なぜタリバン?

今回のタリバンによる政権掌握について、メディアは「青天の霹靂」のような報道をしていますが、そんなことはありません。肌で感ずる現地の住民たちにはわかっていたことでしょう。気づかなかったのは、警備厳重な壁の内側でノホホンと過ごしていた大使館員くらいなものです。(逃げ足は速かったけれど)

とにもかくにも内戦を終わらせ、治安を安定させたタリバン。90年代には原理主義による恐怖社会を築くわけですが、はたして今回はどうなるのか? 女性が大学に通うのはOK、しかし男女共学はダメ。思想に影響するので、哲学とか歴史はナシ。学んで良いのは、要するに役立つ実学ということです。就労も、医学とか女子校教員など、きわめて限定的。まぁ、先進国を自称する国でも、英語やコンピューター、コミュニケーション能力に力を入れる大学が増え、政府が文学部など不要と言い出す国もあるのだから、それほど驚くこともないのですが…。

いずれにせよ、タリバン政権に女性閣僚はいないだろうし、いたとしても操り人形に違いありません。そもそも、こうした方針を打ち出したのは“男だけ”の集団です。基本的に、タリバンはタリバン、原理主義であることは変わっていません。そんなことは、アフガニスタンに住む者は、みなわかっていることです。

みんなの嫌われ者のタリバンが武器で国中を席巻? そうではありません。彼らには一定の支持基盤がありました。外国軍による占領状態、それに支えられた腐敗した政権。政権の中枢には、ソ連撤退後の内戦で国中をメチャメチャにした武装集団である軍閥が居座っていました。彼らは原理主義者なので、女性の人権とか民主主義などは、西側世界に対するポーズだけ。内実は、タリバン政権時代と大きく違わなかったのです。外国人ジャーナリストや支援団体にとっては、多少は活動しやすかったのは事実だとしても…。

そんな占領と腐敗の政権にウンザリしていた人たちにとっては、「タリバン時代の方がマシだった」「帰ってこい、タリバン」となるのは不思議でも何でもありません。テロとの戦いを標榜する外国の軍隊による人権侵害、誤爆による民間人死傷。家族や友人を殺された者がタリバンに加入…、そんな例は枚挙にいとまがありません。また、汚職だらけの政権の下、ろくに賃金も支払われない軍や警察の中には、日中はアフガン軍人あるいは警察官、夜はタリバンという者も…。

こうした実状は、アフガニスタンの人々にとっては周知のこと。ただ、国外で生活する基盤もなく、脱出方法もない人たちには、どうしようもなかっただけです。そこへ降ってわいた各国の脱出劇。一縷の望みをかけ、空港に殺到し、飛行機にしがみついたというわけです。あの光景に衝撃を受け、新聞やテレビなどのメディア、インターネットでも話題を集めていますが、じきに忘れ去られることでしょう。なにしろ、私たち日本人には、いや先進国に住む人たちにとっては、“自分に関係ない”ことですから。

沖縄や福島など、国内であっても見て見ぬふりできる日本人にとっては、なおさら…。私たちが対峙しなければならないのは、そうした無意識、無関心、そして無慈悲な人たちであることを忘れてはいけません。


(しみずたけと)

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