讃美歌「やすかれ、わがこころよ」

“Kullervo Departs for the War,” by Akseli Gallen-Kallela (1901)

「フィンランディア」のメロディで歌われる讃美歌があることについては、すでに紹介した。ただ、一口にキリスト教と言っても、様々な教団、教派があり、同じ曲が異なる歌詞で歌われることも珍しくない。特に日本語化するにあたり、翻訳ないし新たな歌詞の創作という作業が加わるため、ますます多種多様化することになる。私にとっては、ただややこしいだけの話なのだが、それぞれが別々の目的、思い入れをもって歌われているのだろうから、そのことをあげつらうつもりはまったくない。ここでは、私の知っている範囲で、それらを紹介しておこう。

私の手元には英語の讃美歌集が二種類あり、“Be Still, My Soul”は、そのどちらにも含まれている。この歌詞が、カタリーナ・フォン・シュレーゲルによる“Stille, mein Wille! Dein Jesus hilft siegen”の英語訳であるのは、ほぼ間違いなかろう。しかし、一冊の方には、さらに“A Christian Home”という題で、同じ曲が掲載されていた。また、ネットでは“We Rest on Thee”なる讃美歌も見つかる。これらの歌詞は、“Be Still, My Soul”とはかなり違っている。

日本で歌われている同曲の多くは、日本基督教団『讃美歌』の第298番「やすかれ、わがこころよ」の歌詞を踏襲しているようだ。以下の讃美歌集に収録されているものを比較したが、どれも同じであった。詩の内容から、“Stille, mein Wille! Dein Jesus hilft siegen”または“Be Still, My Soul”からの翻訳であろう。

日本基督教団『讃美歌』第298番
日本基督教団『讃美歌21』第532番
福音賛美歌協会『教会福音賛美歌』第434番
日本バプテスト連盟『新生讃美歌』第292番
日本福音ルーテル教会『教会讃美歌』第337番
教文館『新聖歌』第303番

日本福音連盟の『聖歌』第309番(総合版では294番になっている)の日本語歌詞も、内容から推測するに、これも“Stille, mein Wille! Dein Jesus hilft siegen”ないし“Be Still, My Soul”からの翻訳のように思われる。やや文語調なので、今の若い人にはわかりづらいかもしれないが、讃美歌としては、私の世代にはむしろしっくりくるような気がする。

やや趣を異にするのが、セブンスデー・アドベンチスト教団『希望の讃美歌』に収録されたものと、聖公会の『聖歌集』にあるものだ。特に後者は、歌詞からわかるとおり、葬送の儀で歌われるものである。たしかに、人生の終末まで信仰心を持って試練に耐えよ。さすれば永遠の主が受け入れてくれるという内容なのだが、ドイツ語の“Stille, mein Wille! Dein Jesus hilft siegen”を作詞したカタリーナ・フォン・シュレーゲルは、葬送を念頭にしていたとは思われないので、私としてはなんとなく違和感があるのだが、どうであろうか。

いずれにせよ、キリスト教としての試練に立ち向かう姿勢や信頼を歌う讃美歌ではあるが、もとの「フィンランディア」の主題であった抵抗という要素は、ほとんど失われてしまっている。讃美歌としてのできはともかく、これら一連の讃美歌は、ドイツ語のものも英語のものも、そして日本語のものも、あくまでも「フィンランディア」のメロディを広く伝える役目を果たした点については評価できるのだが、それ以上ではないと言えるのではなかろうか。


日本語歌詞へ跳ぶにはここからどうぞ。

英語歌詞(1)

A Christian Home – Oh give us homes

1.
O give us homes built firm upon the Saviour,
Where Christ is Head, and Counsellor and Guide;
Where ev’ry child is taught His love and favor
And gives his heart to Christ, the crucified:
How sweet to know that tho’ his footsteps waver His faithful Lord is walking by his side!

