド社会を背景に、異なる立ち位置に置かれた女と男の切ない恋の行方を描く、社会の中の人間ドラマ。

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出会い、変わらぬ友情を、いつまでも
きっと、またあえる
監督:ニテーシュ・ティワーリ  2019年・印 143分

インドの学生寮を舞台にした心温まるコメディ。名門大学の学生寮で出会い、バカ騒ぎを繰り広げた若者たちの青春の日々と、親世代となった今でも変わらぬ友情が、ニテーシュ・ティワーリ監督のやさしい眼差しで描かれる。

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イランの家庭の味を、どうぞ
イラン式料理本
監督:モハマド・シルワーニ  2010年・アニープラネット 72分

イランのモハマド・シルワーニ監督が、家族や友人の家庭にカメラを向け、女性たちが台所で披露する家庭料理の作り方を記録する。様々な世代の女性たちが、料理をする中で語る本音を通して、イランの文化や習慣、家庭事情、時代の変化を浮かび上がらせるドキュメンタリー。

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ロシア人が考察し、描いた昭和天皇像
太陽
監督:アレクサンドル・ソクーロフ  2005年・露/伊/仏/スイス 115分

戦争末期の1945年8月、皇后や皇太子らは既に疎開先に去っている。天皇の生活場所は、地下の待避壕か、ただひとつ残った研究所だけになった。敗戦は決定的だが、陸軍大臣が御前会議で本土決戦をぶち上げる。それに対し、天皇は国民の平和を願って降伏を示唆。空襲の悪夢にうなされ、家族(皇后と皇太子)の写真を見つめる天皇。8月15日、戦争は終結した。連合軍総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見の日がやってくる…。

ロシアを代表する映像作家、アレクサンドル・ソクーロフ。歴史上の人物を描く全四部作のうち、ヒトラーの『モレク神』、レーニンの『牡牛座 レーニンの肖像』に続く第三作である。昭和天皇ヒロヒトに焦点を当て、敗戦直前からマッカーサーとの会談を経、現人神から人間宣言を決断するに至るまでを描く。綿密な考証と想像力の駆使によって、天皇というひとりの人間の孤独と苦悩を見つめる。

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自分を知ることの恐ろしさ
惑星ソラリス
監督:アンドレイ・タルコフスキー  1972年・ソ連 165分

未知の惑星ソラリスの軌道上に浮かぶ宇宙ステーション。時代設定は未来だが、現代からそう遠くないはずだ。そこで異常事態が発生する。調査のために科学者のクリスが地球を出発する。到着したステーションの中は荒れ果てていた。先発クルーの三人の科学者はみな狂っている。自殺した妻が現れ、衝撃を受けるクリス。人間の意識を反映して具現化させるソラリスのプラズマ状の海のなせるわざだった…。

ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの『ソラリスの陽のもとに』を映画化したものである。ソ連時代の代表的SF映画であるが、それ以上に、人間心理を巧みに描き出した傑作。内的意識が生み出す幻影に自分自身が怯える。ラストの情景は、クリスの意識の底にあった郷愁の念だろうか。人の意識とは何か。ソラリスの海は「心の鏡」だったのである。自分の心の奥底を見てはならないということか。それを覗き込んだ者が辿ることになる運命。近未来の宇宙空間を背景にしたSFであるが、描かれているのは「今」「ここ」にいる「あなた」のことである。

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禁断の場に踏み込む人の心理
ストーカー
監督:アンドレイ・タルコフスキー   1979年・ソ連 163分

謎の立入禁止区域、ゾーン。その奥にある「部屋」では、人間にとって一番大切な望みが叶えられるという。ストーカーと呼ばれるゾーンの水先案内人は、止める妻を説得し、作家と物理学の教授をつれ、その禁断の場へ足を踏み入れる。境界地帯の警備兵の銃弾をかいくぐると、過去に侵入を試みた軍隊の戦車や人の死骸が無残に放置されていた。水があふれる「乾燥室」を抜け、「内挽き器」という恐しいトンネルをくぐり、ついに「部屋」にたどりつくのだが…。シンプルな筋書き、淡々とした演出だが、織り込まれた映像が重々しく、圧倒される。『惑星ソラリス』につづくタルコフスキーのSF大作。

