ジンタで歌う「沖縄を返せ」

ジンタによる「平和に生きる権利」を聴いてもらったところで、今度は沖縄をテーマにした歌を一曲。

::: 歌詞 :::

かたき土を破りて 民族のいかりにもゆる島 沖縄よ
我らと我らの祖先が 血と汗をもって 守りそだてた沖縄よ
我らは叫ぶ 沖縄よ 我らのものだ 沖縄は
沖縄を返せ 沖縄を返せ

現代の沖縄を考えるには、次の三点について認識が不可欠だ。島津藩による侵略、沖縄戦、そして米軍基地の問題。島津藩の後を受け、明治政府は1872年、琉球藩を置いた。1871年の廃藩置県と並行する藩の設置は、どう考えてもおかしいことであるのだが…。沖縄県が設置されたのは1879年。明治政府が《琉球処分》と呼ぶ、この一連の侵略と併合に正当性はあるのか。中国の対香港政策やロシアの膨張政策を非難する人も、こと日本による沖縄の支配について問うと、黙して語ることがない。

アジア太平洋戦争の終盤における沖縄戦は、本土防衛のための時間稼ぎとして、沖縄を“捨て石”にしたものであった。戦争に敗れた日本は、アメリカの占領下に置かれたが、1951年の《サンフランシスコ講和条約》により、沖縄を切り離す形で独立を回復。沖縄戦に続き、本土は再び沖縄を見捨てたのである。

歌声運動が盛んだった1956年、《第4回九州のうたごえ祭典》に沖縄代表が初めて参加した。全九州合唱団会議が、沖縄祖国復帰の闘い支援を呼びかけ、全司法福岡高裁支部が作詞、労働者作曲家と呼ばれる荒木栄が曲をつけたのが、この「沖縄を返せ」である。創作コンクール大衆投票で、この歌は第1位に選ばれた。

歌う主体が、沖縄側なのか本土側なのか、やや曖昧な感じもするが、これは作詞に、福岡法務局に勤めていた沖縄出身の仲吉良新らが関わっていたからかもしれない。しかし、ここで歌われる“民族”が、沖縄の人々を含む日本人総体を意味し、ともに「返せ」と叫ぶ“我ら”であるとするなら、米軍によって分断された日本と沖縄の統一を願うものと受けとめることも可能だ。これは、東西ドイツ統合に先んじた革新的ナショナリズムだったのかもしれない。

1960年代、沖縄では本土復帰の気運がいっそう高まり、それに呼応するかのように、本土でも「沖縄を日本に!」と、連帯意識が燃え上がった。プロもアマも、一人でも合唱でも歌われた「沖縄を返せ」。沖縄の歴史、今なお沖縄が置かれている苦境に思いをいたすことのできる人なら、知らぬ人のない歌であろう。

ベトナム戦争終結という背景があったにせよ、1972年5月15日の沖縄返還と民衆運動の間には不可分の関係がある。そもそも、米軍のベトナムからの撤退は、アメリカの学生や市民、退役軍人らが戦争継続に反対したからにほかならない。今年は沖縄の本土復帰50年目にあたる。

ピアノ調の音で「沖縄をかえせ」を聴くことができます。左端の三角印をクリックしてください。

①『OKINAWA JINTA』

八重山の唄者として有名な大工哲弘が歌う「沖縄を返せ」である。島津藩、大日本帝国、アメリカ、日本政府…、沖縄の人々は長いこと抑圧と対峙してきた。とんがっていては折れてしまう。根気よく闘い続けるコツを、よくこころえている。この何とも肩の力が抜けたような大工の歌いっぷりは、沖縄そのものを象徴しているかのようだ。アルバムにある「満州娘」や「東京節」など、自由民権運動から100年の時を越え、民衆の間に連綿とつながる権力との闘いを感じさせるものとなっている。

::: 収録曲 :::

