クリスマスがやってくる…


 感謝祭がすぎ、クリスマスが近づいてきた。そろそろ飾り付けを始める家もあるだろう。お歳暮やら正月のおせち料理だとか、何かとせわしない時期ではあるが、子どもたちにとってはワクワクする季節でもある。和洋中華、料理だけでなく宗教的行事まで世界中から取り入れてしまう、この国ならではの忙しさと楽しさの同居といったところか。

 そうはいっても、やはりクリスマスはキリスト教文化である。誰もが知るように、中東の砂漠に生まれたこの宗教はユダヤ教の中から生まれた。イスラム教とも関係が深い。同じ場所に根を持つ三者は、いずれも一神教である。

 砂漠という過酷な地に生きる人たちは、信仰も他者への対応も苛烈になるものなのか。しかし、ユダヤ教の厳しい戒律に対し、「人はもっと寛容になるべきだ」というアンチテーゼから生まれたのがキリスト教だったのではなかろうか。聖書を読む限り、原始キリスト教はそうであったはずだ。迫害者であったローマ帝国の国教となり、権力と結びつく以前のキリスト教は…。

 そう思うと、たとえ信仰とは関係のない年中行事や単なるイベントとなっても、あるいは歳末商戦に見られるビジネスに堕したとしても、権力に利用され、踊らされ、人を傷つけるような攻撃的なものよりはずっとマシだ。信仰は論理的な説明や整合性を必要としない性質を有する。権力にとって、これほど利用しやすく、かつ大きな影響力を持つ道具はない。クリスマスの音楽も、やや引き気味に聴くくらいがちょうど良いのかもしれない。

 2021年は、1000年以上前のクリスマスを祝う歌、クラシック、少し前のポップスなど、10種類ものクリスマス・アルバムをとりあげた。昨年はウクライナ戦争で心が乱れたこともあって、チャイコフスキーのバレエ音楽『くるみ割り人形』、全曲版と管弦楽組曲の二種類を紹介するだけでお茶を濁してしまったが…。

 今回とりあげた四つのアルバムは、特に目新しさを引くものではない。英国にいたときに手に入れたものと、楽器をブンチャカ鳴らしていた若い時分を思い起こさせるものだ。


::: C D :::

《 Music for a TUDOR CHRISTMAS 》

 まずは英国テューダー朝時代のクリスマス音楽。15世紀後半の薔薇戦争で、ウェールズにルーツを持つランカスター家がヨーク家を倒し、イングランドとアイルランドを統治した時代である。この頃、まだスコットランドは別の王国であった。後半に登場することになるヘンリー8世、エリザベス1世と、大英帝国への上り階段を駆け上がろうという時代。ローマ・カトリックと袂を別ち、英国国教会が成立し、宗教と政治ないし国家の関係が大きく変わろうとする時期でもあった。

 国教会の儀式や典礼は、カトリックのそれとほとんど変わらない。だから音楽も、中世から続く聖歌の伝統をそのまま引き継いでいる。しかしながら、民衆の間の音楽や歌が浸透し始めていることがわかる。キリスト教が、聖職者の間だけでなく、再び民間に降りてきたといって良いだろうか。

1.Quid petis, o fili? (Richard Pygott)
2.Nowell: Dieu wous garde (Richard Smert)
3.Videte miraculum (Thomas Tallis)
.Lully, lulla, thow littel tyne child (anonymous) ‘The Coventry Carol’
5.Gloria from Missa Puer natus est nobis (Thomas Tallis)
6.Lullaby, my sweet little baby (William Byrd)
7.Swete was the song the Virgine soong (anonymous)
8.This day Christ was born (William Byrd)
9. Jesu mercy, how may this be (John? Browne)
10. Verbum caro (John Sheppard)