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タルコフスキーによる未来への遺産
ノスタルジア
監督:アンドレイ・タルコフスキー  1983年・伊/ソ連 126分

国を追われた詩人が、不治の病に侵されながらイタリアを放浪する。寒村の湯治場にたどりつき、狂人扱いされている老人と出会う。「ロウソクの火を消すことなく広場を渡るように」という謎めいた依頼。それが世界救済にむすびつくというのだ。ローマの騎馬像の上で、平和を説き、焼身自殺を図る老人。吹きすさぶ風からロウソクの炎を必死に守りながら、何度もぬかるんだ広場の横断を試み、ついに渡り切ろうというその時、雨は雪に変わる…。

故郷を想い、死を畏れ、実存的苦悩に囚われるさまを、ソフトフォーカスを駆使したようなしっとりと湿った映像でゆるゆるとつづられる。主人公に重なるのは、祖国を離れて亡命者となったタルコフスキー。「帰る場」を失って彷徨う彼の心情が色濃く表れた、悲哀に満ちた重厚な映像詩である。

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これは人間の“業”なのかも
ビフォア・ザ・レイン
監督:ミルチョ・マンチェフスキー   1994年・英/仏/マケドニア 115分

マケドニアからロンドン、そして再びマケドニアと、「言葉」「顔」「写真」の三つのエピソードからなる人間ドラマ。マケドニアの美しい山岳地帯にある、歴史の中に忘れ去られたかのようにひっそりと佇む修道院。沈黙を守る若い僧キリルと少女の物語の「言葉」。ロンドンを舞台に、写真エージェントで働く女性編集者アンと、彼女の愛人でカメラマンのアレックスとの関係を描く「顔」。名声も仕事も捨て、故郷の村を訪ねたアレックスが、かつて好意をよせた女性と再会する「写真」。交錯する登場人物、微妙に繋がる物語、ストーリー全体が捻れながら進行していく循環構造。その映像センスと演出、心理描写で描かれる人間の愛と悲しみが評価され、1994年ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞した作品。

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古い歴史、豊かな山河- 美しい映像で語る孤高の画家への追憶
放浪の画家 ピロスマニ
監督:ギオルギ・シェンゲラヤ   1969年・グルジア 85分

ここはグルジアの片田舎。町の居酒屋や食堂の壁にかける絵を描いて細々と暮らす画家のニコ・ピロスマニ。町にやってきた画家にロシア中央画壇を紹介され、モスクワへ。しかし、そこは権威主義の世界だった。美術界の冷遇に傷つき、失意のまま帰郷する。革命を求める声が微かに響く祖国で、同胞と自分のためだけに絵筆をとり、ひっそりと世を去った孤高の天才画家。その質素で清廉な生き様を静かで穏やかに描いた作品である。

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重い過去さえも自分の大切な財産…
金の糸
監督:ラナ・ゴゴベリーゼ  2019年・グルジア/仏 91分

グルジアの首都トビリシの旧市街で娘夫婦と暮らすエレネ。79歳の誕生日なのに、誰もそれに気づかない。そこへ昔の恋人だったアルチルから数十年ぶりの電話…。過去の思い出話に花が咲く。そんな中、娘の夫の母親がアルツハイマーを発症し、一緒に暮らすことになった。ソ連時代に政府高官として恵まれた立場にあった彼女とはソリが合わないエレネだったが…。

グルジアの苦難の歴史を背景に、この国を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリーゼが、91歳にして撮り上げた人間ドラマ。人生の晩年を迎えた女性を主人公に、ソ連時代の辛い記憶を引きずりながらも、日本の伝統的修復技法である“金継ぎ”のように、重い過去さえも自分の大切な財産と受け止めるために前向きに向き合おうとする姿を描き出す。

