孤高の人、悩める人

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ブルックナー:交響曲第3番ニ短調

 ブルックナーがリヒャルト・ワーグナー(1813~83年)を敬愛していたことは前に書いた。この交響曲第3番は、ブルックナーがワーグナーに献呈したことから『ワーグナー』の題が付けられている。版は六つかそれ以上あり、第1稿が完成したのが1873年で第2稿が1877年。1888年、大幅な改訂に着手し、翌年に第3稿として完成をみた。この間、16年。交響曲第8番を改訂した時期と重なっている。

 第3稿は、第1稿、第2稿に比べて短縮され、無駄を省いて洗練された結果、より効果的な音楽となっている。第1稿にあったワーグナーの楽劇からの引用も減らされた。そのおかげかどうかはわからないが、第1稿の初演がかんばしくなかったのに対し、第3稿による初演は大成功だったという。反面、荒々しいまでの幻想性の噴出、豪快さが渦巻くブルックナーらしさが影を潜めてしまっていることも否めない。ワーグナーに対する思いが薄れでもしたのであろうか。

 敬虔なカトリック信徒で、教会のオルガニストでもあったブルックナーは、常に天上の世界を見ていた。彼の作品は、宗教曲はもちろんのこと、交響曲も世俗とは一線を画し、神への祈り、神への感謝に充ち満ちている。ワーグナーを尊敬はしていたが、ある意味、世俗的な名声を求めたワーグナーとは正反対の立ち位置にある孤高の人だった。それゆえ、苦悩も多かったのではあるまいか。作曲者本人がこの第3稿を決定稿とした事実は尊重すべきだが、彼の人生をあれこれ想像しながら聴く交響曲第3番というのも、いろいろな意味で興味深いものだ。


::: C D :::

1)セル盤(1889年 第3稿 ノヴァーク版)

指揮:ジョージ・セル
演奏:クリーブランド管弦楽団
録音:1966年


 

2)インバル盤(1873年 第1稿 ノヴァーク版)

指揮:エリアフ・インバル
演奏:フランクフルト放送交響楽団
録音:1983年


(しみずたけと) 2025.6.12

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