合唱:Cambridge Taverner Choir
指揮:Owen Rees
録音:1993年


《 CHRISTMAS MUSIC from Medieval and Renaissance Europe 》

 こちらは中世の英国と大陸のクリスマス音楽。作曲者を見てわかるのは、英国の方は作者不詳、伝承歌謡が多いこと。テューダー朝のクリスマス音楽のCDとも共通する。ザ・シックスティーンは、その名の通り、16人のメンバーによって1977年に結成された、古楽と宗教曲を得意とする英国の合唱団である。YouTubeで探すと、このCDに収録された曲を含め、いろいろ見つけられるだろう。

from England…

1.Puer natus est nobis (plainsong)
2.Nowell, nowell: in Bethlem (anonymous 15c)
3.Gaudete (traditional)
4.Nesciens Mater (Walter Lambe)
5.The Song of the Nuns of Chester (traditional)
6.Coventry Carol (traditional)
7.The Boar’s Head Carol (traditional)
8.Videte miraculum (Thomas Tallis)

from The Continent…

9.Quem pastores laudavere (traditional)
10.Pueri, concinite (Jacob Handl)
11.O magnum mysterium (Jacob Handl)
12.Resonet in laudibus (Jacob Handl)
13.In dulci jubilo (traditional)
14.Riu, riu chiu (traditional)
15.Nesciens Mater (Jean Mouton)
16.Omnes de Saba (Orlandus Lassus)

合唱:The Sixteen
指揮:Harry Christophers
録音:1987年


《 Adeste fideles:Christmas Music from Westminster Cathedral 》

 ロンドンにあるウェストミンスター大聖堂の聖歌隊によるクリスマス音楽。ダイアナ妃や先日のエリザベス2世女王の葬儀で有名なウェストミンスター寺院と混同されがちだが、あちらは国教会の修道院、こちらはカトリックの大聖堂である。今日よく歌われる聖歌が選ばれているので、どちらかといえばキリスト教文化とは縁遠い私たちにとっても、なんとはなしになじみ深いものが多い。

1.O come all ye faithful
2.Gabriel’s Message
3.O come, o come, Emmanuel
4.Once in royal David’s city
5.Ding Dong merrily on high
6.A maiden most gentle
7.I wonder as I wander
8.O little town of Bethlehem
9.In the bleak mid-winter
10.In dulci jublio
11.The Three Kings
12.Of the Father’s love begotten
13.Away in a manger
14.Bethlehem Down
15.The holly and the ivy
16.I sing of a maiden
17.Silent Night
18.Sing Lullaby
19.The Lamb
20.Welcome, Yule!
21.Hark, the herald angels sing

合唱:Westminster Cathedral Choir
指揮:James O’Donnell


《 そりすべり 》

 よく知られたクリスマス賛美歌をメドレーにした「クリスマス・フェスティバル」から始まるライトなクラシック。ルロイ・アンダーソン(1908~75年)は、「ラッパ吹きの休日」「シンコペーテッド・クロック」「タイプライター」など、吹奏楽をやっていた者なら誰もが知っている作曲家。他にも、クリスマスにまつわるクラシックからポピュラー名曲まで、この季節のBGMとしてうってつけの一枚だろう。

 演奏するボストン・ポップス・オーケストラは、米国の名門ボストン交響楽団がシーズン期間外に、音楽の普及を目的としたポピュラー・コンサートで演奏するときの名称である。アーサー・フィードラー(1894~1979年)が1930年から1979年の長きにわたり率い、その名を世界的なものにした。1980年から93年は、「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」の音楽で知られるジョン・ウィリアムズ(1932年~)が首席指揮者を務めていた。

1.クリスマス・フェスティバル:もろびとこぞりて~ひいらぎかざろう~世の人忘るな~ウェンセスラスはよい王様~天には栄ええ~牧人ひつじを~きよしこの夜~ジングル・ベル~神の御子は今宵しも(ルロイ・アンダーソン
2.ハレルヤ(ヘンデル『メサイア』より)
3.主よ、人の望みの喜びよ(バッハ)
4.パストラーレ(バッハ『クリスマス・オラトリオ』より)
5.無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番よりアダージョ(バッハ)
6.羊は安らかに草を食み(バッハ)
7.ドリーム・パントマイム(フンパーディンク『ヘンゼルとグレーテル』より)

8.金平糖の精の踊り(チャイコフスキー『くるみ割り人形』よリ)
9.葦笛の踊り(同上)
10.花のワルツ(同上)
11.橇すべりの音楽(レオポルト・モーツァルト)
12.そりすべり(ルロイ・アンダーソン)
13.サンタが街にやってくる(フレッド・クーツ)
14.赤鼻のトナカイ(ジョニー・マークス)
15.ホワイト・クリスマス(アーヴィング・バーリン

指揮:アーサー・フィドラー
演奏:ボストン・ポップス・オーケストラ

録音:1970~76年


(しみずたけと) 2023.11.25

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