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ファビアンよ、どこへ行く?
さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について
監督:ドミニク・グラフ  2021年・独 178分

1931年のベルリン。今はタバコ会社でしがないコピーライターを務めるファビアンだったが、実は小説家を志す32歳の青年。友人宅でクレー射撃に興じる時、銃声のたびに耳を押さえる。何かのトラウマ?第一次大戦に敗れ、社会も経済も混乱の中にあったドイツだが、その一方で様々な表現主義が現れ、文化は爛熟。夜な夜な怪しげな酒場に繰り出すファビアンたち。あの時代のベルリンは、まさに20世紀のバビロンのごとし。そんな中で出会ったコルネリアという女性。街に失業者があふれ、ファビアンも解雇されてしまう。退職金をはたいてコルネリアにドレスを買い、無心する男に金を握らせ、ドレスデンから出てきた母親の土産に20マルク札があるのを知って、別れ際にハンドバッグに20マルクを忍ばせる。貧すれど鈍せずのモラリスト、それがファビアンだった。そんな彼が選んだのが…。

『飛ぶ教室』や『エミールと探偵たち』など児童文学で知られる原作者のケストナーは1899年生まれ。17歳のときに第一次大戦に従軍し、砲兵部隊に配属されていた。もしかすると、ファビアンは原作者がモデルなのか?

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笑いなさい。人生は素晴らしいのだから
イブラヒムおじさんとコーランの花たち
監督:フランソワ・デュペイロン  2003年・仏 95分

1960年代初めのパリ。少年モモは13才。彼が生まれてすぐ、母親は兄のポポルを連れて出奔してしまった。今は父親と二人でユダヤ人街のブルー通りに暮らしている。いつも不機嫌そうな父親。なにかにつけ「ポポルはできが良かった」と小言をいう。家族の愛情が欲しいモモは、それでも思春期の少年らしく、街角の娼婦に心が落ち着かない。そんなモモを、近所で小さな食料品店を営む孤独な老トルコ人のイブラヒムがそっと見守り続けていた。そんなこととはつゆ知らず、イブラヒムの店で万引きを繰りかえすモモ…。

家族の愛を知らずに育ったユダヤ人少年と年老いた孤独なトルコ商人の、宗教も世代も越えた心の交流と、二人の出会いを通して描かれる人生の素晴らしさ。日常の中で忘れてしまった“ふつう”の人間関係がここにある。

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運命を変える出逢いは…、きっとある
モロッコ、彼女たちの朝
監督:マリヤム・トゥザニ  2019年・モロッコ/仏/ベルギー 101分

夫を亡くし、一人で幼い娘を育てながら、小さなパン屋を切り盛りするアブラ。忙しい日々の生活に追われ、すっかり笑顔を忘れてしまっている。そこにあらわれたのが、仕事を求めるサミア。未婚の妊婦は、イスラム社会ではタブー。仕事も住むところも失い、街をさまよっていた。人を雇う余裕はないと、追い返すアブラ。しかし、行き場もないまま道端にたたずむのを見かねて、家に招き入れる。パン作りが得意なサミアは、アブラ母娘に明るさをもたらし始めるのだったが…。

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幽閉生活を強いられた女性の生き様
婉という女
監督:今井正  1971年・ほるぷ映画 123分

土佐藩の家老、野中兼山が失脚、死亡した。政敵たちは野中の家系を根絶やしにするため、妻や子など遺族らを山中の家へ幽閉する。四歳だった三女の婉も、成長するにつれ、兄弟姉妹間に性のわだかまりが吹き出してくる。妹を襲おうとして発狂した兄は座敷牢に閉じこめられ、生母に狼藉を働き、共に死ぬ運命を辿る。道を外すまいと勉学に励む婉のもとに、兼山を慕う学者の谷秦山が訪れる。秦山との文通を通し、彼に惹かれていく婉であったが…。

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戦争をはさんで生きる女性のたくましさ
女ひとり大地を行く
監督:亀井文夫  1953年・キヌタプロ/北炭労組 138分