  1. マクラム道路
  2. カチューシャの唄
  3. ラッパ節
  4. 満州想えば
  5. 満州娘
  6. 奄美小唄
  7. 籠の鳥
  8. 東京節
  9. 書生節
  10. 汗水節
  11. あきらめろ
  12. 安里屋ユンタ
  13. 沖縄を返せ
  14. 新港節
  15. さよなら港
  16. 川平線風景

②『チバリョー ウチナー』

1971年6月17日に日米間で署名された《米国との沖縄返還協定》では、沖縄の施政権が日本に返還されるとなっており、日本の沖縄領有権については触れていない。また、《ポツダム宣言》が、「日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに我々の決定する諸小島に限られなければならない」とする《カイロ宣言》を前提としたものと考えれば、沖縄を含む琉球列島を日本領とするには、幾ばくかの無理がある。

1972年、沖縄は日本に返還されたのであるが、沖縄に住む人々のもとへは返ってこなかった。日本の行政下に組み込まれたのは確かだが、米軍基地は占領時代と変わらず、それどころか、本土の基地が縮小されるに伴い、沖縄の基地負担率は高まる一方だ。住民の意思は反映されず、米兵による事件や事故については、一次裁判権がないなどの治外法権がまかり通り、札束で頬を張るかのようなアメとムチの政策がまかり通っている。そんなところに、民主主義が存在する道理などなかろう。香港やミャンマーで起きていることに憤りを感じながら、こと沖縄に関しては無関心を装ってきた私たち日本人。今、私たちの誠意がためされている。

このアルバムを企画・構成した大工哲弘。沖縄歌謡の重鎮になった今なお、アマチュアであることにこだわり続ける頑固な唄者である。そんな彼の「沖縄を返せ」を聴いてみてほしい。歌詞のどこが違っているか、お気づきだろうか。たった一箇所、わずか一文字の違いである。しかし、まさにそこが重要なところなのだ。なお、ここでクラリネットを吹いているのは《ジンタらムータ》の大熊亘である。

::: 歌詞 :::

かたき土を破りて
民族のいかりにもゆる島
沖縄よ
我等と我らの祖先が
血と汗をもて
守りそだてた沖縄よ
我等は叫ぶ 沖縄よ
我等のものだ 沖縄は
沖縄を返せ
沖縄へ返せ

怒りに燃えているのは誰か?それは日本人なのか?違うだろう。怒りに燃えているのは沖縄に住む人々である。だとすれば、「民族のいかりにもゆる島」ではなく「県民のいかりにもゆる島」とすべきだ。そういう主張がある。なるほど、わかる気がする。

しかし…、である。沖縄に住む人々は、私たちと同じ民族なのか?日本は単一民族の国であると、無条件に信じ込んでいる人もいるが、そうではない。京都大学が研究のために、琉球人やアイヌの墓から人骨を盗んだのも、まさに違う民族だったからにほかならない。

1903年の《人類館事件》をご存じだろうか。大阪の天王寺で開かれた《第5回内国勧業博覧会》の「学術人類館」において、民族衣装を着たアイヌ、琉球人、朝鮮人、中国人、台湾の高砂族、インド人、ジャワ人、トルコ人、アフリカ人などの32人を“見世物”にし、沖縄県と清国から抗議を受けた事件である。日本人は、沖縄に住む人たちは自分たちと違う民族であると、この時すでに認識していた証左であろう。

沖縄は、私たち日本のものである以前に、沖縄に住む人たちのものでなければならないはずだ。そんな当たり前のことを言わねばならないとは、なんと恥ずかしいことであろうか。

::: 収録曲 :::

  1. 沖縄を返せ(大工哲弘)
  2. 谷茶前(大工哲弘、ツゥンダラーズ)
  3. 望郷哀歌(大工哲弘、ツゥンダラーズ)
  4. ひかり(寿)
  5. 与那国ぬ猫小(寿)
  6. 流りゆく白雲ぬ如に(寿)
  7. 気張りヨー(MA-YA)
  8. 福々(MA-YA)
  9. 漲水ぬクイチャー(垣花暁子)
  10. 西原ぬ子守唄(垣花暁子)
  11. 安里屋ユンタ(大工苗子、新垣優子、なびぃ、垣花暁子)
  12. 南国の四季(ツゥンダラーズ)
  13. つぅんだら(ツゥンダラーズ)
  14. がんばろう(大工哲弘、その他総出演)