2.
O give us homes with godly fathers, mothers,
Who always place their hope and trust in Him;
Whose tender patience turmoil never bothers,
Whose calm and courage trouble cannot dim;
A home where each finds joy in serving others,
And love still shines, tho’ days be dark and grim.

3.
O give us homes where Christ is Lord and Master,
The Bible read, the precious hymns still sung;
Where prayer comes first in peace or in disaster,
And praise is natural speech to ev’ry tongue;
Where mountains move before a faith that’s vaster,
And Christ sufficient is for old and young.

4.
O Lord, our God, our homes are Thine forever!
We trust to Thee their problems, toil, and care;
Their bonds of love no enemy can sever
If Thou art always Lord and Master there:
Be Thou the center of our least endeavor:
Be Thou our Guest, our hearts and homes to share.


英語歌詞(2)

We Rest on Thee

1.
We rest on thee, our Shield and our Defender!
We go not forth alone against the foe;
strong in thy strength, safe in thy keeping tender,
we rest on thee, and in thy name we go;
strong in thy strength, safe in thy keeping tender,
we rest on thee, and in thy name we go.

2.
Yea, in thy name, O Captain of salvation!
In thy dear name, all other names above:
Jesus our righteousness, our sure foundation,
our Prince of glory and our King of love,
Jesus our righteousness, our sure foundation,
our Prince of glory and our King of love.

3.
We go in faith, our own great weakness feeling,
and needing more each day thy grace to know:
yet from our hearts a song of triumph pealing,
“We rest on thee, and in thy name we go”;
yet from our hearts a song of triumph pealing,
“We rest on thee, and in thy name we go.”

4.
We rest on thee, our Shield and our Defender!
Thine is the battle, thine shall be the praise;
when passing through the gates of pearly splendor,
victors, we rest with thee, through endless days;
when passing through the gates of pearly splendor,
victors, we rest with thee, through endless days.


日本語歌詞

日本福音連盟『聖歌』第309番
日本福音連盟『聖歌』総合版 第294番

1.
静かに待て我が魂よ 肩持つ神は在(ま)せり
忍びて十字架を担え 汝が神助けたまわん
茨の道の彼方に 妙なる喜びあり

2.

静かに待て我が魂よ 汝が道神は知らす
暗闇空を覆えど 彼方に輝きあり
波風荒れ狂うとも 直ちに神は鎮めん

3.

静かに待て我が魂よ 神に会う朝は近し
その時空に雲なく 涙の霧も晴れて
輝く御顔を仰ぎ 我が魂満ち足るを得ん

セブンスデー・アドベンチスト教団『希望の讃美歌』第349番

1.
安かれ わがたましいよ
主イエスは ともにいませば
雄々しく 主の十字架を
負いつつ しのび進め
主イエスは いばらの道
み手もて 導きたもう

2.
安かれ わがたましいよ
主イエスの み言葉たより

悩みも あつき雲も
恐れず いさみ進め
主イエスは 風も波も
しずめて おさめたもう

3.
安かれ わがたましいよ
主イエスの み国きたりて
かなしみ 悩みは去り
よろこび 愛にあふる
涙も 痛みもなき
いのちの 朝を迎えん

日本聖公会『聖歌集』第291番(葬送の式)

1.
やすかれ わが心よ   主イエスは 共にいます
痛みも 苦しみをも   おおしく しのび耐えよ
主イエスの共にませば  耐ええぬ悩みは なし

2.

やすかれ わが心よ   なみかぜ たけるときも
父なるあまつ神の    み旨に 委ねまつれ
み手もて導きたもう   望みのときは近し

3.

やすかれ わが心よ   わが友 旅立つとき
悲しみ 沈みゆくも   愛もて強めたまえ
父なる神の心      豊かにわれを包む


4.
やすかれ わが心よ   み国のまねきせまる
悲しみ 恐れは去り   愛なる喜び満つ
涙の過ぎ去るとき    ふたたび われらまみゆ


(しみずたけと)

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