山田喜作は秋田県横手の農夫。生活苦のため、昭和七年の冬、妻サヨと二人の子を残して北海道の炭鉱に行く。しかし、炭坑生活の苦しさに耐えられずに脱走。仕送りを断たれたサヨは子連れで炭鉱を訪ねる。そこで知らされたのは、喜作が爆発事故で死んだということ。彼女は女坑夫としてそこに居着くことにするのだが…。

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基地を背景にした人間喜劇
豚と軍艦
監督:今村昌平  1961年・日活 108分

米海軍基地の街、ヨコスカ。軍艦が入港すると、米兵相手のキャバレーが立ちならぶドブ板通りは俄然活気を呈してくる。その一方で青息吐息の一群も…。当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中である。行き詰まった日森一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を思いつく。ハワイから来た崎山が豚の餌に基地の残飯を提供するといううまい話も。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、“日米畜産協会”の目処がついたのだが…。

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夢ならいいが…
監督:黒澤明  1990年・日/米 121分

黒澤明が、自分の見た夢をもとに撮りあげたという八つのオムニバス作品。特撮、ハイビジョンでの合成、幻想的な映像、豪華なキャストと、公開時には大きな話題となった。30年たった今、そうした技術的なことよりも、テーマの方が気にならないだろうか。黒澤明は鬼籍に入ったが、存命なら「正夢!」と叫んだかもしれない。本作を見て何を思うかは、ひとりひとりに委ねようと思う。

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語り継ぐ、その辛さを乗り越えて…
3.11を語り継ぐ 民話の語り手たちの大震災
2012年・KHB東日本放送 147分

夫と孫と3人で家の2階ごと流され、一晩「漂流」した語り手。目の前で妻を津波にさらわれた男性…。あの日あのとき、何が起こったのか。6人の民話の語り手たちが、心に深く刻まれた、自身の壮絶な被災体験を語る。

①手を振って妻は…
 鈴木善雄さん 宮城県名取市・閑上で被災

②孫のひとことで2階へ
 庄司アイさん 宮城県亘理郡・山元町で被災

③来ないはずのところへ津波が
 仲松敏子さん 宮城県本吉郡・南三陸町で被災

④津波に追いかけられて裏山へ
 高橋武子さん 宮城県本吉郡・南三陸町で被災

⑤手提げひとつで避難して
 小野トメヨさん 福島県相馬郡・新地町で被災

⑥家も田圃も畑も海水に
 土見壽郎さん 宮城県塩竃市・寒風沢島で被災

(商品説明から)

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災害から学び、伝えること
東松島市からのメッセージ ~震災を語り継ぎ未来を創造するために~
2014年・東松島市教育委員会/仙台放送 45分

2011年3月11日、私たちが経験したことがない災害、「東日本大震災」が発生し、大切な人、大切な思い出の場所や物を一瞬にして奪い去りました。

これまで、震災直後から市図書館が、自然災害の記録として市民の震災の体験談、被災写真や資料を収集・整理してきたものを、仙台放送が撮影・編集を行い、映像記録集としてまとめました。

この取り組みの背景には、人の営みと自然災害史の関係があります。未曾有の災害でも、時間の経過と共に人の記憶は風化し、やがて消えていきます。震災の記録をともしびとして後世に伝承していく事は、同じ悲劇を繰り返さない、繰り返してほしくないという思い、そして防災・減災に繋がればと願い取り組むものです。

第1章 東松島市と東日本大震災
第2章 東松島市民が経験した東日本大震災
第3章 震災直後の東松島市を支えてくれた人々
第4章 震災に負けない東松島市の未来に向けて

(商品説明から)

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“自分”と“社会”の接点、3・11ボランティア活動を通して“生きる意味”を問い直す
被災地に来た若者たち
監督:土井敏邦  2014年 60分