③『沖縄かがやけ』

アジア太平洋戦争では、本土防衛のための時間稼ぎとして“捨て石”にされた沖縄。本土の独立回復と引き替えに、米国への“貢ぎ物”とされた沖縄。安倍内閣は、2013年、辺野古新基地建設に反対する沖縄の民意を逆撫でするかのように、沖縄を切り捨てたサンフランシスコ講和条約の発効日を「主権回復の日」と定め、「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」をおこなうという愚挙に出た。沖縄は三度、捨てられたのである。

先にあげた二枚のアルバムの「沖縄を返せ」を聴いていただいたわけだが、本土に暮らす私たちの無関心、無責任、優柔不断など気にかけず、ヤマトンチュのちゃらんぽらんさに期待することもなく、沖縄はひとり立ち向かい、自分たちだけで歩いて行こうとしているかのようだ。それが、高田昇の詩による「沖縄かがやけ」だろう。

::: 歌詞 :::


深く悲しみ眠らせる 光ふり花咲き
燃ゆる島沖縄よ 島うた流れて人の願い叶える
平和を伝える沖縄は 心癒せ沖縄に 夢よ遊べ沖縄に
沖縄かがやけ 沖縄かがやけ

高く翼広げて 空に向け
未来をえがく島沖縄よ 白雲流れて人の誓いを伝える
戦はいらない沖縄は 心おどれ沖縄に 夢よはしれ沖縄に
沖縄かがやけ 沖縄かがやけ

遠くかなたに望みおき 海を架け
世界につなぐ島沖縄よ 南風(はえかぜ)流れて人の誠届ける
平和を伝える沖縄は 心みたせ沖縄に 夢よむすべ沖縄に
沖縄かがやけ 沖縄かがやけ

このアルバムは、大工哲弘が奄美、沖縄、宮古、八重山、北から南まで1,200kmに及ぶ琉球弧の唄者を集めてプロデュースしたものである。

沖縄は、もはや私たち日本を必要としていないのか。少なくとも、彼ら・彼女らは、私たちとは別の地平、もうひとつの世界を目指している。沖縄を、私たちの中でしか通用しない近視眼的な尺度で計り、同情や憐憫を求めていると思ったら、それは大間違いだろう。民主主義とは、形だけではなく、それを獲得するまでのプロセスを含めた行為こそが、その本質である。棚ぼたで民主主義を“与えられた”私たちより一段上の、ベルリンの壁を崩壊させしめた民衆、今日、香港やミャンマーで、民主主義の実現を求めて闘っている民衆と同じステージへと上がってしまっている。学ぶべき、助けを必要としているのは、ほかならぬ私たちの方なのだ。ただ、そのことに私たちが気づいていないだけで…。

::: 収録曲 :::

  1. 沖縄かがやけ(大工哲広)
  2. 島々清しゃ(ツゥンダラーズ)
  3. 豆が花(下地暁)
  4. さざなみ(島さち子)
  5. 豊年節(RIKKI)
  6. ニーリ ~祈~(下地暁)
  7. めんそーれ沖縄(島さち子)
  8. 与那国ションカネー(大工哲広)
  9. いかんにゃ加那節(RIKKI)
  10. つぅんだら慕情(ツゥンダラーズ)
  11. 六調―八重山・奄美~唐船どーい(大工哲広/RIKKI with 築地俊造)
  12. 命どう宝(大工哲広)

(しみずたけと) 2022.1.19

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「ジンタで歌う「沖縄を返せ」」への1件のフィードバック

  1. NHK朝ドラに大工哲弘が出演していた!
    びっくり!
    しかしねー、沖縄戦の悲劇にも今に至る基地問題にも
    まったく触れることなくストーリーが作れるなんて、
    なんてスゴい才能だろう。
    感心してしまいました!

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