2011年の東日本大震災の直後から、多くの若者たちがボランティアとして被災地に駆けつけた。若者たちはなぜ被災地にやってきたのか。そのボランティア活動を通して、彼らは何を思い、何を習得し、どう変わっていったのか。津波で被害を受けた仙台市荒浜地区でボランティア活動を続けた6人の若者たちをカメラで追いながら、日本社会における若者たちの“個人と社会の関わり”を描く。 (土井敏邦ウェブサイトから)

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空に聞く。それは上を見ること、前を見ること
空に聞く
監督:小森はるか  2018年・愛知県美術館 73分

東日本大震災の後、三年半にわたって陸前高田災害FMのラジオ・パーソナリティを務めた阿部裕美さんの視点から、放送その他の活動を通して変わりゆく陸前高田の風景と、そこに暮らす人々の生活を見つめたドキュメンタリーである。震災ボランティアをきっかけに、活動拠点を東北に移した小森はるか監督の視点が清々しい。

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もう一度、話したい
風の電話
監督:諏訪敦彦  2020年・「風の電話」製作委員会 139分

東日本大震災で家族を失い、心に深い傷を抱えながら、今は広島の伯母の家に身を寄せている高校生のハル。その叔母が倒れ、入院してしまった。悲しみと不安のため、道端で気を失ってしまうハル。偶然通りかかった男に助けられた彼女は、たった一人で故郷の大槌町へ向かうことを決意する…。

亡くなった大切な人と交信ができるという、岩手県大槌町に実在する電話ボックス。人はそれを「風の電話」と呼ぶ。

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わぁ、三味線弾ぐ
いとみち
監督:横浜聡子  2021年・ドラゴンロケット 116分

高校生のいと。三味線を弾く時、爪にできる溝―糸道(いとみち)―に由来する名前だけあって、祖母と亡き母から受け継いだ津軽三味線の名手である。ただ、強い津軽訛りと人見知りゆえに、本当の自分を誰にも見せることができない。ある日、思い切って津軽メイド珈琲店でアルバイトを始めたことで、日常が大きく変わり始める。その奮闘と成長を描いた青春ドラマ。

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少年が見た外の世界
アイヌモシリ
監督:福永壮志  2020年・日/米/中 84分

北海道阿寒湖畔のアイヌコタンに暮らす中学生のカントは、アイヌ独自の文化に触れながら育ってきたはずだったが、父の死をきっかけに、アイヌの活動には参加しなくなっていた。友人と始めたバンド活動に頭がいっぱいで、卒業後は高校進学のために故郷を離れる予定のカントを、コタンの中心的存在のデボが自給自足のキャンプに連れ出す。

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傷つけられた心の終着点
ペパーミント・キャンディー
監督:イ・チャンドン  1999年・韓国 129分

1979年秋、鉄橋下の河原でピクニックに興ずる若者たち。男はそこで一人の女と出会う。初恋だった。80年、彼は戒厳軍の一兵卒として、光州事件の鎮圧に向かわされる。除隊した彼は警察官になった。民主化運動が盛んになった87年、容疑者への激しい水責め拷問する彼。99年、彼は死の床にある初恋の彼女を見舞った。三日後、あの同じ河原で20年前の仲間と再会する。

男がなぜ今の境遇に至ったのか、ストーリーは過去へ遡るようにして描かれる。『タクシー運転手』『1987、ある闘いの真実』の後でぜひ見てほしい人間ドラマ。

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日韓の架け橋となった心
道 ― 白磁の人 ―
監督:高橋伴明  2012年・小説「白磁の人」映画製作委員会 119分

日韓併合の四年後(1914年)、荒廃した朝鮮の山々を緑に戻すという使命感を抱いて朝鮮半島に渡り、京城(今のソウル)にやって来た林業技術者の浅川巧。朝鮮蔑視の日本人が多い中、そうした偏見を抱くことなく、朝鮮語を学び、朝鮮人同僚との間に友情を育む。やがて朝鮮白磁の美しさに魅せられ、柳宗悦とともに朝鮮工芸品の収集や研究、紹介に務め、日韓の架け橋となっていく。

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家族、そして父との約束
国際市場で逢いましょう
監督:ユン・ジェギュン  2014年・韓 127分

朝鮮戦争の真っ只中、興南から南の釜山に引き揚げる船が出港しようとしている。主人公の少年ドクスは、母と幼い弟妹と共に乗り込むことができたが、父と妹は離ればなれに。国内避難民として、釜山の親戚の家に身を寄せる。やがて成長したドクスは、家計を支えるために西ドイツの炭坑へ出稼ぎに行く。そこで起きた炭鉱事故。どんなに辛く困難な時でも、家族の存在と、父と交わした「いつか国際市場で会おう」という最後の約束を心の支えに、がんばり続けるドクスだったが…。激動の時代を生き抜いた、ある家族の物語。

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軍事政権のもとで生きた男と女
なつかしの庭
監督:イム・サンス  2006年・韓国 112分

軍政に抵抗し、17年の刑期を終えて出所した主人公。乗り込んだタクシーで見たのは、かつて獄中生活を支えてくれた恋人の写真だった。逃亡生活を送っていたときに協力者として紹介され、二人は愛し合う仲に。潜伏場所で現実とは一線を画す幸福な生活を送るが、ソウルで仲間が捕まったとの連絡を受け、彼は彼女を残して立ち去る。

韓国現代史を知らないと理解困難だろう。「つまらない」等の評は、歴史や社会的背景に関する知識なしで見るからだと思う。『光州5・18』や『タクシー運転手』、『ペパーミント・キャンディー』に何か感じるところがあったなら、やはり見るべき作品だ。

黄晳暎(ファン・ソギョン)の原著も翻訳出版されているので、こちらを読むのも良いだろう。

懐かしの庭〈上〉 2002年
懐かしの庭〈下〉 2002年

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生き方は誰が決めるのか
バッカス・レディ
監督:イ・ジェヨン  2016年・韓国 111分

ソヨンは「死ぬほど上手」と評判の高齢者向け売春婦。客に性病をうつされ、治療のために病院に行くが、待合室でトラブルに巻き込まれたフィリピン人少年を助け、やむなく家に連れ帰った。そこは同性愛者、障がい者など、社会の周辺に生きる人たちが肩を寄せ合って暮らすシェアハウス。生きるのが辛いと嘆く客たちに同情し、「上手に死なせてあげる」方法を思いついた彼女は…。バッカスとは1963年から販売されている韓国の栄養ドリンク(オロナミンCやリポビタンDみたいなもの)の商品名である。ソヨンを演ずる韓国の大女優、ユン・ヨジョンの演技がすばらしい。

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この世界が、気になった
はちどり
監督:キム・ボラ  2018年・韓/米 138分

急速な経済発展を続ける1994年の韓国。中学2年のウニは、両親と問題を抱えた姉と兄の5人でソウルに暮らしている。仕事で忙しい両親の関心は、もっぱら長男の大学受験のことだけ。ウニのことなど気にかける素振りも見せない。同級生たちとなじめず、学校でも孤独な日々を送るウニだったが、ある日、初めて自分に関心を示してくれる大人と出会う。新しく塾の教師として着任した女性、ヨンジだった。彼女に対して少しずつ心を開き、自分の抱える悩みを相談するようになったのだが…。

急速な経済発展を続ける1994年の韓国を舞台に、長い歴史の上に築かれた男性優位社会の中で、様々な理不尽に傷つけられ、孤独な日常生活を送る14歳の少女の葛藤と成長を、繊細な視線で描き出された青春群像劇。

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あなたのまわりには福がいっぱい
チャンシルさんには福が多いね
監督:キム・チョヒ  2019年・韓国 96分

映画プロデューサーのチャンシル。映画をこよなく愛する彼女は、全人生を映画に捧げるつもりでいたのに、これまで支えてきた映画監督が突然、急死してしまう。仕事一筋に生きてきたアラフォー女は、今になって子どもも男も家も金もないことに気づくのだった。とりあえず丘の上に立つ一人暮らしの老女の家に間借りした彼女は、気心の知れた女優の家で家政婦として働き始めたのだが…。等身大のヒロインを、ユーモアとペーソスを織り交ぜて描くコメディ・ドラマ。

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台湾、激動の4年間
悲情城市
監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)  1989年・台湾 159分

1945年、戦争に敗れた日本は台湾から撤退を始める。祖国解放の喜びにわきたつ台湾の人々。それも束の間、1949年になると、大陸での国共内戦に敗れた蒋介石の国民党政府が台北を臨時首都と定め、続々と人々が渡ってきた。そうした外省人らが、もとから台湾に住む人たち(本省人)を抑圧し始める。台湾にとっての激動の4年間を、林家の長老、阿祿とその息子たちの姿を通して描いた一大叙事詩。1989年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を得た作品。

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伝統を受け継ぎ、次世代に引き継ぐことの困難
台湾、街かどの人形劇
監督:ヤン・リージョウ  2018年・台湾 99分

この作品の製作総指揮を務める映画監督のホウ・シャオシェン氏。彼の本業は、実は布袋戯と呼ばれる台湾伝統芸能の人形遣い。これまでの功績により、日本の人間国宝に当たる人物として、多くの人の尊敬を集めている。本作は、偉大な父親から布袋戯を継承した、やはり人間国宝の人形遣いであるチェン・シーホァンに密着して描いたドキュメンタリー。テレビに加え、台湾といえばIT先進国。それゆえ、時代の流れの中で、布袋戯は消滅の危機に瀕していこの作品の製作総指揮を務める映画監督のホウ・シャオシェン氏。彼の本業は、実は布袋戯と呼ばれる台湾伝統芸能の人形遣い。これまでの功績により、日本の人間国宝に当たる人物として、多くの人の尊敬を集めている。本作は、偉大な父親から布袋戯を継承した、やはり人間国宝の人形遣いであるチェン・シーホァンに密着して描いたドキュメンタリー。テレビに加え、台湾といえばIT先進国。それゆえ、時代の流れの中で、布袋戯は消滅の危機に瀕している。チェン・シーホァンは危機感を抱き、継承のための活動を背景に、伝統の継承と親子の心の葛藤が描かれる。

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中国農村の神話か、それとも芸術冒険的映画か…
紅いコーリャン
監督:張芸謀  1987年・中国 91分

1920年代の中国山東省。18歳のチアウルの輿入れから始まる。嫁ぎ先は造り酒屋を営む、ハンセン病患いの年の離れた男。気乗りしない結婚だったが、ラバ一頭をもらった父親は大満足だった。その輿を担いだ青年と劇的な恋に陥る。しばらくすると、主が行方不明に。店を継いだチアウルが酒造りの指揮を執り、輿ぎの青年と結婚する。できあがった酒が評判となり、商売は繁盛。そんなところへ日本軍が侵攻してきた。コーリャン畑を荒らす彼らへの抵抗が始まる。

花嫁衣装、大地を染める夕日、コーリャン酒など、これでもかと紅を強調する作品には賛否両論あるだろう。これはエロティシズムの象徴か、はたまた抵抗のエネルギーを表しているのか。大胆な画面構成と色彩、たたみかけるようなスピーディーな進行など、素朴な伝承物語をベースにしながらも、現代でも通用する作りに、張芸謀の才能を感じる。1988年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。

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親と子の心がかよう時
山の郵便配達
監督:フォ・ジェンチイ  1999年・中国 93分

1980年代初め、中国湖南省西部の山岳地帯にある農村が舞台。責任と誇りを胸に、長きにわたって郵便配達をしてきたひとりの男。その彼にも、そろそろ引退の時期が迫ってきた。ある日、仕事を引き継がせるために、息子と二人して最後の仕事へと出発する。待ち受けるのは、配達に二泊三日を要する過酷な道のり。重い郵便袋を背負い、犬を連れ、険しい山道をたどり、いくつものをたずねる。口数は少なく、黙々と仕事をこなしながらも、息子に道と集配の手順を教え、この仕事の責任と誇りを伝えるのだった。父親とその仕事に対してわだかまりを抱いていた息子だったが、少しずつ父親の心を理解し、自分が引き継ぐのだという思いを新たにしていくのだった…。

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時は流れ、街も景色も人の心も移ろいゆく
帰れない二人
監督:ジャ・ジャンクー  2018年・中国/仏 135分

2001年の中国山西省の大同。炭鉱業が衰退し、街は不況にあえいでいたが、ヤクザ者のビンは裏稼業で羽振りが良かった。ある晩、若いチンピラ連中に襲われて窮地に。そこに居合わせたのは、ビンを心から愛してやまないチャオ。ピストルで威嚇射撃し、なんとか場を収めたものの、二人は逮捕されて刑務所に送られてしまう。五年後、チャオは出所。しかし、一年で出所したビンの出迎えは、そこにはなかった。チャオはビンの行方を追い、三峡ダムのある奉節へと向かう…。

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変わりゆく社会、変わりゆく家族
春江水暖
監督:グー・シャオガン  2014年・韓 127分

ここは大河、富春江が流れる富陽。街のそこここで再開発の工事が進む。ある晩、この街に暮らす顧家の家長の誕生日を祝う盛大な宴が催された。宴席の主役である母、四人の息子とその家族たちが大勢集まっている。認知症が進む老母、それぞれが複雑な事情を抱える四人の息子たち、みな悩み多き日々を送る。幼稚園の先生をしている長男の娘は、同僚との恋を育んでいくのだったが…。変わりゆく社会の中で、四季を背景に、親子三代の大家族が織りなす群像家族ドラマ。

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大人のエンタテイメントの世界
クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち
監督:フレデリック・ワイズマン  2011年・仏/米 134分

パリを代表するナイトクラブのひとつ、クレイジーホースに焦点をあて、その全貌に迫るドキュメンタリー。女性美を追求した芸術的なストリップティーズの舞台裏に密着する。踊り子と振り付け師、演出家との念の入ったリハーサル風景、選考側の生々しいやり取りが聞こえるオーディション、裏方スタッフの作業、運営会議など、あらゆるところにカメラが入り、フランス屈指のエンタテインメントの魅力と秘密を描いてみせる。

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人生は一期一会の旅
顔たち、ところどころ
監督:アニエス・ヴァルダ、JR  2017年・仏 89分

アニエス・ヴァルダはベテラン映像作家。一方のJRは、世界各地で、そこに住む人たちを撮影、その巨大ポートレートを壁に貼るというプロジェクトで注目される若手アーティストだ。この54も歳の離れたコンビが、JRの運転するスタジオ付きバンで旅に出る。行き先は決まっていない。フランスの田舎をめぐり、行く先々で出会う村人たちと、アートを通して触れ合っていく、そんな気ままな旅である。なぜかホッとするロードムービー的ドキュメンタリー。

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ほんとうのしあわせってなんだろう…
アニメ『銀河鉄道の夜』
監督:杉井ギサブロー  1985年・朝日新聞 107分

病気の母親と二人暮らしのジョバンニ。父親は遠洋漁業に出たまま帰ってこない。家計を助けるため、放課後は町の印刷所で働いている。母に飲ませる牛乳が届かなかったため、町はずれの牧場に取りに行った。その夜は星祭り。突如あらわれたのは、行き先もわからない銀河鉄道。誘われるように乗り込んだ汽車には、友だちのカンパネルラも。ふたりして、白鳥ステーションで古代の動物の骨を発掘している現場を見たり、氷山に衝突して沈んだ豪華客船の乗客だった少女らに出会ったりしながら、幻想的な銀河の旅を続ける。だが、巨大な十字架の前を通り過ぎたとき、カンパネルラが思わぬ告白を…。

宮沢賢治の小説を、ますむらひろしがマンガ化、さらに杉井ギサブローがアニメ映画としたファンタジー。ほとんどの登場人物が猫の姿で描かれており、細野晴臣による音楽が背後に流れる。

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